はじめて彼を見た時にいいなと思ったのはパトカーに変形するところだった
性格やらそういうのを含めると納得のオルトモードだし案外清潔感のある機体だとかが好印象であり、話してみると真面目で堅物だと思いつつも案外笑う時は笑ってくれてその笑顔にもうイチコロ
地球人とは紆余曲折があったが受け入れてくれた彼に対してはもうそりゃあ釣った魚を肥えて殺す程の勢いになるかと思ったが残念、そうは上手くいかない

「君のことを誰よりも大切にしたい」

正直人から好かれるタイプじゃないであろう皮肉屋混じりの彼からそう懇願するようにいわれた時の嬉しさなんて例えようのないもので年甲斐もなく嬉しさが溢れて思ったよりも小さな声で二つ返事をした
甘い関係には到底なれないとは予想はしていたもののそもそもそれどころの関係ではないと気付いたのは何度目かの夜だった

「あれプロールどこかいくの?」
「ああ仕事が立て込んでいてな、好きに過ごしてて構わない」
「うん、気をつけて行ってらっしゃい」

地球時間でいえば何時かはわからないが強いて言うなら夜だろうに彼はでていった、固いだけのベッドはいつも自分だけだという事実に気付いたのは両手で事足りる回数過ごしたあとだろう
そして両手足の指くらいの回数になる時に気付いた


「私とプロールってセックスしかしてないって」

ドンッと音を立ててグラスを置いた彼女は現在閉店作業を終えた彼女の職場、マカダム・オールド・オイル・ハウスにて上司に愚痴った
彼は華やかな機体と端正な顔立ちに今は無き名声で様々な恋愛をしてきたことを知っている
おまけに2人を知る人物でもあるため彼は話を聞くのに最適だったが流石にいけ好かない元同僚とかわいいバイトの恋愛話を聞くには彼も酔いが足りないため珍しく自分の為にグラスにエンジェックズを注いだ

「セックスしてるならいいんじゃないか」
「あなたのセックスとプロールのセックスは違う」
「まぁ俺も最後にしたのって・・・何万年前かなぁ」
「ブラーの場合は多分遊び感覚でもお互い満たされてると思うからいいけど」
「満たされないのか」

察したような苦笑いの返事に彼女は本日何度目かのため息を零した、プロールと付き合ってからすぐの頃はまだ互いに異種族ゆえの拙さがあった
手を繋ぐことどころか互いの体に触れることさえ躊躇するほど、キスをすることだって彼に抱き上げてもらわねば叶わないのにいざそうなると互いに心臓が出てくるのでは?と思うほど緊張した
だというのに今じゃあもう違う、キスはされないし同棲をしているがプロールは滅多に部屋に帰ってこない、帰ってきたと思えば寝るか風呂かセックスのいずれかでアイリスは毎日バイト先で食事することに慣れていた

「だからみんないってたろ?」
「仕方ないじゃん、あの性格もいいなって思ってたの」
「あいつに惚れるやつって大抵そういうよな」
「・・・元恋人とかいたの?」
「さぁその辺は俺は知らないな、クロームドーム辺りなら詳しいかも」
「ヤダヤダ聞きたくない」

なんだかんだと言いつつプロールのことが好きなのだろう、それでも愛を感じることはなかったアイリスには正直悩みの種でしかない
このまま続けるべきか否か、生憎サイバートロン星に来たと言えど非所属のネイル達ともそれなりに仲良く過ごしているし住居に関しては何とかなることもわかっていた
いっその事彼と終止符を打つのもいいかも・・・なんて思うのはきっと酒に酔っているからだろう

「もうお酒終わり」
「うん」
「送っていこうか」
「平気だよ、ありがとうブラー」
「作業員のメンタルケアも店主の役目だからな」

夜風に打たれながらアイリスはやはり考えていた、初めて体を重ねた日のことは衝撃的で忘れられなかった、それは互いの体の違い云々よりも彼の情熱的なオプティックと優しさに対してだ
甘い声で愛を囁かれ苦しそうな声で求められて互いに同じ快楽と苦しみを味わったあの日の夜はここ最近何度も思い出してしまう

