第四話



カルデアのスタッフたちは定期的に話をすることがある。
ここにいると"目が狂う"という。
それは無理もないことだった、英霊というのは如何せん顔が整ったものが多い、その上女性サーヴァントは露出度が高く目のやり場に困る者も非常に多く、慣れてしまったため今では紐では?という服を着られても特には気にはしないものの、それでもあまりにも顔面偏差値の高い環境には一般人であるカルデアスタッフたちは自分たちをその辺のぺんぺん草であると自負している──がカルデアスタッフにも勿論とびきり顔面偏差値が抜けたメンバーもいるため、つまりはこの職場全体のことである。
時折、所長の顔を見たり、黒髭をみては、なーんだと安心する時もある(ちなみに例に出した二名は本人たちがそれを言われても冗談やツッコミで対応しているからである)ものの冷静に考えて…という話題になるのは人理が戻った時まともに人と恋をできるのかな?なんて話題に上がることがあるからだ。

そうして仲間内で話をする時、エクレールも同意してしまう。
なにせ他のスタッフと比べるとサーヴァントとも接する機会が多く、マスター藤丸立香ほどではないにしても、それなりに人間としてかわいがられる彼女はサーヴァントをみていると一般的な感覚が薄くなってしまいそうだからだ。
特に彼女の場合は生前から"美形"と称される生粋の顔面偏差値トップレベルを持つ科学者ニコラ・テスラの隣に常にいるため、彼を見てしまうと一般的な男性のレベルが下がってしまうのだ、それはまるで月とすっぽんのように。

そしてそれは何も他人だけではなく、隣に並ぶ自分に対してもいえることで、顔のいいテスラの横に並ぶ彼女は自分でもわかるほど平凡な顔立ちの女であった、特筆すべき点がなく、可もなく不可もなく、安定供給の得られる顔といえばいいだろう。高出力高周波のテスラと並ぶとどうしても見劣りしてしまう彼女は対して自分の顔にコンプレックスを抱く所はないのだが、如何せんあまりにも隣に並んでいられると彼の眩しさになんとも言えぬ気持ちにもさせられることはしばしばある──もちろん、そんなことを思うのは彼女だけであり、このカルデアにおいて他人の顔を評価する者は少ない、特に子供でもないのだから相手を貶すのはなおのこと、結局は仕事さえ出来ればいいのである。

しかし彼女がテスラを美形だと思ったり、それこそ円卓の騎士たちをイケメンだと思ったり、新撰組のメンバーを男前だというように、サーヴァントだとしても女性を美しいと見る者も当然いる。
そしてニコラ・テスラという男は紳士の皮を被っていながらも案外俗なところがあるのだと感じたのは、来たる周回メンバーのミーティングをラウンジでしているとき、その目が以外にもその女性たちに向いていたことからだった。
近頃やってきた水着姿のバーゲストに関しては「なんという電圧」という言葉を漏らす次第で、彼女は薄々テスラの好みを感じる時、彼を知る藤丸や俗物大好き黒髭が「博士は大きい女性が好き」ということを得た彼女はシャワーを浴びた際に少しだけ自分の身体を見つめ直した。

「いや別に関係ないけど」

誰に言う訳でもないがそんなことを呟きつつも彼女は左手のラピスラズリのブレスレットを片手に見ながら、ほんの少しだけあの五月蝿い博士のことを考えた。

そしてそんな話を食堂で仲間たちとして工房に帰ってきた彼女は昼食の席で他のスタッフにいわれた「ところで博士はなんでエクレールを助手にしたの」という疑問に彼女も胸に抱いて帰ってきた。

工房内は今日も電流の音やオゾンの香りに満たされており。
彼女は自分用の食後のコーヒーを淹れて、ついでにとテスラの傍にも落ちてやると彼は無言でマグカップを手にして今日もなにかに夢中であるのを静かに眺めた。
助手とは言われるが彼女はテスラの知識を何一つ理解は出来なかった。反対に毎日彼を眺めて、彼の隣で自分の仕事をしているだけ。工房内には他のサーヴァントも来て彼と話をしたり研究を進めているが彼女はそこにも混じることはない、魔術の難しい話も、科学の難しい話も、彼女には遠い世界であり、しかしそれを悲しむつもりもなかった。

