十四話
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彼らは静かにそこから館へ向けて駆け出した。
一夜を明かしたセルチアの朝はあまりにも心地よい空気であり、それぞれの旅立ちを見送るように教会で羽休めをしていた白い鳩が飛び立った。
森に入った一同はパーシヴァルが当初一人で対応していた広い場所に出るなり、気付いたらしいジルの海魔たちが突如飛び出して彼らに襲いかかる。聖杯を彼らが得たものとは異なる魔力を持ったカルデア一行は夜に比べてやはり力が劣っている海魔をなぎ払い、思っているよりも問題は無いかと思ったものの、それはやはり杞憂でしかなかった。
「おぉ、おぉ、我が妻、ジャンヌよ、お戻りになられたのですね!!」
「現れましたかジル。私とあなたは良き戦友ですよ」
「恥じらっておられるのですね。分かっておりますとも、私はあなたの全てを理解しております!」
そしてだからこそ、殺したい ──穢したい──
森の奥から現れたジル・ド・レェはジャンヌを見つけるなり恍惚とした眼差しでみつめては力強い愛の言葉を投げかけるが、ジャンヌはそれを受け入れることはなく。彼の隣にいた純白の騎士パーシヴァルが海魔を貫くなり声を上げた。
「魔術師よ!いくら彼女が美しい聖女といえど、その紳士らしからぬ言葉は騎士として見過ごせないな!」
「白馬の騎士を気取ってるつもりか円卓の騎士め……まぁ構いませんッ、この森で聖杯の泥と共に我が同胞に食われるがよい!」
そういってジルが人の皮が貼られた魔導書を開いて詠唱を始めればさらに魔物が増えていき、直ぐに彼らは囲まれてしまうものの藤丸はそれを見越しており、魔力は無限でも止まない雨がないように止まらない召喚もないはずで、ここは耐久戦になることも理解していた。
「エルキドゥッ───早速頼むよ!」
「任しておくれマスター」
こんなに醜い魔物がいたら森のみんなが眠ることもできないからね。──と小さく微笑んだエルキドゥが地面に手を添えて森の声に応えるように飛び上がった。
まるでそれは天の裁き、ギルガメッシュの空に瞬く黄金の武器の数々のように神々しく。それはセルチアの神聖なる地と聖人の祈りがさらに神の兵器たる彼に力を与えてくれるからだ。
そして溢れる魔物たちが襲ってくると同時にエルキドゥの鎖が地面や空からまとめて敵を貫いたものの、やはりそれだけで敵はさらに奥から溢れるとき、テスラが用意していた通信デバイスからホームズの声が聞こえた。
『館の方から強い魔力反応確認、ブランクの"抽出"がまた再開したようだ』
それは聖杯の力が再度ジルに注がれ、さらにエクレールの記憶の抽出が進められているという事実であり。テスラは思わず館の方向を睨みつけるが魔物の数は減ることは無いものの、藤丸は宝具の解放も許可するためエルキドゥは用意をした。
「ここで道─未来─を開けようか」
そういって笑ったエルキドゥが宝具を解放すると地面が震えた。
神たる兵器の宝具は本来こんなものに解放するレベルでは無いが耐久はあれど時間勝負がある。館に向けて空に雲が集まり、またブランクの発明が電気を呼ぼうとする姿はニューヨークで見た悪夢によく似ていた。
しかし今はあの時同様に仲間がいる。
エルキドゥが宝具を放つと同時に前方の敵一帯が綺麗に刈り取られたようであり、さらに現れようとする敵についてパーシヴァルが応戦をし、二人の手で抑え込むことが出来た。
「さぁ早く行ってくれ!!」
「恩に着る!誠実の騎士!!」
パーシヴァルの声に返事をするテスラに藤丸とマシュ、そして続いてジャンヌが館に向けて駆け抜けた。
走り続ける四人だったが、敵は無限に沸き上がり、テスラ以外に攻撃特化の宝具を持つものはおらず、エルキドゥの鎖による支援はあれども足を止められるのも事実であるときだった、
駆け抜ける藤丸に海魔の触手が伸びた。反対から来る攻撃を守ろうとしたマシュも他に手を取られたテスラもジャンヌも呆気を取られた時。鋭い銃声と共に海魔の伸ばされた触手が千切れ落ちた。
『無事か?藤丸』
「ライニールさん!!」
『対魔専用の魔弾だ、名探偵監修だから問題ない、このライフルは俺個人のものだから勘違いするなよ』
「はっ、はい!ありがとうございます」
『館までの支援は俺が応じるから進め』
