生きる


密葬課というこんな特殊な部署に来て仕事をしている以上いつか自分も目の前の人間のように人では無い何かに変わる可能性だってあるだろうと予想していた
決して死を恐れている訳では無い、だが死はいつも隣り合わせだと感じていた

8月の真夏日、テレビの天気予報士はもう三日連続で今年1番の暑さだと言った、ドアが開く音がしたが髪の毛1本でさえ動くことは無い

「気分はどうだ」

聞きなれた上司の声に返事もせずにテレビを見つめた
くだらないお笑い芸人が炎天下の下で熱い激辛ラーメンを食べては悲鳴をあげていた、それを面白くもないのにわらえば上司の顔は見えないが嬉しそうに感じられた

「今日は暑いが風通しがいい」

そういって彼は窓を開けると外の音が狭い1LDKの部屋に流れ込んでくる、蝉の声に駆け回る子供の声にアイスキャンデーを売り歩く男の声、様々な音が流れ込む中で彼はまるで自分の部屋のようにものを片していく
そして彼は持ってきたコンビニ袋を漁って包帯を取り出した

「先に風呂の方がいいだろう」
「結構です、自分でできます」
「そんな身体でか」
「やめてくださいよ!セクハラで訴えますよ!」

私を持ち上げて風呂場に行こうとするその人に訴えれば流石に困るのか風呂場の前で固まられてしまう
そして何を思ったのか彼は部屋に戻ってまたコンビニ袋を漁ったようでそこから身体を洗うブラシと家の中にあったタオルを持ってきた

「これで文句はないはずだ」

どれだけ言おうときっと彼は聞いてはくれない、そういえばこの人が出張だかなにかで2日も風呂に入れてなかったことを思い出す
結局目隠しをした彼に補助をされて服も下着も全て脱がされる
またそれなりにいいブラシを買ってくれたのか柔らかく心地よかった、頭を洗われればまるで美容室に来た気分で「痒いところは?」と聞かれて思わず頬が緩んで「転職するならシャンプー屋さんがいいかもですね」なんて呟いけば真面目なその人は「シャンプー屋なんてあるのか」と少し的はずれなことを言っていてまた笑ってしまった

お風呂をあがってタオルで軽く拭かれ服をまた着せられればようやく目隠しのタオルを外して彼に抱き上げられ部屋に戻る
コンビニ袋を漁った彼は大きめの包帯を取り出して近付いた
いらない、やめて、こんなことしないでいい。
何度言って涙を零して無くなった手足をバタバタと動かす私はまるで芋虫のようだった、課長はその姿をいつも通りの瞳でみつめながら包帯を巻いていく

「もう来ないでください」
「ダメだ、こうなった責任は私にある」

仕事のミスで私は両手足と仕事を失った
上司だった真鍋さんは私を哀れに思ってずっと介護をしに来てくれた、愚かな私は怪我をする前真鍋さんを異性として好きだった
だからこんなことをされたくなんてない、惨めで哀れでどうしようもない生き物のようで自分が恥ずかしかった

「死んでしまいたい」

呟いた言葉に

「責任は果たそう」

いつだってこの人はそう言いながらも私を生かした。