静かすぎる部屋に帰宅すれば案の定彼はいない、何かあれば渡されている通信機に連絡が来るのを知っているので何も気にせずシャワーを浴びて歯を磨いてベッドに入る
プロールがアイリスの為に与えた柔らかい快眠しやすいベッドだった、これも彼なりの愛だと理解している、トランスフォーマーと人間の家具が入り交じったこの部屋は2人が生活していることを嫌という程教えてくれるというのに彼と過ごした時間をあまり感じられなかった

鈍いスプリングとベッドの沈む感覚に薄く目覚めたのは数時間後の出来事だろう

「アイリス」

熱っぽいプロールの声に嫌でも目が覚めてしまう。
またこれだ とため息がこぼれてそうになる、彼の艶っぽい声が首元や耳元で囁かれて慣れた手つきでパジャマの隙間から手を入れられる
どれだけ愚痴を零しても彼に求められることを喜ぶ自分がいるのを彼女は否定しない、何せ未だに彼を好きだという気持ちだけは確かにあるからだろう

「起きているんだろう、こっちをみてくれ」
「ン、おはようプロール」
「おはようアイリス、いいか?」

断れないと知りながら彼は念の為聞いた、知っているくせにと顔を背けたアイリスの首筋にキスを落として彼は性急に彼女のズボンを下ろした
期待に揺れたそこに触れて大丈夫だと思ったのか彼は何もせずにそのまま貫こうとするものだから彼女は起き上がる

「どうした」
「やっぱり今日はいや」
「そうか、無理強いするつもりは無いが何か気に障ることをしたか?」

その言葉に彼女はカチンときたのだろう
愛撫もなければ前戯もない上に当然愛の言葉もない、あくまで自分は下に出ているという態度だがその姿には明らかに面倒くさそうな感情も見え隠れしているのがわかってしまい腹が立った
アイリスは枕を投げつけて衣類を整えてベッドから抜け出す

「気に障ることって?全部に決まってるでしょ私はあなたのセックス用のドールじゃない」
「なにをいってるんだ」
「プロールあなたって本当に知的で優秀で素敵な人だけど人の気持ちは分からないんだね」
「だから突然何を怒ってるんだ」

まるでヒステリックに突然怒る女を宥める可哀想な男のようだった、互いに持った異なる怒りの熱にどうにかなってしまいそうだと感じた

「私はあなたの恋人のつもりだった」

そう言い残して出ていった彼女を追いかけられるほどプロールは傲慢な男では無い、ベッドの上で座りながら考えた彼女がどこに行くのかをどうせ自分のバイト先やその関係者だと理解しながらもスパークが黒いモヤが支配していく感覚を味わった
苛立ちを隠せぬ彼はベッドをひっくりかえしたが残るのは無茶苦茶になった部屋だけだ

案の定というべきなのかプロールが追いかけてこなかったことは彼女にとってはよかった
万が一あのプロールが追いかけて謝罪でもしようものならそのままきっと2人の部屋に帰っただろうからだ、そしてまた身体を重ねて不満を貯めてとなる
そうなるくらいなら今は距離を置くべきだと思った

「どうせ来ると思ったぜ」
「どうせ私が頼れるのは上司しかいないもの」
「まぁ入りな、酒はあれだからココアくらい入れよう」

人間の家具なんてない彼らのサイズのものしかない部屋は案外シンプルで意外性を感じたが現在改装中とのことだった、見た目の割に店もそこまで派手ではなかったのでブラーは案外そういうタイプなのかと納得した
バーの2階に部屋を持っていた彼はいつもアイリスが使うコップに濃いめのココアを入れてきてくれた、そして何も問いかけることはなく静かに見下ろして背中を撫でた

「酷いことを言っちゃった、思ってたけどもっと言い方があるのに悪い方の言い方をしたの」
「珍しいなアイリスはどんな時も冷静に言葉を選ぶタイプだと思ってた」
「私もそう思ってたかった」

