二十話


セルチアの魔力は全てロンギヌスに吸収され、ロンギヌスが裁くものの魂という純度の高い魔力さえ吸い上げていた。街からは聖杯の黒い泥は消えているものの、ロンギヌスの召喚した柱は世界を滅びへ導くようにあらゆる生命の罪と罰を判断している。

大聖堂の外にてグスタフが緊急で用意した魔術師ブランク・ハリー・ホワイトの魔力備蓄機とホームズが描いた召喚陣とライニールが再調整したカルデアの通信を重ねて彼らは僅かな間にも呼べる間にカルデアから可能なサーヴァントを求めた。
ルーラークラスの一同はもちろん、聖人や聖職者などを筆頭に現れた彼らに各自の柱の破壊を命じるものの、ロンギヌスはそれに気付いては柱の守護となる魔物や天使に似たものを召喚し、彼らを阻んだ上でブランクの魔力備蓄機を破壊しては彼らを見下ろした。

「避けろッ──!」

ライニールの声とともに一同が下がるとロンギヌスの白い槍が数本彼らに向けられた。カルデアからの通信は乱れつつも向こう側からも彼らがいるセルチアにて異常な魔力反応の確認と、短い現状報告から全力を持って対処してくれているものの、魔力供給にも限界があり。
さらにはロンギヌスの召喚している魔物は一体一体は強くサーヴァント達も苦戦を強いられ、これ以上どうするべきかと壊れたブランクの魔力備蓄機に苦戦するグスタフに手を差し出したのは一人の獅子だった。

「この歪なバッテーはなんだね、私の技術と憎き素っ頓狂の技術を感じるではないか!」
「エジソン!来てくれたんだねよかった。それが今の僕らのバッテリーだけどいまさっきの攻撃で破壊されたみたいなんだけど、どうにかならないかな」

召喚に力を使っていた藤丸は現れたエジソンとその後ろにいるバベッジやアヴィケブロンをみてはどうにか出来ないかを告げるとエジソンは胸を張って答えようとしたが、再度ロンギヌスがそれの邪魔をしてしまい、今度こそ魔力を蓄えたその機械が破壊され、中の魔力がゆっくりと溢れてしまう。

各地から藤丸たちに向けて現状が厳しいことを告げられるものの、カルデアからの魔力供給も既に限界が近く、サーヴァントを送ることはできてもこれ以上は魔力の関係から維持が難しいはずだと言われてしまう。
既に神霊クラスのサーヴァントも含めて、強力な助っ人たちがいるというのに、中央に立つロンギヌスに触れることさえ出来ず。聖杯の加護と強力な呪いで出来たそれを打ち破ることは難しいだろうと言われた。

藤丸は大聖堂をみつめた。
そこに残るのはテスラとエクレールだけであり、ロンギヌスは次の攻撃と言わんばかりに聖サヴァ大聖堂に向けて手をかざす為、藤丸はテスラとエクレールをどうにか守らなければとグスタフやシェイクスピアも駆け出して入口に行くと、そこにはテスラがエクレールにナイフを突き立てる姿が見えた。

「おぉ……なんと美しいことか」

シェイクスピアが歓喜の声を漏らすと同時に、世界を包む光がテスラの腕の中で強く光った。
暖かくて優しく懐かしい、まるで母に包み込まれたような温もりに似たそれに目を細めると、テスラの腕の中にいたエクレール・アヴニールがその身を浮かせて胸の傷が、まるで鍵穴が解除されたように開いた。

テスラは何事かと思いながらもそれを見つめていた時、エクレールが笑いかけた気がしては彼女が眩い光に包み込まれ、テスラがそのとき彼女の左手のラピスラズリをみるとそれが反応するようにセルチア全体に強い光を与えた。

それは英霊召喚と同じ光と感覚だと藤丸は思いながら入口から見ていると、大聖堂の祭壇にいたテスラの上に現れたのは一人の女性だった。
フワリと舞うように現れたその存在はエクレールによく似ていながらも違うと感じる存在だった。見た目はエクレールによく似ているが雰囲気や所作なのか、分からずともその女性は純白と瑠璃色の聖衣を見に纏い、その手には細い杖にも似た剣ともう片手には分厚い本を手に持っており。それはこの地に祝福を唱えに来た宣教師のようでもあった。

透明の白いヴェールをまとった彼女は両足を地面に下ろすと目の前のテスラや入口から中に入ってきた藤丸立香たち一同に向けて告げた。

「観測者、ルーラー・アヴニール、今ここに物語を語り継ぎに参りました」
「──「エクレールくんではないか!!」──ッ誰だ!その悪鬼を呼んだ者は!!」
「貴様では力不足というから来たのではないか。それにしてもエクレールくん、その魔力の流れなどからしてサーヴァントのように感じるが一体どういうことだ」
「貴様は……私が聞きたいことを一から全て聞くな!人のものを奪うような真似ばかりして、だから貴様は訴えられまくるんだぞ!」
「なにおう!私の発明にそんなものは無いっ!それに訴えられても勝てばいいのだよ!!」

テスラは先程までの落ち込みよりも目の前のルーラー・アヴニールと名乗った英霊とやってきたエジソンにすぐに吠えるが、困惑した様子の彼女に藤丸はとにかく落ち着いて状況を確認しようと宥めつつ近付いてルーラーと名乗ったエクレールに瓜二つのサーヴァントをみた。

