十五話
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部屋の中には設置されたテスラコイルなどから放たれた電気が部屋の中で飛び散っており、テスラが数時間前に損傷を与えた機械もまた歪に稼働をしており。ブランクはまるで昼下がりの読書タイムのように優雅に本を読んでいたものの、顔を上げて彼らを見つめると手の中のスイッチを見せては一度押すとエクレールに電気が注がれ、また大きな悲鳴が響いた、
「エクレールさん!」
「エクレールIッ!
「先輩、テスラ博士、入ったら──ッッ!!」
思わず足を踏み込んだ藤丸とテスラに反応するマシュだったが、それは当然罠であり。踏み込んだ途端に三人に強い電流が流れ込み、地面に倒れ込んでしまう。
「飛んで火に入る…ってやつかな?単純だよ」
本を閉じてブランクはベッドの中で眠っているエクレールをみつめては、まるで眠れる姫を眺める王子のような顔で、彼女を撫でた。
数値はどれも問題なく進んでおり、記憶についてもバックアップが進んでいるのが機械の進行度からみてわかる。現代技術を用いてデータを取り込んでいたブランクは地面に伏した三人を見下ろすと不思議そうな顔をした。
「何故君たちはそんなに取り戻したいんだ?アヴニールの記憶は見たが、なんだあのアヴニールも役たたずじゃないか」
「ちが……う、エクレールさんは、僕らの大切な、仲間だ」
「何をしてくれる?事務員でサーヴァントの話し相手?あの女も"アヴニール"だからカルデアに呼ばれただけじゃないか、機能としては合ってるがな」
「彼女は人だ……貴様には、わからんだろうな」
「アヴニールを助手にして、あまつことさえ自分のモノに固定したのは素晴らしいですよ博士、流石は私の尊敬する方です。でもあんな女より魅了的な女は生前に見てきたでしょう?」
童貞だったから男を知ってるビッチに負けたのか?──とブランクが笑うとテスラは身体に力を込めるが、ブランクがスイッチを押すと、テスラに強い電流が流れる。
本来の電流であれば、彼の固有スキルなどで痛くも無いはずだが、サーヴァントに対応かつ対テスラといわんばかりの特殊なそれが流れると、テスラは力が出なかった。本来の供給目的の電力も止められている以上は為す術もなく。ブランクは地面に倒れる彼らを無視して自分のコーヒーを入れてまたベッドに腰掛けた。
「"価値"を見誤ってはならない。あなたがいったんだ"素材"は有限だと。だから"無駄"にしてはならないとな」
「貴様は相当なファンだ、な……サインでも書いてあげようか」
「あぁ是非「ブランク・アヴニールへ」と書いてくれたまへ」
それはもう夢まであと一歩と言わんばかりに嬉しそうにした姿であり。
ブランクは鼻歌を歌いながらベッドの上で横になるエクレールをみつめては、その左手のラピスラズリのブレスレットをみた。
それはニコラ・テスラが彼女を助手として迎えた時、太陽王オジマンディアスに頼んで譲ってもらった純度の高いラピスラズリであり、そこには魔女メディアからの知識を受けた技術なども入っており。テスラ専用のブレスレットである。
「自身の魔力の備蓄となり、余分な魔力は魔力の乏しいアヴニールに注いで魔術回路を広げる。さらに注いだ魔力から常に"観測者"を観測し、その魔力を辿って簡易召喚に似たテレポートも可能とする……無駄が無さすぎて感動するな」
魔術師である故にグスタフはテスラが作成したブレスレットの素晴らしさに歓喜の声を漏らす。こんなものが作れるのならば魔術師達にとってどれだけ素晴らしく、喉から手が出るほどに欲しいと思うものなのかを彼は語る。
実際かつてエクレールはそのブレスレットを求めて命を狙われたこともあり。テスラは自分が与えたものが危険性のあるものであるとはわかっていたが、それは彼女を守るためのものでもあり。彼女もまたそれを外すこともを求めずにそのままとなり。
記憶を失ったセルチアでも、最初に彼女を見つけられたのは機能を失う直前のブレスレットのお陰であった。
また雷霆が落ちるとエクレールの声が響き、繋いだ機械の数値がまた上がり、ブランクは上機嫌だった。窓の外ではジルが好戦を繰り広げており。彼はもうすぐで自分が未来を得られのだと思うと心地よさそうに、自分がアヴニールを知った時の話を始めた。
婚約者をきっかけだったが、どれだけ素晴らしい能力と可能性を秘めたものなのかと一人で夢中になるとき、ベッドの上のエクレールがピクリと動いた。
──夢を見てるようだった。
いつもよく夢を見るタイプで、現実か夢か分からないほど鮮明なものが多かったが、そこは空が暗く雷がゴロゴロと鳴っており、海岸が遠くに見えて、何処か塔のような場所にいた。
左手には手錠をつけられて、ガラスの檻の中にいれられて、全てを奪われる感覚を味わった。
『このまま"観測者"を抽出し、ひとつの機械にして電波に乗せて世界に広げれば世界は観測される。そして滅びゆく世界は救われる!!そして素晴らしいことに、人間という種はこれから百年、いや千年、いやそれ以上か?そうきっとそれ以上に電力を求めて使い続ける!聖杯の力も含めて完璧な機械化された観測者はその電波が流れる限り永遠に"観測"し続ける!!』
──そうすれば世界は、この地球は、永遠に安定される!!
