ワンダーランド


平凡な家庭で平凡な人間で平凡な人生を歩んできた人間にとってまるでその人は絵本の中から出てきた王子様のような
そんな非現実的な人だった、真っ白な髪がふわふわと揺れる度にまるで白いポメラニアンを思い出す。といったとき彼は「それじゃあ俺きみの犬になってあげよっか?」なんて笑って言った
茶目っ気があって、優しくて楽しくて、かっこよくて綺麗で、そして時々怖い人だ

「夢みたい」

テレビの奥で見ていた予約が何年も取れないというホテルのアフターヌーンティーなんかを楽しみながら言った、お値段なんと29800円(2名)とテレビでみて驚いていた時に貘さんは「行きたいの?」なんていうから彼のことを軽く見て「美味しそうだなぁって」なんて曖昧に返事をしてしまった故に連れてこられた
正直値段のことを考えるとあまり味は分からないが、それでも1口ずつ口の中に放り込む度に小さな幸せが広がった

「そういえば大事な話があるって?」
「あっうん…そう」
「なになに面白い話?」
「面白くは無いけど、ほら私ずっと貘くんの側にいて何も出来ずにいるからそろそろ仕事とかしようかなぁとか、社会の荒波に揉まれたら少しは私もましな人間になるかもって」
「誰かにそう言われた?」

ふと顔をあげればまるで氷みたいな貘さんがいて、私は何も言えずに視線を泳がせた
彼の柔らかい声が2人だけのホテルの会場に拡がった

「ずぅっと俺のそばにいてよ、梶ちゃんやマルコや賭郎のみんなに囲まれて幸せに生きるんだ」
「でもね」
「ナマエちゃん」

冷水をかけられたような声色に肩が震える、わかったと返事をすれば貘さんはケーキを食べながらいう

「夢なら覚めないようにしなくちゃね」

ふわふわと眠気がやってくる中で彼は優しい子守唄を歌うような声で話していた、なんの話しをしてたっけ?なにしていたっけ?ふと目覚めた時にはいつもの見慣れたベッドだった