※初代知識ありトリップ主



トリップって本当にあるんだ。とその時彼女はおもった
仕事の帰り道欲しかった新しいトランスフォーマーのトイを買って胸高鳴る気持ちで歩いていた彼女に突っ込んできたのは一台の大型トラックであった
あぁこれコンボイだったらなぁ…なんて相も変わらず間抜けなことを考えて視界は完全ブラックアウト、次に目を覚ました時彼女は病院ではなくSF映画のスタジオにでも来たのかと思うほど見慣れない機械だらけの街にいた

「あれ?ここど…」

起き上がって歩き出そうとしたその瞬間、上から大きな音を立てて金属の物体が落ちてきた為足を止めてそれをまじまじとみつめた
どうやらロボットの頭らしいそれは赤い目を光らせていたが彼女と視線が混じったと同時に真っ黒に電源が切れてしまう
そしてふと気付いたのは頭上で戦いあうロボットたちである、夢にまで見た光景に彼女の心は沸き立つがそれもつかの間、突如彼女の体は宙に浮いた、まるで人形のように抱き上げられるがその力は強く息もままならない

「おや、こんな所に有機生命体が・・・誰かのペットか?」
「った…ぃ」
「苦しいのかそりゃあ悪い事をしたね、有機生命体ってのは如何せん触り方が難しい」
「ラチェットそれはなんだ」
「司令官多分ペットで飼われていた有機生命体かと」

ふと疑問を抱いた、ラチェット?聞き覚えがある名前だなと思って息を整えて手のひらの上に乗せられればこれは夢だと確信した
何故なら目の前には見覚えのある存在がいたからだ

「オプティマスプライムだ!」
「ほぉこんなちんけな有機生命体でも私の名前を知っているのか」
「えぇ勿論です、でもネメシス?色が…えぇっと」
「ラチェットこれは私が飼おう、連れて帰ってくれ」
「畏まりました、首輪をご用意しましょうか?」
「そうだな、赤が良く似合うだろう」

オプティマスの手のひらの上に乗せられていたのがラチェットの手に渡る、私の知ってるラチェットは白いけれどどうやらこの世界線のラチェットは違うみたいだった
優しく笑う姿はまさに白衣の天使、なんて思うのになんでだろうか変な胸騒ぎがする、あんなに憧れて好きだった存在が今はどことなく怖く感じて腕から逃げようと少しだけ暴れると高さ数mから綺麗に私は落下した

「あぁもうお転婆だな、私が司令官に怒られちゃうから大人しくするんだよ」
「いっ・・・どどこ行くんです、あの・・・私帰りたくて」
「帰りたい?うーん難しいなぁ司令官が要らないといえば私が貰うつもりだったからね、にしても足が折れてるな帰って私が作り直してあげよう」

足が熱を帯びて痛みに顔を歪めながら必死に声を紡いだ、痛みを与えたんだから目を覚まして欲しいのにどうやらこれは現実だと言うように目が覚めない
ラチェットの手の中に抱かれてそのままオルトモードに変形されれば私は簡単に救急車の中に監禁されてしまい走り出される、どうやらディセプティコンと戦っているらしいけれど今は悪役でもいいから助けて欲しいと願った途端ラチェットは「うっ」と声を上げて転がった、投げ出された私はもう全身が痛くて死んだ方がマシかもしれないと思った

「有機生命体!?どうしてここに」
「あぁったく私は戦闘をしに来たわけじゃないのになぁ」
「この有機生命体をどうするつもりだ!」
「うるさいなスタースクリーム、その子は司令官のペットだよかわいいだろう」

また聞き馴染みにある名前に顔をあげれば真っ白な機体に赤いラインの入ったトランスフォーマーが一体、彼の話を聞いて即座に腕元の通信機に話しかけたスタースクリームと呼ばれる彼は私の知ってる姿と真逆であった
彼の足元に投げ出された私は優しく抱き上げられて小さく「今助けるから安心したまえ」といってくれた、私は例えスタースクリームがあのスタースクリームだとしても今はよかった
こんな怖い戦場と怖い人達から逃げ出せるならユニクロンにだって心臓を捧げるだろう、足の骨は折れて立てないし逃げ回ることだってきっと出来ずにおもわずスタースクリームの腕を力いっぱい抱きしめるしかなく見上げれば彼は優しく微笑みそのまま変形しようとしたがすんでのところでそれも妨害され敵に囲まれたようだった
どうしたらいいのか分からずにいた時だ