「博士はそういえばどうして私を助手に任命したんですか」
「藪から棒に何を聞くのだ」
「いえ、純粋に疑問に感じて。だって生前も助手は何人かいたっていうし、秘書の方もいましたよね?私を助手だと言いますが別に知識もないし……もしや博士の好みですか?」

なんてね。と笑った彼女にテスラはフム……と腕を組んでは隣に立っていた彼女を椅子に座りながらじっくりと眺めた。
確かに知性はあるな、それはテスラが求めるものと性質が全く違う。科学関係の話はてんでダメな彼女ははじめの頃、交流?直流?という単語にさえ小首を傾げたほど。
次に容姿──彼はそれこそ彫刻を眺めるようにしてみつめた、立ち上がり後ろや横から下からまでみつめては一通り見たあとはっきりと告げた。

「確かにその通りだ、私の理論についての理解力などは皆無に等しい、まぁそれは無理もない、魔術師としての評価も自身で理解している通り、客観的に自分のことを評価できている点はやはり記録係としての観察眼だ」

それはまるで評価シートを見て回答するようなものであり、改めて彼から伝えられるとその通りであるため反論は出来ないが少し不服でもあった。だが天才を前にしてしまうと当然だと思えた。
しかしその後の言葉がいつもの如く余計だった。彼はもう一度頭の上からつま先までじっくり眺めたあと、腕を組んでいつものような態度をみせる。

「確かに顔立ちは凡庸、いやしかし喜怒哀楽の激しい点はまるで点滅する電球のようではある、だが体型……ふむ、魅力的ではないな。私としてはやはり高電圧で高出力で包み込むようなッ!いたっ痛いではないか!」
「博士のバカ!アホポンタンのスカポンタン!なぁにが体型は魅力的ではないですか!高電圧やらどうとかいって大きい女性が好きなだけじゃないですか!このすけべ!紳士ぶっちゃって!とんだ変態紳士ですよバカ!もう知りません!!」

ばーか!と工房を出ていく彼女にテスラはどこに行くんだと声をあげれば「ダ・ヴィンチちゃんに頼まれた記録係の仕事です!また戻ってきます!」と告げていってしまい、一人工房に残されたテスラは罵倒の数々を頭の中で繰り返しつつも、如何せん理解しきれずに小首を傾げた。
確かに彼は彼女の容姿は好みでは無い、彼女が言う通り女性的な肉体が強いタイプを好む、しかし彼自身はエクレールという人間を女性としての魅力以上に彼女自身を評価していた。

何せ彼女はあまりにも真面目で不器用で努力家であったからだ。

テスラは彼女を知ったのは召喚されてすぐのときだったが、その時は何も互いにスタッフとサーヴァントとしてだけだった。
けれども度々サーヴァントの記録係としてシミュレーションでの同伴、サーヴァント一人一人への接し方、そして図書館などで仕事の一環とはいえ学びを得ている姿はテスラの目に好意的に映った。
助手にしたいと思ったのは偶然に近く勢いもあったとは彼自身論理的に動く人間であったはずなのに直感で動いてしまったのは自分でも意外だった。エクレール・アヴニールと聞いた時、その名前を持つ存在が隣にいるというのはあまりにも約束された未来のようだった。

助手に任命したあと、彼女が度々図書館に通ったり、テスラ以外から密かに彼のことはもちろん、電気や電流など彼に関わることについて学んでいることを知っており、テスラもそれを何度も見ては自分に聞けばいいだろうと問いかけた時もあった。