通信機から聞こえたのはライニールの声であった。
数百メートル離れた位置からスナイパーライフルでの援護射撃のようで、ホームズが監修したというそれは魔物の眉間や急所を射抜くと一発で倒していく。
通信機越しにホームズがライニールは軍時代から狙撃では部隊一だと言われてたのは本当なのだなというと、彼は若い頃に狩猟が趣味のおかげだと笑ったのが聞こえ。彼らが先に進むと館がみえるものの、戻ってきていたジルが彼らを待ち受けていた。
「今日は我がマスターとその花嫁、そして私と新たな妻との婚礼の日であるのに、何故邪魔をするのですか」
「おや?貴様らマヌケコンビは知らん様だが、結婚とは神に誓うものだが、そんな誓いさえ出来ない男が女性を幸せにできるとでも?」
「……ッ貴様ァ!私はもちろん、我がマスターでさえ侮辱するのか!我々は神に誓っている!私はジャンヌを、我が妻を誰よりも幸せに殺してみせると誓ったのだ!」
ジル・ド・レェの言葉にテスラが返事すると怒りを活性化させるものの、ジャンヌが先頭に出るなり、その旗が大きく揺れた。
真っ直ぐとした神を信じる聖女の瞳がかつての友人と同じ見た目をした、別の逸話の混じった似て異なる男を見つめては告げる。
「ジル……貴方の魂の穢れは私が救ってあげましょう!/!」
『聖女よ、僅かながら支援する』
「はい、お願いします!皆さんは早く中へ!」
ジル・ド・レェはジャンヌに興奮してはさらに詠唱を始めると、ジルの手元の本からは巨大なクラーケンのような海魔が溢れ出てはジルは飲み込まれるようになり、館よりも巨大な、森を喰らわんとせん化け物が現れるものの、藤丸は「またこのパターン?」と小さく呟くのを全員が聞かぬふりをした。
聖杯から溢れる力が注がれた様子のジルの様子にたじろいでいた時、森の一角から拍手と笑い声が聞こえた。
それは紛れもなく、あの悲劇担当の作家サーヴァント、ウィリアム・シェイクスピアだった。中立を極めて観客を務めると言っていたはずの陣営だったが何事かと思えば彼は自身の手元の本を開いており、そこからは強い魔力が流れており。さらにシェイクスピアの背後からはマスター、グスタフ・マルコーニが不機嫌そうに現れた。
「いやはや、聖女と化け物!なんと素晴らしい!結ばれぬ一方的な愛と醜いその心、あぁ興奮が止まない!」
「ウィル……いいから、やってくれ」
「ええもちろんですよ、マスター……いや我が友グスタフ、あなたの望みに答えましょう!」
そういうとシェイクスピアは笑みを深めてジャンヌを見据えて声高らかに口上を述べる。
「いざ開演の時!」
「舞台劇の始まりだ!撮影・録音・お喋り禁止!我が宝具の題名は『開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を(ファースト・フォリオ)』!!」
「――開演!」
それは本来カルデアにおいては攻撃的な宝具であるはずだった。
しかし歴史学者グスタフの性質やシェイクスピアのスキルなども重ねられているためか、ジャンヌを補足するなり、ジャンヌに強い力が注がれ眩い光が聖女を纏った。
「聖女に幻想を与えるとは吾輩も罪深いですな」
「ありがとうございます!さぁ行きますッ───」
「たかだか物書き如きがなにをッ──!」
『グーフィ、お前俺にまでスキル強化をさせたな?』
「そのダサいあだ名で呼ぶなよラニィ」
ジルがその怪物となった身でジャンヌに襲いかかろうとした途端、ライニールの魔弾がジルの目元を貫き、醜い紫のような血が溢れた。
威力からしてシェイクスピアの宝具がライニールの魔弾にも乗ったようであり。彼がグスタフにそういうと互いに口角を僅かに上げて笑うのみだった。
そして魔力の消耗故か周囲の敵をなぎ倒してやってきたパーシヴァル、エルキドゥも合流し、ジルへの応戦をすることとなり、テスラは藤丸とマシュに声を掛けて館へと足を運んだ、
数時間前に破損した状態はそのままであり、中央階段の奥を見ることができ。そこにはブランク・ハリー・ホワイトが既にいたものの、彼は一階のテスラたちが来たことを見下ろした。
「また邪魔しに来たのかカルデア……お前たちの記憶をアヴニール越しに読んだが、お前たちも全くなことをしてるじゃあないか」
自分たちの世界を守るために他よ人類史を焼いたんだろ?