そうだ──確かに目の前の女性は紛うことなきサーヴァントだとその場の全員が理解した。魔力や霊基などなはっきりと分かるのだが、エクレールは英霊になれるような存在では無いはずだと全員理解していた。何せ彼女は一般人で特別な逸話もないどころか、二十一世紀の現代を生きる人間で英霊になれる存在などいないと言えるほどだからだ。

テスラ、エジソン、藤丸、ライニール、グスタフ、シェイクスピア、そしてマスターの危険を察知して戻ってきたパーシヴァルがみていれば、ホームズがエクレールをじっくり観察をして答えを述べた。

「本来聖杯が呼ぼうとした"正規のルーラー"は君だったのか」
「どういうことだミスター・ホームズ」
「つまりエクレールくんが呼ばれたのは間違いではない。聖杯はこの聖杯戦争の"正規の裁定者"として本来は"アヴニール"を呼ぼうとしたが、その中で誤ってエクレールくんを選んでしまった」

そしてそれ故に聖人たちに作られた聖なる聖杯は普通の人である彼女を自動的に守ろうと働いてしまい宿ったのが今回の事件の発端であり。結果的に聖杯を望んだペトロヴィッチの手にかけられてしまったが、先程のオブニールの奇跡により聖杯が呼びたかった本物の"アヴニール"が現れたのだと告げる。

「それならエクレールは助からなかったのか?」

テスラはその瞳に苦しみを滲ませるように告げると、慌ただしい彼らを見ては新たに現れたルーラー・アヴニールと呼ばれる彼女は違うと告げた。

「彼女は我々の中にいます。我々は観測者の記憶の全てとなった存在。観測者本人は安全のために我々の奥にいますから安心くださいテスラ博士」
「私を知ってるのも彼女の記憶だということか」
「そうですね、特に現在の観測者の記憶が一番新鮮に確認出来るものですから、あなた方がその……ねぇ?」

つまりは自分は本来閉じ込められる記憶の本データであるという彼女はテスラの前でソワソワと両手の人差し指をツンツンとしながら恥ずかしそうにするため、藤丸が「つまり?」と聞くとアヴニールは真っ赤な顔をしてくるくると回っては答える。

「手っ、手を繋ぐ仲ではございませんか〜!」

あんな情熱的に互いの手を取るだなんて、肩を抱き合うだなんて、吐息を交わらせるだなんて、なんと情熱的なのかとはしゃぎ倒す女に彼ら一同は冷めた目を向けた。何処となくこのハイテンションは初代観測者を思い出してしまう。と知る者ぞ知る彼らは思っていた頃、聖サヴァ大聖堂が大きく揺れた。

『マスターすみません!強い魔力反応を感じましたがどうされましたか?空のロンギヌスの槍の顕現は既に80%程だそうです!』
『正直押され気味で苦しいわ、魔力もこれ以上は持たないかも』

通信から聞こえたマシュとヨハンナの声に藤丸はここでゆっくりもしていられず、アヴニールに今の状況を説明しようとすると彼女は微笑んで全ての自体は把握しているといった。
そして彼女はこの世界を救いたいともいった。

「それがエクレール・アヴニールの願いであり、聖杯は自らを手にした彼女の願いを聞き入れたのですから、我々はそれに力添えします。なんといっても我が身は大魔道士オブセル・ウァートル・アブニールとその一番弟子である魔法使いによって出来ているのですから!」

そういって彼女が手に持っていた剣を聖サヴァ大聖堂の祭壇の床に突き刺すと魔導書を片手に詠唱を始めた。それはキャスタークラス以上の強力な魔力を感じるものであり。
セルチアの地から溢れるような魔力であり、サーヴァント一同に突如として強く流れるようなものであり、優しい暖かい光が包み込んだ。宝具とはまた違う彼女が今回の聖杯で呼ばれた存在だと確信する程のものであり。
一通りの詠唱を終えた途端にサーヴァントたちが魔力の増幅を感じられ、さらにカルデアからの通信が入ってくるとセルチアでのサーヴァントの魔力増強を強く感じられるが何事かと言われるが、アヴニールは胸を張って微笑んだ。

「我が身に宿りし聖杯の魔力です。ロンギヌスの柱を破壊せねばなりません……カルデアのマスター、そして我が観測者当主、エクレール・アヴニールのパートナーたるニコラ・テスラ様、どうかお力添えを頂けますか」

藤丸はもちろんだと言い、テスラはエクレールに瓜二つの彼女に当たり前だと返事をした時、アヴニールはテスラの傍に寄り手を取った。

「さぁ今こそ人の神話を見せてやりましょう」
「当然だ、とくと記憶するがいい!この神をも凌駕する雷霆の力をッ……!」

そういってテスラが軽い気持ちで放った微量の雷霆は丁度大聖堂前にいた魔物に当たるとそれは消し炭となって消えたため、思わず全員がテスラにそんなに全力を出さなくても……と思わず彼を見つめるが、テスラはそんな力を放っていないというため、背後にいるアヴニールをみると彼女は酷く恥ずかしそうな顔をして、左手に残るラピスラズリのブレスレットを見せつけた。

「す、すみません、我々の中の観測者の一人が博士に力を添えたようで」
「君の中で観測者は意識はあるのか?」
「多少は……」

その言葉にまたテスラに視線が向けられた。
無意識とはいえ、それをした観測者などどうせ一人だろうというようであり、アヴニールのブレスレットのラピスラズリが光ることにテスラは気恥しさを感じつつ、尚のこと知らないフリをして各自戦闘に向かうように指示したまえと藤丸に声を上げたのだった。

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