横恋慕なんて自分の柄じゃあないと彼は自分のスパークを疑った、きっと地球に落ちた時に自分のブレインがショートを起こしてしまったんだと言い聞かせた
それでも自分の視線はいつだって彼女を映し、自分以外に笑いかけるその姿に密かに嫉妬した

「ミラージュだんまりしてどうしたの?オプティマスに怒られた?」

ふと意識を戻した時、声をかけられている事にようやく気付いたミラージュは声には出なかったものの重苦しい排気を自分の胸の内に吐いた
ビークルモードの自分に乗っている女性こそミラージュの想い人でありこの地球上・・・いや、宇宙上で1番の親友と言ってもいい男ノア・デイスタスの恋人だった
正確にいえば恋人でないのかもしれないがミラージュの鋭い観察眼ではどうみても2人は出来ていた、互いのことをよく理解しているし距離も近い、両親のことも知るほどの仲というのだからもっと親密なのかもしれない
普段の彼ならきっと親友に彼女との関係は?なんて聞けたかもしれないのにその関係が気になる頃にはもう彼はアイリスに夢中で聞くに聞けない状態に陥ってしまったのだった

「怒られてない、少し考えてたんだ」
「なになに珍しい何考えていたの」
「アイリスの職場への最短ルートとか今日の晩飯についてかな」
「なぁにそれ変なの」

くすくすと笑う彼女に気分が浮かれてスピードをあげればますます彼女は子供のように無邪気に声を上げる、人間にはいろんなタイプがいると彼は理解したその中でもアイリスは彼のスパークを擽った何かと映画やドライブに向こうから誘ってくれるし怒られた時いつだって彼女はミラージュを励ましてくれた
優しく暖かな彼女に恋をしないわけもない

「あっノア!!」

だというのに全くもって彼女の心は別の男にある、仕方がなかったミラージュから見ても彼は魅力的な男で自分だって女だったら彼に惚れていたかもしれないと思えるほど彼の勇気と果敢さは魅力的だ
それでも自分に乗る彼女が他の男の名を嬉しそうに呼ぶのを見るとこのまま車内に閉じ込めて逃避行めもしてやりたい程で

「乗せてくれてありがとうミラージュ」

優しくボンネットを撫でて怒り気味のノアの元に行く彼女の背中が恋しくなった

「そんなに怒らなくていいだろ」

彼の怒る理由はアイリスの門限が遅かったこと2人で出かけたことなど沢山ある、危ないことをするな怪我をしたらどうするとはもうまるで彼の口癖で思わず足元のアイリスを見下ろせばつまらなさそうに自分のネイルを見ていたがこういうところが案外好きだったりする
ふと爪先からこちらに視線が変わったと思いや彼女はノアに聞こえないように小さな声で話が長いね。なんて笑ったから思わずミラージュも釣られて笑ってしまい2人してさらに怒られる始末だ
そうして長い話を終えてもういいからと開放された彼女はノアと共にアパートに消えていく、アイリスは彼らと同棲していてノアの家族とも親密だった
それがどうも嫌になって悩みばかりが増えていた、アイリスは与えられた個室から顔を覗かせた

「ミラージュ起きてる?」
「どうしたお姫様」
「ノアにバレないようにもう少しドライブデートしない?」

願ってもないチャンスだと思わずガッツポーズさえ出そうになる、大きくなりすぎるとバレるので黙って静かに変形して窓際に手を添える、この時必ずライトを誤って付けないように他の車を潰さないようにしないとバレてしまうので普段よりもずっと慎重だった
窓からでてきた彼女は先程と打って変わってさらにラフな薄い格好でその姿さえ彼には刺激的に思えた、手のひらに乗った彼女は小さくて静かに変形すれば車内には柔らかいシャンプーの匂いが広がる

「どこにいきますか」
「おまかせで」
「よし来た、今日は寝かさないからな」

冗談をいって走り出す、その時のエンジン音も極力押し殺してまるでノアから彼女を奪い去るような気持ちだった
彼女はノアとの思い出をよく話してくれるがあまり気分は良くない、デート相手は自分だというのを忘れないでくれと願う。
海沿いを走っていれば街の灯りが反射してキラキラとアイリスの目が輝くものでそれを思い出せるようにとブレインに焼き付ける、夜のデートは初めてではなかった毎度同じルートを走ってもなにも言われないのをいいことにお決まりのデートスポットに変わったのはいつからか