「そりゃあ博士に聞く方が確実ですけど、こうして本を読んだり自分で足を動かして学ぶ方がずっと頭に入るんです。私は博士たちみたいに賢くないし…ほら1%のひらめきと99%の努力ってやつです、まぁ私にはひらめきなんてないから地道に努力以外はないですけど」
「……その言葉あまり好ましく感じないのだが、君の努力自体は評価に値するだろう。君がそういうのであれば構わないが私に聞きたいことがあればいつでも聞くがいい」
「ええ、長くないようでしたら是非」

そういった彼女の努力も、周りにテスラの助手として扱われる彼女がその名に恥じないようにと少しでも努力しようとする姿は健気で献身的で、周囲はそれを真面目の一言で片付けようとするが、テスラはそれだけに収まらなかった。
本来勝手に助手と任命された彼女は逃げてもいいはずだ、強く抗議すればテスラも強引なところはあれど話に耳を傾けない訳ではなかったのだ。けれど彼女はその位置に収まって、隙間時間には勉強を続けて、まるでテスラの弟子や生徒のように聞くこともあり、テスラに教えられる知識についても素直に受けては「意外と面白いですね」と純粋に勉強を楽しんでいる面もあり、それが彼にとって嬉しく感じられた。

「記録係としてサーヴァントのしてきた事とかそういう表面は理解してますし、能力とかステータスのチェックが私の仕事なのはもちろんですけど、こうやって博士の話をしたり、博士のことをちゃんと博士の口から聞けるのが本当は一番楽しいんです」

コーヒーを飲みながらそういって笑った彼女を見た時、まるで小さな光が灯るように感じた。魔術師としての能力が低い故に彼女は下手な魔力干渉も受けづらいという点があった。それ故にサーヴァントの記録係の一人として職務をこなしており、昔から観察や記録をつけることは家柄としてのものであるとして彼女は案外仕事は嫌いじゃないとも言った。

「つまり彼女の内側(コア)を好きになったのね、ミスタ・テスラ」
「好き……あぁ確かに私は彼女に強い電波を感じているよ、それは素直に認めざるを得ないことだろう、私もそういう感情がないわけではない」
「よくってよ、私は愛もない結婚をして、恋というものもあまり無かったけど、そういう感情を持つことってとっても神秘的、まさにマハトマじゃない」

テスラは彼女との一件についてを図書館でエレナに伝えると彼女は不器用な彼に苦笑いをした。ニコラ・テスラの愛というのはあまり表にされていないものの確かにいくつか存在していた。

「ねぇミスタ・テスラ、あなたは生前『発明家は、情熱的な激しい性格の持ち主である』と語ったのよね」
「あぁそうだエレナくん、そしてそれを今も痛感している」
「『結婚した男に偉大な発明が出来はしない』……ですっけ」

くすくすと笑うエレナにテスラは少しだけ気恥しそうにしつつも否定できなかった。実際彼がしたその発言は記録に残されているし、彼もよく覚えいる。そしてなにより彼自身も自分の性質を理解しており、その通りだと理解しており、だからこそエクレールにラピスラズリのブレスレットを手渡したのだ、助手に対して贈るには些か重たすぎる気持ちを理解して。

「しかし私は結婚していない。だからこれからも偉大な発明をしてみせるのさ、その為には助手が必要、つまりはそれだけのことなのさ」
「うーん、ミスタ・テスラあなたも相当頑固で偏屈ね、まぁ生前からだけど」
「論理的に基づいて行動しているなら、そんなつもりはないのだが、まぁ重要なアドバイスとして受け入れておこう、いつも本当に感謝しているよエレナくん」
「ええよくってよミスタ・テスラ、それより彼女にはちょっとくらいお詫びをした方がいいわよ」

じゃなきゃ愛想を尽かされるかも…と楽しそうに笑っていったエレナにそれは困るといってテスラは工房へと戻ると、既にエクレールは戻ってきており、いつもの様に定位置でタブレットに手に仕事をしていた。
テスラの足音が聞こえてくるなり「おかえりなさい博士」と平然とした態度をする辺り、特に先程のやり取りの熱が残っている様子は見受けられなかった。しかしながら図書館でエレナとの会話を思い出しては度々女心を分かっていない。正しいことが全て正しいわけではない。という論理よりも感情の話をされてしまい、テスラは苦手だと思いつつも決して人の気持ちが分からない訳ではない男であるため、彼女の前に小さな箱を置いた。