黒いスーツの男はそういった。
自分が犯した罪を償うための手段なのだというが、目の前で死ねと言われたのは初めてのことだった。
死にたくない、どうしてこんな理不尽な目に遭わなきゃならないのか、何故普通に生きていただけなのに。何度泣いて叫んでも仕方がなかった。それが運命なのだと。けれどそれを思うことは「間違いではない」と誰かがいった。
『僕は愛する人たちが消えるのが怖かった、妻も子も、自分が仕えた王も、その国も人も、全てを残したいと思った』
ロッキングチェアに腰掛けた男がそういった。
こんな役割を押し付けてごめんねと謝って。
けれども、これまで観測者がいてくれてよかったと心から嬉しそうに笑った姿を見た時、エクレールは観測者とはそういう存在なのだと理解した。
どこまでも善人で、人を愛して、自然を愛して、この世界を愛した存在なのだと。
───ねぇ博士、私は博士のなんですか?
何処かの工房でそう男に問いかけた。
顔は分からない、誰かは分からない、だけどどうしようもなく愛おしいと思う人だ。
『君は私のアヴニール(未来)だ、光り輝く美しい私だけの未来だ、それ以上完璧な言葉は思いつけない』
いつだって自信過剰で尊大な振る舞いをするのに、そうして話をする時だけ照れくさそうに、だけどどこか胸を張っていう彼が好きだと感じた。
何度も夢を見るのだ。
喜びも悲しみも怒りも困惑も痛みも快楽も幸福も憎しみも恨みも愛も。
全てが混ざった歴史のような人の夢々が好きだ。
その中でも光の強いものが好きだと思った。
エクレールは薄く目を開いた。
似たような場所で今度は彼が倒れている。
名前を呼んでいる彼にエクレールは左手を伸ばすとラピスラズリが輝きを宿した。
「テスラ博士ったら……床でまた寝ちゃって……」
ダメだよ……。
微睡む意識の中でそういったエクレールにテスラははっきり言葉を聞くと、そのラピスラズリのブレスレットが光を放ち、テスラに魔力を注ぐのがわかった。それは彼がブレスレットに潜ませている自身の純魔力であり。それを受け入れると直ぐに力が戻る感覚を味わい。ブランクの不純な電力を弾いて見せた。
「何故ッ!?アヴニールか!クソッまだ足りてなかったかッ──!」
「それ以上、我が助手への暴行並びに侮辱は許さん。法廷ではなく、この私自らが裁いてみせよう!」
ブランクはテスラに気付き、サイドスイッチに手を添えたがテスラはすぐさまそれを電流で弾くもののブランクは直ぐにキメラたちを向かわせようと声を荒らげるが、テスラは自分に戻った魔力を強く感じながら右手を空へ掲げては神のごとくその身を浮かせてブランクを見下ろした。
「本物の光を知らぬ罪人よ、教えてやろう。……神の雷霆は此処にある。さぁ、ご覧に入れよう!『人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)』!!」
「まっ─────!!」
ブランクが静止することも聞きもせず、テスラはその雷霆をブランクの機械と外のジル・ド・レェに向けて放つと、機械は木っ端微塵となり消し飛び。雷霆を受けたジルの動きも完全停止となり。
それをみたジャンヌが旗を掲げて最後だと言わんばかりにジルに向けて攻撃を放ち、ジルの海魔で覆われた肉体が崩れていくのが見受けられる。
「抵抗しないのか……と聞きたいところだが、令呪を使い切ってるのだろう?」
テスラは静かにつぶやくとブランクは何も言えなかった。
彼は当初の召喚の際にジル・ド・レェを召喚した際にアヴニールの件で彼と意見を違えたのだ。
それまではまだよかったが、エクレールが現れた際に自分を拒否する彼に愛を受け入れろと三種命じた。ジルはこの聖杯で命令に逆らわない。自分を受け入れる。アヴニールを受け入れる。たかだかその程度に彼は使い果たすような愚かな男であり。すっかりと敗北した彼は神々の雷霆よりも恐ろしいそれわ味わっては腰を抜かしたが、テスラは一瞥もせずにベッドで横たわる白いドレスを着て傷だらけの彼女をみつめては乱れた髪を整えた。