ブラーはプロールをよく思わないのは知っている、散々彼に使われてきた側だから余計だろう
アイリスのことも兄のように親のように心配はしてくれたが幸せのためならと目を瞑ってはいた、本当ならば彼を殴り付けてやりたくもあるがそれが意味をなさないことも知っている

「私の思う好きと彼の思う好きが違うだけなんだろうね」

小さな身体はもっと小さく見えた、なにもいえないのは彼が当人では無いからだ
翌日からアイリスはバーで住み込みで働くようになった、出勤時間もオープンから閉店までということで客たちも喜んだ、案外彼女はこの店で人気の看板娘なのだ
仕事をしていれば彼女は悲しい顔をしないし誰かといれば気さくに話をして笑った、時折現れる不届き者はブラーが牽制して守れば店の中もその小さなかわいい存在も安泰である。


プロールの機嫌が最高潮に悪いなと感じてはいるが誰も声には出さない、少し前に彼の恋人が近頃ばーの仕事に精を出しているという噂を聞いたのであらかたその関係のことだとは察していた
彼にとってのアイリスはそりゃあもう特別だ、堅物で腹黒で何事も自分の思い通りにことを進められるとさえ思っていそうな策士家のプロールだろうが恋人に対しては違う
疲れが貯まる度に恋人の写真をみているのは案外仲間たちは知っているし、彼が通信機でアイリスと会話をしている時の甘ったるい声なんてものはきっと誰もが2度見するほど、苛立ちを隠す気はないのかはたまた気付いていないのか彼の指先は忙しなく握っているデータパッドを叩いていたし定期的に舌打ちやため息を零す

「なぁプロール少しは休んでいいんだぞ」
「結構だ、俺が休んでは進まない件が多すぎるだろう」

彼を気遣ったバンブルビーの言葉にも彼は棘をつけたように返事をする、どうせ2.3日すれば帰宅すると思ったがどうやらそうはいかないらしい
噂を聞くに恋人は現在仕事先のバー・マカダムで部屋を借りて過ごしているらしいがその事実さえプロールの神経を逆撫でしたが迎えに行くという考えは彼にはなかった
恋人以上に今は街の治安、ディセプティコンの残党の方が大事なのが事実、だがしかしそうした結果がきっと彼女の不安を増築させた
プロールのストレス発散と癒しは専らアイリスだった、小さくて聡くてかわいらしい彼女に彼らしくもなく落ちた、あの柔肌に触れる度に思考回路がまとまらなくなってただ一つになりたいと願う哀れな男でしかない
普段と違う少し高く上擦った声で名を呼ばれる度に溶けてしまいそうなほど心地よくなる感覚は彼が長い期間を生きてきた中で初めて感じた程のものだろう。

「あぁくそ」
「そんなに苛立つなら会いに行けばいいだろ」
「お前になにがわかる」
「さぁな、私とてかわいい恋人のことくらいは考えるさ」

ようやく1人きりになれたと思ってもプロールの態度を鼻で笑うように現れたアーシーは彼にそう言う、彼女は時折マカダムに足を運んではアイリスの様子を見て報告した、勿論写真映像付きで
アーシーと話す彼の恋人はとても人懐っこく嬉しそうで喧嘩のことなど忘れているとさえ思った

「おい、この映像はなんだ」
「おまけだよ」
「余計な」
「まぁいいじゃないか、おまけなんだから少しの休息を得たんだろ?その映像でもみておきな」

最後に短い挨拶をして去っていくアーシーに苛立ちを隠せず、確かにデカサイクル程充電の関係等を含めて休みをもらっていた為プロールは自室に戻って映像データを開いた
小さな身体で客のエンジェックスを運ぶ彼女にプロールは口元を覆う、どうしてこうも彼女は愛らしいんだと口には出さないが思うからだである少ししてからテーブル席にアーシーが座っていることに気付いたのか彼女は近付いたがカウンター奥のブラーは何をしているのか気付いてるらしく小さく睨んでいた

