ロストライト号に乗ったのはたまたまだった、仕事の帰り道に普段と違う道を行けばよく分からないモヤのような青い光が浮いていて好奇心のままにそこに入った
曰くあれはスペースブリッジだったとか、突然の来訪者に驚きはするものの楽しいことが好きなこの船の船長は笑って迎え入れてくれた
どこまでいっても迷惑しかかけていないと認識しつつも助けられていることは事実でただ感謝する他ない
人間と金属生命体という見た目も中身も全く異なる身でありながらも受け入れてもらい、本当に仲間のように優しく接される度に心が温まった
「よぉアイリス今起きたのか」
「うん、もしかして今は夜なの?」
「うーん時間で言えば昼過ぎだな」
「あららここに来てから本当体内時計が機能してないや」
「人間にもそんなのがあるのか」
「太陽が登れば朝だし落ちれば夜ってだけだけどね」
「今度調べてパーセプターたちに作ってもらえばいい」
部屋から出てすぐに顔を合わせるのは大抵この船の船長ロディマスだった、何かと彼は気を使ってくれて面倒をよく見てくれる人間に友好的な存在と言って過言ではない
表情は豊かで話も面白いし優しくまるで話をしていると自分たちが異なる存在だと忘れそうにもなるが話をする際毎度彼に抱き上げられるのでそこだけやはり違うな。と認識させられる
「ちょっと擽ったいよロディマス」
「なんだ人間の挨拶ってみたから」
「私の国じゃそんなのなかった」
「俺は気に入ったけどダメ?」
「うぅん」
突如彼の金属の顔が頬に寄せられて猫のようにすり寄ったかと思えば離れ際に優しくキスされる、彼の言う挨拶は確かに海外ではよく見かける光景だったが生憎と自分のお国柄そういったスキンシップは恥ずかしいものだとされており申し訳ないと彼に断りを入れればすこしだけ寂しそうな拗ねた顔をされてしまう
毎度ロディマスのそういった顔や仕草をされるとつい甘やかしてしまいそうになるがきっと彼は色んな人にそうして甘え慣れているのだろうと察するが中々どうも嫌ではなかった
「仕事が山積みでさマグナスに怒られちまって」
「また?あなた優秀なんだからすぐ終わるじゃない」
「だってつまらないから」
「…仕方ないな、私が終わるまで見守っててあげるよ」
「アイリスっ!」
「もう苦しい」
ふと彼が苦しい顔で仕事のことを言うから手伝いにもなりはしないのに提案をすればそれだけで嬉しそうに抱きしめられる
人間の3.4倍くらいのサイズの彼に優しくとはいえ抱きしめられれば潰れてしまいそうになるが悪い気はしない、ロディマスは弟や飼っていた犬をよく思い出させてくれる
朝食を片手に抱かれたままロディマスの私室に連れられて確かに仕事道具やら彼の趣味やらおもちゃやらで埋まったデスクに下ろされる、先にこれを片付けなくてはと二人してせっせと今いるものと要らないもので分けていく
「ねぇまさかこれ全部仕事関係ってこと?」
「…そう」
「一体いつまで放置してたの」
「違うんだって、修理やら研究やら次の惑星への経路やらなんかもう沢山あるんだよ」
「これいつまでに仕上げるの」
「明後日かな」
「いいや、今日中に頼むと伝えてたはずだ」
厳格な低い声が聞こえて思わずドアを振り向けばそこには青い大きな身体のトランスフォーマーが1人、ウルトラマグナスだ
「おはようマグナス」といえば「近頃生活リズムが崩れてるのでは?」といわれてしまい説教を聞きたくなくて思わず視線を逸らせば残念、説教というBGMが流れ始めるがすんでの所でロディマスが人間には太陽が必要だということを教えていた、正直ロストライト号は人間向けでは当然ないのでリズムが崩れるのは仕方ないことだと伝えれば彼も納得をした顔をした
「わかった、大目に見ておこうだがしかし…これはまた別だ」
「げっなんだよこれ」
「新しい書類だよ、この間スワーブスで暴れて店が穴あきになったりしたろうそれらの修繕書類等も入っているから目を通すように」
もちろんそれ以外もあるという言い方をしてマグナスは部屋から去っていく、残されたまとめたら天井にまで届きそうな書類データの山に思わず顔を見合せた
今日は一日が長くなるようだと察したのだ
彼も悟って諦めて今日は観念することにしたらしい、船長直筆のサインが必要なものばかりなので内容自体は簡単だが書類の内容はそれぞれ異なるので目を通さねばあとから見ておらずにサインをして怒られることも理解していた