「そこまでだオートボット達これ以上好きにはさせない」
「ふん、メガトロンか今日はお前の首に興味は無い」

両軍のアタックという声が聞こえると同時に意識が遠のいた
本当不思議だけど面白い夢だったなと目を覚ましたがもう一度目を閉じた


次に目を開けた時、どこかの施設の中のようであった
ぱちぱちと瞬きをすればそばで待機していたトランスフォーマーの1人が大きな声を上げているのが聞こえた

「ああ目が覚めのかよかった」
「ええと…メガトロン様?」
「いかにも私がメガトロンだが、様付けされるような存在ではないさ」

最終的に到着したのはディセプティコンの基地のようであった、とはいえ自警団である彼らの本拠地となっているのは大学らしくそこを強化して要塞状態にしているらしい
医務室、いや彼らからしたらリペアルームというのだろうかずっとそばに居てくれたメガトロン様は私を見てほっと胸をなで下ろしたような顔をして挨拶をしてくれる、この世界のディセプティコンは優しくて柔らかい人達だった

「ショックウェーブ彼女の状態は?」
「足を怪我しているようですがそちらはコンストラクティコンの彼らが治療してくれたようです」
「そうかよかった、メンタルケアに関しては君に任せるよ」
「えっとあの、ここって地球じゃないんですか」

多分違うだろうが念の為私はそう問いかけた、夢にしてはリアルすぎてしんどいけれど兎に角今は現状をしっかりと理解せねばと思った、彼らは顔を見合せて困った顔をした
黄色いショックウェーブが「サイバートロン星といって地球からは何万光年も離れているんだ」といわれた、やっぱりそうなのかと思わず泣きそうになった、確かに私はトランスフォーマーが大好きだけれどまさかこんな危ない世界に来たいとは流石に思わなかった
思わず零れた涙を見たメガトロン様は驚いたように固まったあと私の背中をさすりながら慰めてくれた、優しい人だからこのメガトロン様に拾われてよかったと少なからずそこだけは安心した


それから足が治るくらいの期間をもう過ごしていた、穀潰しというのも申し訳ないので私はみんなの役に立てるようにとリペア班であるコンストラクティコンのみんなや科学者のスタースクリームたちに教えて貰いながら勉強をした

「おはようアイリス」
「おはようございますメガトロン様」
「今日の調子はどうかな」
「ばっちり、沢山寝たから元気いっぱいです」
「それはよかった、さぁおいで」

毎朝決まった時間にメガトロン様は私を迎えに来てくれる、やっぱり人と彼らじゃ生活サイズとかも全部違うから基地の中を歩き回ることひとつでも大変でこうして私のために時間を割いてくださった

「ほら到着した、今日もスタースクリームの元でお勉強だろうか」
「そうなんです、スタースクリームってば教えるのすごく上手いし褒め上手だからついつい調子乗ってしまって」
「それはアイリスが優秀だからだろう?」
「おはようスタースクリーム」
「うん、きっちり8時間スリープを取れたようだね・・・メガトロン様」
「もう行くのか?もう少しゆっくりしてもいいんじゃあないだろうか」
「もうメガトロン様ってば私の頭じゃしっかり勉強しなきゃ覚えられませんから、ね?」

ようやく到着した化学班の研究室兼勉強室でスタースクリームに挨拶をして私はメガトロン様の手からスタースクリームの手にいこうとするのに毎度のことながらまだ話がしたいと渋るメガトロン様にちょっとだけ笑う、この方曰くリーダーになってから対等に気軽に話せる存在が少ないし私には色んな話ができるんだといってくれる。とても嬉しいことだが私はみんなの役に立たなければいけないので申し訳ないがスタースクリームの手の中にいく
彼はぎゅっと優しく包むように私の体を抱きしめてくれる、時々指で確かめるみたいに頬や体をむきゅっと潰される感じはあるから器用な割に人の扱いは苦手なんだとおもって面白くてついついスタースクリームの指に抱きつけば彼は少し驚いた顔をする、毎日こうして抱っこしてくれるくせに本当なれないなんて面白い

「そうそこのパーツを・・・」
「Hayスクリーマー、オレのかわいいエンジェルちゃんはいるか」
「サウンドウェーブ入ってくるなら静かにといつもいってるだろう」
「わっわっサウンドウェーブ危ないよ」
「あぁ悪かったついつい気持ちが溢れて」

突然部屋に入ってきたと思ったら強いハグをしてきたサウンドウェーブは私の知るクールな情報参謀じゃなくって元気な陽気なお兄さんだった、ライムグリーンの金属のハチマキが揺れる度に不思議な金属だなと思っていつも撫でてしまう
彼に抱かれてマスクが外れたと思えばじゃれるみたいに沢山キスされるから海外式の挨拶みたいだけどなれない私はくすぐったくて笑ってしまう

「そういえば昨日はえらく魘されてたけど怖い夢を見たんじゃないか」
「そうなのかアイリス」
「えっまた部屋来てたの?どうだろあんまり変な夢みてないとおもうけど」
「ならいいが・・・というかサウンドウェーブまた部屋にいってたのか」
「アイリスの顔をみなきゃ休めないからな、そういうスクリーマーこそオレよりいい趣味してるじゃないか?昨日のアイリスの寝顔はどうだった」
「別に安全のためだ、当然安定の可愛さだ」
「あとでコピー頼むぜ」