『いらっしゃいアーシー、最近よく来てくれるから嬉しい』
『まぁなここくらいしかまともな店がなくてな』
『そりゃあこの店のオーナーがいいからね』

鼻高々にいう彼女に小さく笑ってしまう、アーシーのオプティックでの映像のためまるで自分が彼女と話しているようだ
店は程よく客が出入りしているがそこまで忙しいという訳でもないアーシーにたまには女同士話そうといわれれば彼女はなんの疑いもなくブラーに許可を得て向かい側の席に座って話は始める
大抵最近の日常的な話ばかりで聞いていること支障はないがふとアーシーが問いかけた 恋人とはどうだ? と、その言葉に少しだけ表情を強ばらせたアイリスは「お酒入ってないから答えない」といった為に営業が上手いなと零しつつ人間用の酒の注文がされた、あの店で人間用の注文がいちばん高いだろうが何かとみんな可愛がるためよく注文される(ちなみにされ過ぎた過去があるため一日5回までと決まるようになった)

『プロールと喧嘩しちゃったの』
『彼のこと分かってたし、それでも好きだからいいって思ってたけど段々許せなくなっちゃってね』
『どんなところがって?誰にも言わないでね?』

『愛の言葉がないでしょ、デートに誘われたこともいったこともない、ご飯だって一緒にしたの多分2.3回、あと夜に不満がある』

まるで百面相のように表情がころころと変わる中で話すアイリスの姿は新鮮だ、プロールが知る顔は近頃ベッドの中の顔ばかりだったからこんなに笑って拗ねて悲しんだ顔をするのは付き合う前のようで懐かしさを覚えた
質問者であるアーシーは女同士だから。という狡い言葉を使って答えを探る

『帰ってきたなって思うとそういうことしかしない、その割には丁寧にしてくれなくて欲を発散するだけって感じで・・・私はセフレじゃないっておもったの』
『なんだアイリス、あんな奴に甘い言葉を囁いて欲しいのか』
『そりゃあ好きな人・・・特にプロールなら』
『羨ましい限りだよ』

時間帯のせいか客足が伸びてきた為ブラーに呼び出されたアイリスは軽く挨拶をしたと思えばアーシーに別れ際キスをしていってしまう
映像が切れる前に「だとさ、かわいいもんだ」と言い残して映像は切れてしまった
プロールは頭を抱えた、自身の言動を見直して確かに当てはまってはいたからだ、仕事とかまかけて彼女を放置するのは仕方ないといえてもその後のケアを怠るどころか自分本位なばかりだった、普段の彼ならば気にしないが生憎彼もただ一人の女を愛してる立派なサイバートロニアンである、時刻を確認して彼は部屋を飛び出しオルトモードで向かうは迎え待ちした彼女のところだ

こんな時に限って客足がいいなと感じつつプロールは店内に入れば全員の目が彼に注がれる、決してそれはいいとは言い難いものだった
小さな恋人は忙しなく働いている様子で彼に気付かずそのままカウンター席に近付いた

「なんだ営業停止のお知らせか?」
「たまには飲みに来てもいいだろう、それともここは客を選ぶ店だったか」
「生憎と今は忙しくてな奥のテーブル席どうぞ」

そういって視線だけで合図された席は忘れられたようにポツリと空いた狭そうな2人席だった、隠れ話をするには持ってこいとばかりの奥の席に感謝をしつつ席に着けば手伝い用のドロイドがメニューを聞きにやってきた。
軽い注文をして待っていればすぐさま現れたのは案の定プロールの心待ちにしていた存在である、彼女はその存在を見るなり驚いた顔をしたがすぐに普段通りの表情に戻してテーブルの上にグラスを置いた

