「コンジャンクスエンデュラ?」

なにそれ。といわんばかりの彼女の声に反応したのはその場にいた全員だろうか
クロームドームとリワインドの2人があまりにも仲睦まじくまるで夫婦みたいだといったとき隣に座るブレインストームがその単語を発した
この船唯一の有機生命体であるその存在が聞きなれない単語を復唱したがどうやら彼らにとっては重要な言葉だったらしい
それまでさっぱりだった連中がこぞって彼女を囲むのだ

「なんだ知らないのか?」
「そういうスキッズは知ってるの?」
「そりゃあそうだ」
「アイリスそんな記憶欠如のボケ野郎の説明よりオレが教えてやるよCEってのはな」
「まぁ待てよオレの方が説明できる」

次々に自分がと説明したがるがアイリスと呼ばれた彼女自体は別に誰からの説明でも良かった、なんならそんなに複雑な話なら別に聞かなくてもいいほどである
手元のグラスの中身を飲み干して琥珀色の液体を注いで騒ぎを見つめていればいつの間にかブレインストームを押しのけて座っていたパーセプターの片目と視線が混じる

「珍しいねパーシーがこんなところに来るだなんて」
「胸騒ぎがしたから来てみたんだ、面白そうなことになってるようで」
「そう?いつもと変わらないよ」
「CEは君達の言語で簡単に言えば"結婚"だ」

彼の簡潔的な説明に彼女はふぅんと短い返事をした、なんとこんなに簡単な説明を彼らは銃まで取り出してまで説明したがるのかと不思議にも感じられた
結婚といえばアイリスのいた国では他者と戸籍を統一する手段であり、主に親密な者同士がすることだった、紙1枚で行えるそれに強い繋がりは感じないが彼らのそれはそんなに簡単では無いのだろう

「ここでの銃の使用所持は禁止では無いのか」
「そういってもここには黒服が居ないから仕方ないでしょうマグナス」
「それもそうだな、それで?アイリスことの発端はお前か」
「私が悪いの?それよりも貴方はCEいるの?」

彼女の強いところは誰彼構わずに接することだろう、さすがに銃撃戦が始まろうというのにのんびりと自身の特等席で優雅に酒を煽る彼女にとっては彼らの行動などは日常茶判事で慌てるにも値しないことなのだ
ウルトラマグナスはそう問われてから少し固まったあとその存在に優しい声で伝える

「いないが、そうなりたいと思う存在なら…」
「そうなんだ、実るといいね」

熱の篭った彼の視線に気付くこともなくアイリスは優しく笑った、アイリスの隣を押しのけては次々と入れ代わり立ち代わり座っては蹴落とされていくのを気にもせずにスワーブに空になったから次のボトルの催促をした

「なぁに船長置いてきぼりで楽しんでるだハニー」
「いらっしゃいロディマス、今日のスワーブスは大繁盛だね」
「CEについて聞いてるとかって」
「そうそう、貴方達にもそういう関係があるんだってね」

また入れ替わったかと思えば見慣れた機体にアイリスは愛想良く話しかけた、ロディマスはいつだってアイリスのことをハニーやらスウィートハートなどまるで恋人を呼ぶ時のような呼び名をするが案外それは彼らしくて嫌いでは無い、その親しみやすさや地球での経験値の高さなどはアイリスを少なからず安心させる要素でもあるほどだ。
ロディマスは彼女の言葉にそうだと言わんばかりに顔を綻ばせる

「そうだ、別に同種族じゃなくても結ぶことは出来るんだぜ?」
「異種族同士ってこと?」
「そーそーCEってのはスパークでの繋がりを大切にするから…っうお!」
「楽しそうな会話をしてるようだなプリンセス」
「珍しいサンダークラッシュまで?いらっしゃい」

まるで椅子取りゲームのごとくロディマスがアイリスの隣から一瞬で追い出されたと思えばみんなの英雄サンダークラッシュが現れた、アイリスとて彼の話はよく聞いており毎度顔を合わせる度に変に緊張をするほどだった
隣でロディマスがキャンキャンと子犬のように吠えるが彼は相手にせずに暖かい眼差しでその小さな彼女を見る

「スパークでの繋がりを大事にするのだから私とアイリスでもCEにはなれるんだよ」
「それは口頭で同意するだけでいいの?」
「まぁステップはあるがね、キミにはそうなりたい相手がいるのか」
「え・・・え、えぇまぁ・・・どうかなぁ」

その瞬間まるで彼らはサイバートロン星にいる天才発明家ホイルジャックの珍妙な発明品でも食らったのか?とおもうほど固まってしまう、アイリスは非常に恥ずかしそうにそれはもう恋する乙女のような顔をしていたがそれ以上は語りたがらなかったがどうやら彼女のことを知っているスワーブが口を滑らした

「ああいるぜ、この船の中のやつだけどな」
「ちょっとスワーブいわないでよ!」

ガシャンと音を立てたのは1つ2つではなく、全員が持っていたエンジェックスが注がれたグラスを握りつぶした、当然彼女の隣にいる船長と英雄も見たことの無い顔をして同じことをしていた
フリーズした彼らを気にした様子もなくまた彼女は自身のドリンクを飲んで少しだけ気分が良くなってきたのか「まぁそうだけど」なんていうものだからついに全員が動き出してまくし立て始めた
全くなんだというんだと彼女は思うが彼らからしたら一大事であった、そして冷静にサンダークラッシュはひとつ爆弾を落とした