「なんですか博士」
「助手である君へ日頃の感謝だ」

そういわれた彼女は珍しいと思いつつも紺青色の小さな箱を開けると三つの仕切りがあり、それぞれに形の異なるチョコレートが入っていたことに彼女は目を丸くした。

「どうしたんですかこれ」
「君が行ったあとマスターに素材集めのメンバーとして呼ばれて手伝いをしてきたのだよ、レイシフト先がフランスだというから少しだけ頼んで買ってきたまでのこと」
「博士が?チョコレートを?バレンタインでもないのに」
「先程の発言として助手である以上に、女性である君に不適切な発言をしたと思い、謝罪の気持ちだ」

珍いこともあるものだと思いつつ彼女は顔を上げてテスラを見つめると彼は本当に反省したような顔をしていた。紳士的な彼が有るまじき発言であったと自分でも理解しているのだろうと思いつつ、彼女も大して怒っていた訳では無いが、彼に素直にそう言われてしまうとますます怒る気持ちも薄れて、いつものように自分を振り回してくる博士に対して呆れたようなため息をこぼす。

「君は優秀な助手だ、それは決して私の理論や数式などを理解するという意味ではなく、私自身を理解しようとする意味でだ。私にとって君のその弛まぬ努力や相手に寄り添う想いは尊敬に値する。それは私に欠けている部分だからだ。感情論は好まないが君の言葉や声に他者を思いやる気持ちは私と同じ志を持っている。だからこそ、君に助手でいて欲しいのだよ、エクレール・アヴニール、輝かしい未来を持つ者よ」

椅子に座ったままそういわれたエクレールは胸の内にまるで光が灯されたように熱くなるのを感じた。ニコラ・テスラという男は物事をストレートに言いがちかところがある。論理的思考に基づいて必要だからこそだというが、それでも突然の言葉に彼女は困惑と羞恥を感じて顔を伏せてしまうが、テスラの視線が外れることはない。
彼女は「もう……」と困ったような声を出しては自分の隣の椅子を引いてテスラを招いてやり、素直に座ってくれた彼の手に自分の手を重ねるとラピスラズリのブレスレットが小さく光った。

「私だって同じ気持ちですよ。強引で猪突猛進気味でちょっとデリカシーがない時があって、だけど誰よりもこの人類と人々を愛し、明日に向けての光を与えようとするあなたを知れば知るほど、私なんかで…って思う気持ちがありながらも嬉しいんです、誇らしいんです。そんなあなたにこんなに身に余る光栄な言葉を貰えるのなんてきっと私の人生で一番の幸福です。ねぇニコラ・テスラ博士、だからこれからもこのカルデアで照らしてくださいよね」

それは博士と助手として、互いを想い合い称えるような返事であり、テスラは自分が伝えた言葉をおなじ熱量で返されたことにぱとぱちと火花が散るのを感じた。一方的ではない、両者から流れる想いの電圧は同じで、それこそがまさにテスラの想う理想的なものなのかもしれない。
彼が大きく声を上げて笑う前に彼女は三つ入ったチョコレートを折角だから二人で食べようと笑って彼を誘った。

「でも博士、三が好きなのはいいですが、分けるのが大変ですから、次回は六個入りにしてくださいね」
「───ッああもちろんだ!ところでエクレール、先日の……」

二人きりのほんの少しの甘い時間を感じながら、二人はじっくりと互いの関係を味わった、それは博士と助手と呼ぶには甘いものの、まだ少しだけ表面を取り繕い続けて、その関係性を実験を重ねる時間のようにゆっくりと進めていくのだった。

- 13 -
←前 次→