「待ってくれ話したいことがある」
「仕事中だけど」
「少しでいい」
「忙しいから話したいなら閉店まで待ってて、まぁあなたは仕事で忙しいから出来ないでしょうけど」

素っ気ない彼女の返事にプロールは苛立ちを感じたがそれを表には極力出さないようにした わかった と二つ返事をした彼にどうせ長くても1サイクル来たら帰るだろうと高を括っていた
ブラーには少しだけなら抜けていいといわれていたがそんな気は起きなかった、万が一ここで折れてしまえばまたプロールに流されるばかりだろうと予想出来ていたからだ、それに今日は忙しい為おいそれと簡単に休憩にはいけるわけがない

プロールは焦りを感じた
彼が得た休息まであと1サイクルもないほどだった、それでなくても休むことさえ彼には億劫だというのにこんな無駄な時間の過ごし方はないと思えた
指先でリズムを取りながら店内を見れば慌ただしく走り回るアイリスがいた、小さな身体で何倍もあるサイズの存在に奉仕する姿は健気で可愛らしいとさえ感じた、時おり仲のいい常連客に触れられるのを見るとプロールは今すぐ彼らをしょっぴいてやりたいがこの店ではそんな横暴は通らないことを知っている
そして約束の時間まであと数ミニサイクルになったとき彼は椅子から立ち上がらずに通信機で連絡をした

「すまないがもう少し休暇を貰う、残った仕事は戻り次第すぐにするから安心してくれ」

通信先の相手は何となく事情を察していたようで「ごゆっくり」と返事をした、閉店まではまだまだ時間はあった

カウンターから覗き見た彼は未だそこに座っていた、空になったグラスは3杯ほどで誰も彼に近付きもしなければ目線を逸らすほどだ
本当に嫌われているんだと感じながらもそんな孤独を背負った存在を無性に好きだと思うあたり末期なのだろうと感じた、一時期のピーク時間も過ぎて落ち着いた店内で清掃しつつ横目に見る度ブラーには早くいけばいいのに。といわれる
こんな無駄な喧嘩きっと彼だってしたくはなかった、そもそも自分が売らなければ何も無かったはずだと彼女はおもいつつもそれでも愛のない交際を続けられるほどの度胸ももうないのだ

「お客さん減ってきたし早めにお店閉める?」
「閉めたいだけだろ」
「まぁ」
「仕方ないな、どうせ今日はこれ以上来ないしな」
「ありがとうマスター」
「こういう時は名前を呼んでくれ」

茶目っ気を含めた彼のウインクに思わず笑った、それから暫くして最後の客が帰ると同時に看板を裏返して閉店作業をした
大方の清掃も終えてお疲れ様といいながらブラーは外に出ていってしまい申し訳なさを感じつつエナジョンとジンジャーエールを片手にその席に向かった

「もう飲まない?」
「ン・・・あぁ終わったのか、いやもらおう」
「それで話って別れようって決心してくれた?」

我ながら冷静では無いなと彼女は思いつつも嫌味をひとつ零した、万が一それに同意されても納得は出来たしいっその事清々しいほどだ
プロールは珍しく視線をさ迷わせて気まずそうな顔をした、まるで怒られた子供のようで普段彼の計算は早くてどんな回答だってすぐに出たはずなのにそれが出ないのは不思議に感じる

「別れる気はない」
「じゃあどうするの、私の事好きでもない人とやっていけるほど私はお気楽な人間じゃない」
「好きじゃないとは言ってないだろ」
「嫌いじゃなかったら無関心だっけ」
「俺は喧嘩をしに来たんじゃない、無関心だと?馬鹿なこというな」

プロールの怒りたい理由は何となくわかる、無関心なわけは無いし嫌いなわけが無いと彼の現在の言動を見ればわかる
強くテーブルを叩いたせいで人間サイズの小さなグラスは簡単に転倒した、謝罪の声が小さく聞こえるが気にしない振りをして念の為に持ってきていたダスターでテーブルを拭いた
きっと彼は予定が沢山ある中でそれを潰してこんな店に何サイクルも留まっているのだ、それはアイリスだって理解している