疲れきって意識を手放した彼女がテスラに撫でられると眉間に皺を寄せて唸ることに口角を緩めて、テスラは彼女を優しく抱き上げると、またブランクの傍を通り過ぎる間際に告げた。
「貴様は彼女になど遠く及ばん。過去に縛られ、未来を固定しようとする。自分で歩みもできない者に得られるものなど何も無い」
そういったテスラにマシュと藤丸も何とか立ち上がり、外のジルも消滅しかけてると報告を受けて、これ以上は戦うこともないとしてその場を後にした。
ブランクを見る者は誰もおらず、一人残されたブランクは顔を歪めた時、一つの足音が聞こえたかと思うと、それは彼の前で止まった。
それはグスタフ・マルコーニだった。
「観客だと言っていたはずだろ」
それまで聖杯戦争が始まり、ずっと自分は傍観者だといって参加してなかったはずの男が何故だと思った。あの刑事と古い付き合いだから、それともカルデアに動かされたのか、それとも聖杯が欲しかったのかと嘲笑するように笑うとグスタフは拳を握った。
「お前は婚約者の名前を覚えてるか?」
「なにを……いうんだ」
「彼女は私の妻だ」
その言葉にブランクは目を丸くしてみつめた。
しかし、グスタフは忘れていなかった。
妻が結婚前日に相手から逃げたこと、愛し合った時間はたしかにあったが、いつからか自分ではなく"アヴニール"しかみなくなったと。
グスタフはアヴニールというか系について話を聞いたが彼女の手を取り「私は君だから愛したんだ」といって結婚を誓った。決して彼女の名前を忘れないと告げて。
だからこそ、この男が許せなかったのだ。
結婚してもなお、過去の愛を忘れられない妻を責められず、妻を傷つけた男が現れたら絶対に名前を覚えてるのか?と聞いてやるつもりであったが、聖杯戦争が始まり、アヴニールが現れてさらに活発な行動をしてアヴニールを求める男。
妻と子は聖杯の泥で亡くなったグスタフは絶望ゆえにこんな戦争のことなどどうでもいいと思ったが、今回に関しては、エクレール・アヴニールについては傍観者ではいられなかった。
「彼女は不貞など働いてもない、ずっと誠実にお前を愛していた、結婚してもなおな……お前が最初に裏切ったんだ」
「それを言ってどうなる」
「どうもしない、ただ彼女の名前を覚えてるのかって聞きたかっただけさ」
そう言い残して去っていったグスタフに、暗い部屋で残されたブランクは自分のポケットに入れてある手帳を取り出して、そこに挟んである一枚の写真を見た。
そこには美しいウエディングドレスを着た女が試し撮りされて嬉しそうに微笑んでいた。試し撮りで記念にと貰った写真だった。
『私の名前を呼んで』
そういった彼女になぜ今更?と思った。
まるで彼女の目は忘れてると言いたげだった。
それに驚いて声が出なかっただけだ。
「忘れるわけないだろ……ブラン……ブラン・シェーン・アヴニール、私の白い美しい未来……あぁ私は自分の未来を失ってたんだね」
───ごめんよ。
写真に顔を埋めながら泣きながらそう言ったと同時に乾いた音がした。
ブランクは額を撃ち抜かれて血を流して倒れた。
「よかったよ、覚えててくれて」
──私の手で殺せて良かった。
そういったグスタフはデリンジャーを部屋に投げ捨てて後にした。
彼が覚えてなければ聖杯の泥と一緒に飲み込まれればいいとおもっていたから。
せめて楽にしてやれたと思いながら誰もいない階段を降りるとシェイクスピアがいた。彼はこの喜劇を言葉にして楽しむ気はないようだったが、目がうるさいほどに語っているのがわかった。
「ウィル……言っただろ、妻への愛は本物だって」
「ええ、愛妻家でしたな」
皮肉紛れにいうシェイクスピアにグスタフは笑った。
「本当の事を言わないでくれ、照れるだろ」
そう言って二人も館を後にした。
空はもうすっかりと太陽が昇った眩い心地よい姿となっており。
館の入口には一羽の白鳩が静かに佇むのだった。
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