ロディマスが難しい顔をして仕事をこなす中で自分に出来ることは静かに見守りつつ時折休憩を挟んでやることくらいだった、時折ホットエンジェックスを用意したり彼ら用のスナック菓子を用意したり、暇を持て余すため適当に腰かけて以前ラチェットからもらった人間サイズの電子パッドで地球産の本を読んだりなんかをして時間を過ごす
「あぁ疲れちまったよ」
「お疲れ様、すごい頑張ってるし休憩しとこう」
「アイリスがいるから頑張れてるんだ、ほらハグしてくれ」
1/3ほどやり終えたロディマスの顔はロボットだと言うのにぐったりと疲れきった顔をしている、金属のはずの彼らの顔は人間のように柔らかく表情豊かだとおもいつつ腕を伸ばす彼の胸元に仕方ないと優しく抱きしめてやれば大きな指が髪を撫でる
「その本おもしろかったか?」
「うん、本なんて滅多に読まなかったからここに来てからはもう本の虫になっちゃってるよ」
「そうか」
「こんなに面白いものがあったなんて私知らなかった」
そう思いながらふと地球を思い出す、この船では人間の食料はそんなに種類は無い為いつもサプリメントのようなものばかりになる、時折立ち寄った惑星に有機生命体でも食べれるものを…とロディマスが用意してくれるがそれが人間の食べられるものかというとまた別で、いっその事身体も彼らと同じならまだいいのにとさえ思う時もあった
「地球に帰りたいか?」
「…まぁ、出来たらね」
彼の問いに少し間を開けてから答えた、最初の頃は地球に帰りたいと泣く夜も多かったがロディマスはすごく困った顔をしてここから地球に帰るまでは距離がありすぎるから難しい。といわれた
あなた方の有能な科学者達に何とかしてもらいたいと願っても難しいと言われる始末で諦めるほかなかった、正直絶望した
今でこそ明るく彼らと仲良く振舞っていても私は何も知らない宇宙で死んでしまうのだと考えると孤独を抱えた、それでもロディマスは優しく私を慰めてくれたおかげで心は柔らかくなった
「帰ったってそこにアイリスの居場所なんてないかも」
冷たいような声色のない声に思わず見上げれば彼は真面目な顔をしていた
時折彼はこうして私に意地悪を言う、ロディマスの目には激しいような色をした手が私の腹を掴んで人形のように持ち上げて目線を合わされる
「好きなんだ」
彼は至って真面目にそういった、私は思わず視線を逸らすけれどそれでも手は離して貰えない
聞こえていないわけじゃないのはロディマスだって分かっているのにもう一度彼はその眼を強く光らせていう
「なぁアイリス、俺はきみのことが好きなんだスパークの底から」
「ごめんなさい、私には恋人がいるからあの人がいいの」
ロディマスはいい"友人"だ
私には人間の恋人がいた、もうすぐ結婚しようねといって両親にも挨拶したほどのいい人で毎晩彼を夢に見ていたはずなのにゆっくりとその人の顔も温もりも忘れているのは事実だった
それがどうしようもなく恐ろしいことかつ悲しいことであったしロディマスの好意を知らないわけでもこの言葉をはじめて言われた訳でもない
「きっとそいつはもうきみのことなんて忘れているし、もしかすると生きてないかもしれない」
「酷いのねロディマス」
「あぁそうだ、俺は酷いさ」
視界が滲んでいく、大人だというのに情けなく涙が視界をさえぎって零れ落ちた時彼は掴むのではなく手のひらの上に座らせてくれてその大きな指で私の涙を拭いながら頭にキスを落としてくれた
その優しさはまるでかつての恋人のようで尚更胸が痛くなった
「戻れない生活なんて忘れて、俺との未来をみてほしいんだ」
本当はそれは優しさだって知っている
この船にいると時間が分からないといっていたがある日聞いたから、もうこの旅が人間時間で言えば短くないことを
そして地球の西暦は私の知ることの無いものになっていて、私の戸籍というものはどれだけ探しても出てこなかったと、あの日通ったスペースブリッジは時空が違ったのではないかと賢い誰かがいっていた
だから彼は誰よりも優しく私に接してくれているのだ、愛を持って一途にみてくれている、それでもまだ私は帰りたいとあの人がいると思い続けないと心が張り裂けそうだった
そんな弱い私を彼は抱きしめて小さな声で「俺を選んでくれ」と囁いた、私は何も返事が出来ずにただ彼の手を抱き締めて赤く腫れた目で悲しそうな彼を涙の止まらぬ瞳のままみつめるだけしかできないのだった。
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