頭上で言い合う彼らをみていれば突然彼の胸元がガタガタ音を立てるから何事かと思えば音を立ててカセットが飛び出した、それは変形して猫ちゃんの形をして私を見るなり飛びついた

「ふふジャガーまで出てきてくれた、相変わらず可愛いねぇあれ?怪我してない?」
「マジかよさっきオートボットに襲われてる民間人の救助に行ったせいだ」
「すぐ治してあげなきゃ、リペアルームいってきます」

ジャガーの背中に乗せてもらって小さな傷でもなにがあるかわからないから念の為リペアルームに無理やり向かう、少しスタースクリームのお勉強会も疲れてきていたからちょうどいい感じだ
リペアルームに入れば見慣れたコンストラクティコン(・・・って言い難い)のみんながいた、彼らはこの世界では建築以外にもお医者さんの役割をしているらしく私の顔を見るなり優しく話しかけてくれる

「ジャガーが怪我しちゃったみたいで」
「そりゃあ大変だすぐ治療しよう」
「ねぇスクラッパー私も手伝っていい?」
「勿論だとも」
「おいおいリーダーだけずるいじゃあないか、俺が教えてやるよ」
「ボーンクラッシャーじゃダメだろう俺が教える」
「ロングハウルお前はほかの患者がいるだろ」
「ミックスマスターじゃあダメだ、この私が1番いいだろうなぁアイリス」
「グレンは1番忙しいじゃないか、俺がいいさ」
「スカベンジャーズまで、お前たちは仕事があるだろう」

そういうリーダーだって!とみんなが言い合いをはじめるから苦笑いを浮かべていたら後ろのドアが開いたので見上げればそこにはアストロトレインがいた、彼は私を見るなり抱き上げてくれて足元には何人かのミニコンたちがいる

「なんだ暇そうでよかった、悪いが彼らのリペアを頼めないか?少々怪我をしてしまってな」
「アストロトレインは大丈夫なの?」
「ん?あぁ私は大丈夫だよ、アイリスはまさか怪我とか!大丈夫なのか?」
「私は大丈夫だよ、ジャガーが怪我してね」
「そうか君に怪我がなくてよかった、こんなに小さな体だと何があると分からないからね」

アストロトレインは確かめるみたいに私の体に顔を寄せて心臓の音を聞く、彼は体が大きいから私やミニコンたちがきっと心配なんだろうけど胸元に顔を寄せられるのはいくらトランスフォーマーとはいえどちょっとだけ恥ずかし気もする
結局ジャガーの手当は1人で出来るからとはいったものの人間の手では心配だからかみんなが私の治療を見つめたから少し緊張した、頑張ったジャガーには私がポケットに入れてたシールを貼ってあげた早く治りますように。ってお願いのようなものだけどそれを伝えた途端リペアルームにいたみんなは突然殴り合いやら壁に衝突やらし始めて少し怖くなって部屋を出た

この基地にいると安心だけれどすこしだけワガママをいうとするなら外に出られないことを不満に思う、娯楽もあるしすることは多いけどたまに外に出たくなる
その度にみんなに怒られるから出られない、そういえば1人になるのって久しぶだし・・・なんて甘い考えで外にいこうと私は足を向けた
先程救難を終えた部隊が帰宅したからかえらく静かで私は外にあと一歩と足を出した途端突然警報が大きく鳴り響き思わず驚いて固まってしまう

「警報が聞こえたからきてみたら外に出ようとしたのかい」
「あっ、いえ・・・ちょっとだけですよメガトロン様」
「危ないだろう?ほらみんな来てしまった、帰りたくなったのかな?」
「そんなことは、ないですよ・・・う、うん、ちょっとだけ外が気になって」
「外に出ていつオートボットに狙われるか分からないだろう?君はここでずっと私たちと一緒にいてくれたらいいんだよ、私たちのために生きてくれたらそう・・・いいんだよ、わかるね?」

警報の音を聞いたせいでメガトロン様の後ろにはみんながいた、心配したようなその目はいつもよりすこし澱んだ色のように見えた
私はわかりました。って返事をしたけど少しだけ怖かったのと最近思い出したことがある、トランスフォーマーのマルチバースに確か反転世界ってのがあることを多分ここはそんな世界で私は完全にここに生きていることを知った
優しいはずなのになんだか凄く嫌な感じがすることを私はずっと思いながら今日またこの基地で生活するのだった。

後日私はメガトロン様に抱き締められながらあの日の疑問を口にした

「どうしてあの時私が出たら警報がなったんですか」
「あぁ君が初めてここに来た時に安全のためにチップを入れておいたんだ、安心だろう?」

メガトロン様は当然のようにそう言った、うん、いますぐ帰りたい。

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