オートペディア
個人データ・レポジトリ起動…セキュリティレベルB…アクセス許可

名前:リアン・マラカイト
所属集団:オートボット サブグループ:レッカーズ 役割:武器整備士 種族:地球人(人間)

ここまでの基礎情報を開いてラングは椅子に座る女性を見つめた、何処と無く浮かない顔をする彼女は任務前の精神鑑定を受けに来ていた
ラングは今日このカウンセリングを長めの2時間に設定したのは彼女の精神面を考えてであった、普段とは異なる空気をまとう彼女にラングはどう声を掛けようかと思いながらも声を出した

「なにかドリンクでも飲みますか?」

ココアがいい。とかわいらしい注文にあっただろうかと思い彼女に向けて用意していたインスタントの飲み物を複数個入れていた箱の中からホットチョコレートと書かれたちいさな袋を取りだしラングは難しい顔を浮かべながらそれを開けて彼女が来る前に沸かしていたポッドのお湯を注いで差し出した

「珍しいね…先生が悩んだ顔してる」
「バレましたか、ええとても悩んでいますよ…任務の同行について」
「場所が場所だものね」

苦笑する彼女はマグカップに口をつける、けれどその心はどんな診断であれ誰に言われたとて変わらないと言いたげだ
次の任務先がG-9で彼女も出動すると聞いた時ラングは反対したが周り全員同意見だった、サイバートロニアンの中でも細く華奢なラングでさえ彼女を掴み軽く力を入れれば簡単に命を奪える、そんな儚い存在が危険な任務にと…と思いつつもう一度向かいに座る彼女を見た

「こうしてあなたが座るのは何度目ですかね…」

人は見た目が変わる、ラングが初めてリアンに出会った頃彼女は今よりも幼かった


23年前、リアン・マラカイトはオートボット…正確にはレッカーズに保護された。他の任務地からの帰りに彼らはディセプティコンの船から送られた通信を受理した、その船には複数の種族が監禁され労働を強いられていたレッカーズが助けたものの最終的な生存者はただ1人、リアンだけだった
15歳という彼らからしてみれば産まれたてのような彼女は両親や家族を亡くし、ディセプティコンには幼いながらもその頭脳を買われ彼らの労力として働かされていた、当初地球に戻そうという話にはなったものの調べた所彼女は地球では死亡扱い頼れる親戚家族友人は居らず天涯孤独となってしまい彼女の待遇をどうするかと考えていた際、彼女は自分の知識をオートボットに提供すると言ったのだという
当然人間ごときの知識なんてと科学班は嘲笑したものの実地試験を見事合格した彼女はプロールやザロンまたタイレストにウルトラマグナスを含む様々な法律の専門家たちとの話し合いの末キミア預かりになった

「なにか飲みますか?…といっても、あなたが飲めるようなものは取り寄せしたものしかないんですが」
「え…と、じゃあココアが…いいです」

はじめてのカウンセリングをしたときラングは精神科医ではあるもののあくまでサイバートロニアン"の"精神科医なだけであって、人間なんて対応外だと匙を投げたくなった
だがしかし呼んで現れて話をして感じたのは普段のカウンセリングより遥かに気持ちが楽だということ、まず1つとして絶対に命を脅かされることが無い…これはラングが定期的にといいたくはないがよく患者に掴まれたり投げ飛ばされたりしては警備員を呼ぶからだ、全くもって精神患者はまともじゃないとここ数年の技術の進歩に嫌気がさしてきそうだった
怖かったこと辛かったことは確かに彼女にはあったがそれ以上にオートボットに保護されたことの方が大きく精神的には安定性があった、それ故ラングとのカウンセリングはただのお茶会に変わった
人間と比べて長いサイバートロニアンの一日の中での1時間ほどのセッションはラングの数少ない休憩時間であった、そうして不要なカウンセリングを続けた翌年彼女は自らの意思でレッカーズの所属を希望した

「所属っていっても内勤だよ、キミアからデブリに移動するだけ…ね?いいでしょ先生」
「分かっていますよ、そもそも前線なんて誰も許可しないでしょうに」
「ふふ…インパクターがね『お前も立派なレッカーになれるだろうよ』って言ってくれたの」
「彼が…そうですか」

全く彼女を前にすると誰もが変わるものだとラングはあの時笑っていた、16歳の人間の彼女がレッカーズに移動するというのはとても大きな問題にも感じたものの内勤であるということを聞いて胸を撫で下ろした
それから彼女のカウンセリングはゆっくりとレッカーズが荒れていくようにその波に呑まれていったことをラングは多少の後悔を感じた
1度だけインパクターとリアンが一緒にいたところを見たことがある、インパクターの傍を通る者は大抵彼に萎縮しがちになる雰囲気を持っているのに、彼女といる時のあの男は別人のようだった

「顔のとこまた傷入ってる」
「ン?んな所気にしねぇよ」
「ダメってば…私が直していい?」

甘えるような彼女の声はまた少し変化して大人びていた、インパクターは片手に抱いた彼女に対して呆れたような嬉しそうな声で好きにしろといっている声を聞いたのはラングにとっては印象的だ
誰が悪かったのか
彼自身か…止められなかった仲間か…ここまでさせた上官か、戦争か

「…収監…されたって」

窶れた彼女を見てラングは何も言えなくなった19歳の彼女には笑顔がない、手渡したマグカップの中身は冷めきって話のない1時間が流れた
目の下に深い隈を作り、唇の血色は悪く、腕は骨が浮いてそうなほど細くなってきて、ラングを捉えた瞳は深い沼のようなドス黒い色に感じられた
陶器の割れる音と同時にすすり泣く女の声が部屋に響いた

「ねぇ、どうやって…どうして、生きたらいいの?私分からないよ…先生、私…」


「彼にね、会えるかもしれないって思うとなんだか嬉しくって」

血色のいい彼女のコーラルオレンジの唇がキュッと跳ね上がった、キャメルブラウンの瞳はライトを浴びて輝いておりラングをみつめてはニコニコとあの頃とは違う姿をしていた

「無事ですかね」
「無事だよ、だって彼だもの…」

あぁでもどうしよう私おばさんになったし気付かれるかな?なんて年甲斐もなく呟いた彼女にラングは小さく息を吐いてわらった

「気付きますよ」

きっと君がどんな姿に変わっても、あの男をあんなに優しい表情にさせる存在なんて君しかいないのだから…とラングは思いながら任務を許可する、とログに追記した。



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