「CEになる手順にひとつ、相手にプレゼントをするというのがあるんだ」
「素敵だね」
「今晩してみるのはどうだ?想い人がいるのに気持ちを隠すなんてもったいない私はいつでも歓迎だ」
「そう・・・でも振られたらどうしよう」
「そんな訳ないだろ?スウィーティーからのプレゼントだオレが喜ばないわけない」
「だって人間だし」
「人間だから?そんなことで受け取らないわけが無いだろう、例えアイリスから渡される物なら例えタイレスト協定に違反するものだとしても受け取ろう」

アイリスがでもでもだって・・・という度に彼らはまるで自分がもらえると言わんばかりに慰めた、彼らの気分は最高潮に浮かれていた、みんながみんな自分こそが彼女の想い人だとおもっているからだろう
サンダークラッシュもロディマスもウルトラマグナスもそれこそ自分以上に親しい奴はいないと思えていた、彼女が答え合わせをしない限りはきっとこのバーにいる連中全員が自分にチャンスがあるとそれも正解だと思っているのだから世話ないことだ。
最後の1杯を飲みきった彼女は少し熱に浮かれた顔をしてちいさく頷いた

「みんなありがとうこんなに優しくしてもらえるだなんて嬉しい、勇気出してCEにはなれなくても好きってことくらいは伝えてくるね」

人間用のカウンターチェアの操作をして降りてスワーブスから出ていった彼女に全員が1度呼吸を整えてから走るように各自部屋に帰っていった
残されたスワーブは「ははおもしれぇ」なんて言葉を零したが彼女の想い人を知っている彼からしてみればこんなに面白い光景はないだろうと思ったことだ、普段口の軽い彼はこの騒動がどれだけ楽しいことか後でネタばらしをすることを楽しみにしつつ割れたグラスとエナジョンを片していくのだった

アイリスは一度部屋に帰ってから自身の身嗜みを整えた、酒を飲まなきゃ素直にいえないことはあまり良くないとは思いつつもあれだけ仲間達に鼓舞されたのだから勇気を出さなくてはならないと考えた
鏡の前で自分を見つめて何度か頬を軽く叩いて部屋の外を出た、まるで船には誰もいないかのように静まり返っているがそれがやけに彼女を冷静にさせていく、そして到着した部屋番号113の前で深呼吸をした

「軽く話すだけ、そう・・・軽く話すだけ」

小さな声で何度かそう呟いてノックをすれば返事が返ってきてはドアのロックを解除してもらう、自身を見下ろす銀色のその機体は近頃この船に混沌を残していく存在であるメガトロンであった
彼はアイリスを地球にいた頃の人間と比べれば些か違うように感じており今までにないほどに優しく接した、言い淀む彼女の顔を見てメガトロンは少ししてから声をかけた

「わしは出るから少し留守番を頼めるか」
「えぇ・・・もちろん」

緊張の面持ちの彼女の頭を優しく指で撫でた彼はそのまま部屋を出て行ってしまいアイリスは代わりに部屋に入れば目当ての相手は静かにそこで丸くなりスリープモードに変わっていた
タイミングが悪いため出直そうと考えつつも留守番を頼まれた彼女は静かにそこにいる他ない

「アイリスか」
「こんにちはジャガー、メガトロンに頼まれて留守番をしているの」
「そうか何も無い部屋ですまないな」
「いいえ」

アイリスの心臓は酷く音を立てていた、そうアイリスの想い人はカセットロンの1人であったジャガーである
静かに起き上がりアイリスを咥えて椅子の上に案内してやりいつもと様子の違う彼女にどうしたんだと声をかけた

「ねぇあなたにはCEは居る?ううんCEじゃなくても大切な人とか」
「どうしたんだ、大切な人か・・・居なくは無い」
「そ、そうなんだ」

彼の一声で彼女のこの恋心は終わったと悟った、ガックリと項垂れる彼女にジャガーは一体全体どうしたんだと思いつつ彼女の膝に頭を寄せてやる、そうすることでアイリスはいつも喜んだからだ
けれど彼女の腕はその時あまりにもか弱く悲しそうに感じられジャガーは見つめた

「アイリスにはいるのか」
「いたよ」
「そいつが羨ましいものだな」
「・・・あなたのことだけど」

思わず彼は立ち上がりアイリスをみつめた、彼女の瞳は丸く大きくそして赤らんでいた、決して冗談ではないという顔つきの彼女にジャガーは思わず固まったあと少ししてから困ったな…と零した

「どうして」
「悪人の自覚はあるんだが、どうも嬉しい」
「それって私と同じ気持ちってことでいいの」

その返事に対してジャガーは彼女の唇に自身の鼻先を合わせた、そして優しく微笑んで軽く頬を舐めた

「当然だろう」


全くもってどうしてアイツなんだと全員がスワーブスの一角を睨みつけた、そこにはアイリスの膝の上に頭を置きながらエンジェックススティックを食べさせてもらうジャガーの姿
彼女はとても嬉しそうな顔をしていた、ふと彼を睨みつける連中にジャガーはフンと鼻を鳴らして笑ってやった、スワーブが一人ごちった。

この店は火気厳禁だって

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