ニコラ・テスラもアヴニールのために自分のもうひとつの可能性がある世界を滅ぼした。
「お前たちのしていることは野蛮だ」
「女に手を上げる男は野蛮ではないのか知らなかったな」
「数世紀前なら女に人権などなかった、殺されようと罪にもならなかったんだ、今の時代だからそんなことを言うんだよテスラ博士」
女と恋愛したこともないあんたには分からないか。とブランクが鼻で笑うことにテスラは表情を変えない代わりに右手のガントレットの火花を強めるものの、ブランクは目の前の連中を相手に何も対策しないわけが無いと言うと指を鳴らし、それと同時に館の電気が落ちた。
「停電ッ!?」
「違うッ……貴様、この一帯の電力を完全にシャットダウンさせたのか!」
「そんな甘いことす?わけないだろ?このセルチア全体だ!!これでお前たちの魔力は制限される。そして私たちの方には"聖杯"がある!未来(アヴニール)があるッッ!」
──未来は我々のものなのだ!!
そういって笑うと同時にメインホールの両サイドの扉と正面扉が開き、三体のキメラが現れた。そのキメラ三体にはそれぞれ額に人間の瞳があった。
「そのキメラは希少だぞ?なんといっても昔に流行っていた"アヴニール狩り"で入手した"観測者の目"をつけてるからな」
「どこまで外道なんだ貴様ッ、それが科学者なのか」
「科学者だよ、人類のために歩んでいる、そしてその人類のための歩みとは"アヴニール"なのさ」
そう言い残して部屋の奥へと戻るブランクにテスラが怒りを抑えきれずにいれば、ジリジリと近づくキメラにマシュと藤丸の三人で対峙することとなり、睨み合っていたもののキメラは同時に襲いかかってきたことにマシュが盾を広げて攻撃を跳ね除け、テスラが電流を流してみるものの、キメラは予知したように機敏に避けた。
厳しい戦況の中、空が雷鳴を轟かせ、二階の奥に向けて落雷を放つと当時に姿が見えずともエクレールの悲鳴が聞こえた。それはブランクの観測者の記憶へ向けて進められているのがわかる。
「なんとか二階に上がらねば」
テスラはそう言ったものの、キメラがテスラのように雷を放ちテスラを攻撃するため、二階に上がることも困難かと思いつつキメラの攻撃を流した。
藤丸は自身が襲われかけるとなけなしの魔術礼装であるガンドを放ちキメラの行動を一時停止させたものの、残りの二匹の攻撃は止まずに二度目の雷霆が落とされる。
「あ"あ"あ"あ"ッッ!!」
痛々しいエクレールの声が聞こえ、テスラの意識がわずかにそちらに向くとキメラの鋭い爪が彼に向けられた。
「ハァ───ッ観劇中は余所見は禁物だ」
その言葉と同時にキメラの額の目に向けて何かが張り付けられ、入口からは息を切らしたグスタフがおり。彼がキメラの額にある"観測者の目"に札に似たようなものを貼り付けたのだと理解する。
「額の目は抑えた。あれがメインの目だから、これで少しは時間を稼げるはずだ。はやく上にいけ!」
「感謝します教授!!」
「一瞬だ、感謝しなくていい……」
───それに俺はあの男が嫌いだ。
誰に言う訳でもなく呟いたグスタフの声は各所の激しい戦闘音によってかき消されたのだった。
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