「じゃあ何を言いに来たの」
「それは・・・いつ帰ってくるのかと」
「意外とブラーの部屋も快適なってきたからこっちに住むのもありかなって、彼もいいって言ってくれてるし」
「言いわけないだろう」
「どうして」
「恋人だ」

狡い人だとアイリスは口の中を自分の歯で噛んだ、二人の間に恋人らしいことなんてほとんど無かった
あったのは肉欲のみである、最初の言葉とそれ以降のパートナーとして許されただけの行為、それも回数を重ねる毎にただの肉人形のような扱いだとアイリスは伝えはしないが叱咤した。

「認識違いなのかな、私の恋人は同じ時間を過ごして愛を語りあう2人だけどあなたが言う恋人はただの人形でしょ」
「そんなわけあるか、俺を怒らせたいのか?それならそうと早く言えばいい別れたいならシンプルに伝えろ面倒くさいだけだ」
「どうせアーシーから聞いたんでしょ、それでも分からないなら終わりだよ」

その言葉を聞いた時まるで頭を撃ち抜かれた気分だった
どうして知ってるんだと思いながらもこの店の客は一定数自分の友人がいた、なんならアーシーとて信頼はならない、彼は誰も信頼はしていない
立ち上がって去っていこうとするアイリスの手を優しく掴んだ、プロールのブレインにはひとつの映像が流れていたもらった映像の中で少し不満そうにけれど恥ずかしそうに話す彼女がいっていた

『そりゃあ好きな人・・・特にプロールなら』

愛を語って欲しいというがどう伝えればいいのかプロールには分からない、彼女に想いを伝えた時はじめて記憶にないほど真っ白になって言葉だけが全てを埋めつくしていた
まるであの時のようで体がオーバーヒートしていくのがわかりプロールは情けないほど悲しそうな甘えるような声で伝えた

「愛してるんだ、何処にも行かないでくれ」

彼らにはそんな機能がないが泣きそうな顔で震えた声でそういった彼にアイリスは胸が締め付けられた、どうしてこの男はその言葉一つも言えないのだろうかと思いつつも言えないからこそこんなにも重たいのかと感じた

「どう伝えるのが正解かわからないが愛してる、俺のような存在を受け止めてくれることに甘えているとわかってるしどうしようも無くアイリスが必要なんだ」

愛してる。彼は最後にそういって顔を俯かせた
あんなに威厳があり顔を見るなり嫌悪される程の彼が情けなく弱々しくなっていればアイリスとてその例えが確かでは無いが様々な意味で胸が締め付けられた
プロールに掴まれた手を振りほどいて仕方なしにテーブルの上に登ったアイリスは俯いた彼の両頬に手を添えた、子供のような普段と違う幼げな顔をした彼にアイリスはどうしようもなく愛おしくなった

「愛してるよプロール、でもね言葉を伝えたら次は行動にしなきゃ」

生憎と俺は恋愛初心者だと彼はきっと内心ごちった、その言葉も気持ちも全て彼女のキスで消えていく
ゆっくりと離れた唇にいつぶりにしただろうかと互いに思っては少しだけ恥ずかしくなってしまい互いに顔に熱がこもるのがわかった。

「デートしたいな」

アイリスの言葉にプロールは難しそうな顔をしたあと「この星じゃデートスポットはないし、デート向けの雑誌も知らないな」という
その言葉にあぁデートはしてくれるのかと安心して微笑んだ

「あなたの母星でしょ?好きな場所とか好きだった場所思い出の場所に行きたいな、それでお話して家に帰って映画でもみて一緒に寝よう」
「それは随分と素敵な誘いだ」
「今度はプロールから誘ってね」
「あぁ善処する」

そういって今度はプロールから彼女にキスをした、こんなに嬉しそうに微笑む彼女にどうして片手で数える程度しかしなかったのかと後悔しつつも今から与えればいいと考えを改めた
プロールの腕に抱かれて店を出ていき久方ぶりに彼の中に乗り込んだ、互いの熱が冷めるにはまだまだ時間が足りないと思いながら

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