「ミラージュは彼女いないの?」
「え?あっまぁそういうのは・・・なんで?」
「アーシーとホイルジャックは仲良しだからそれっぽいし、あなたにも居るのかなぁって」

同族ではなく目の前のあんたがいい。とは流石のミラージュも言えなかった本気で想ってしまっているからだ

「そういうアイリスは」

ふと彼女の口から2人が付き合っていると聞いたことは無いと思った、気付けば人のいない工場地帯を海を見ながら走っていた為内緒話にはもってこいだろうとミラージュは考えた、いい加減彼女の口から聞いてしまえばこんなくだらない悩みもなくなってしまうかもしれない
2人とも大切な友人だからこそ彼は関係を崩したくはなかった、勇気を出した声は少し震えたかもしれないが彼女はあっけからんとした態度でいう

「え?いるわけないよ」

まるで冗談を言われたように彼女はいつものようにカラカラと笑うものだから思わず変形してアイリスを手のひらの上に置いてしまう、驚いた表情で見つめる彼女もかわいいと思いつつそれ以上に重要な言葉があった

「いるわけないって、ノアは」
「ノアは私の親戚だよ」
「似てないじゃん」
「そりゃあ私のおじいちゃんの兄妹のお孫さんだから、ええっと従兄弟だもの」

思考回路がショート寸前なんてかわいく済ませない、ショートしたのではないかというほどミラージュは追いつかなかった
そんな彼を見てアイリスは知らなかったのかと改めて驚きつつしっかり説明してくれた、彼女はノアの従姉妹でホームステイのため世話になっていると年下の彼女にノアは毎度世話を焼き続けていて嬉しくも恥ずかしく思ってるということだった

「なんだそりゃ」

どっと力が抜けて手のひらの上のアイリスを見下ろせば彼女は少し困った顔をして笑ったあと小さく頬を染めていった

「彼氏はいないけど、彼氏になって欲しい人はいるんだよ」

まさかの追撃があるだなんてとミラージュは見えもしないミサイルでダメージを食らった、もういっそ楽にしてくれと覚悟を決めて相手の話を聞くことにした
彼女は優しくミラージュの指をその小さな両手で抱き締めて熱っぽい視線でいう

「異星人で素敵なブルーのラインが入ったクールなポルシェに変身して」
「なぁそれ」
「私のワガママに付き合ってくれる優しい人」

彼女の少し恥ずかしそうなけれど楽しそうな悪戯混じりのその表情はミラージュを刺激する、まるでスパークを握られたように苦しめてくるのに何処と無く嬉しくて硬い金属のフェイスパーツが緩まっていく、手のひらの彼女はまるで猫のように彼の指に頬擦りをしてみつめるものだから思わずミラージュは返事もなく先にその頬にキスをしてしまう

「あぁもう堪らないな、好き過ぎて溶けちまいそう」
「それで?異星人の女の子には興味無いですか?」

分かりきった答えを聞くために彼女はミラージュの頬を両手で包んでみつめた、彼の丸いかわいらしいオプティックがぱちぱちと瞬きするように点滅したあとすぐに嬉しそうな声を出す

「アイリスっていう子なら興味どころかもう夢中だ」

ノアの説教を聞くアイリスは新しくなったネイルを見つめていた、怒りの矛先がミラージュに変わる時彼女は大きな欠伸をしたのを横目にみていればふと視線が混じり合う声を出さずに彼女がゆっくり合図をするからそのまま抱き上げて逃げ出した
生憎2人の恋路を邪魔されたくは無いのだとミラージュはいう、そしてやっぱりどこか彼って保護者や長男的でオプティマスに似てるね。だなんて彼女は乗りなれたポルシェの中で小さく笑ったのを聞いた恋人は「おいおい彼氏とのデートで他の男の名前を出すなよ」とようやく口に出せるのだった。


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