「アイリスさんっ本当料理上手だよね、どれも本当お店に負けないくらい美味しい」

そういったスパイクの言葉に彼女は少し恥ずかしそうに微笑んでありがとうと短く返事した
つかの間の平和といえようかサイバトロン軍団のみんなでピクニックに行こうといったのはハウンドかビーチコンバーかバンブルかはたまた司令官だったか。いつもの人間のお友達も連れて彼らは人の少ない広い森の中にピクニックにきてそれぞれ自分たちの食事を楽しんでいた

「そんなにアイリスくんのは美味しいのかね」

ホイルジャックがそう彼らに問いかければ賛辞の嵐と言わんばかりに言葉が降り掛かった、当の本人は酷く恥ずかしそうに「ただの趣味だよ」と零した
それからホイルジャックがアイリスの料理というものに興味が出たのは彼の科学者としての好奇心と彼女に対しての好意だろう、彼は夢中になって自分の研究室に閉じこもりあぁでもないこうでもないとウンウンと唸りながら作業机とにらめっこをする

「ホイルジャック少しくらいお休みしたら?最近ずっと子守り気味だよ」
「あぁわかっとるんよ、だけどどうしてもこいつを完成させなきゃならんくてね」
「そう?倒れる前にちゃんと休んでね?あなたが倒れたら私すごく心配になるから」

そういって彼女はホイルジャックに作ってもらったホバーボードを器用に使って机の上に登りその隅にエネルゴンキューブを置いた
健気なかわいい彼女を視界にいれたホイルジャックはこの小さな彼女に夢中で決して互いに何かを伝える訳ではなくとも彼らは特別だった

「これが完成した暁にはアイリスくんのために沢山時間を注ごう」

だから待っていて欲しいと願うように彼はその大きな手で彼女の頭を撫でれば嬉しそうな顔をして彼の手に擦り寄った
あぁいとおしい

それから数週間後のことだろうサイバトロン基地の中でホイルジャックが咆哮をあげた、その声に驚いた仲間たちは敵の襲撃かと思ったが研究室から出てくるなり極めて嬉しそうな彼の姿に何事かと思いつつもきっと何かが上手くいったのだろうと喜んだがそれもつかの間デストロンの襲撃の通信が来てしまう
ホイルジャックは待っていたとばかりに血走ったカメラアイで司令官達と共に走り出し、その日の帰り道のデストロンたちはホイルジャック怖かったね。と話をするのだった

「大活躍だったって聞いたけどまさか怪我してるだなんて」
「す、すまんね・・・あまりにもブレインがオーバーヒートしてしまって」
「そんなに嬉しいことが?」
「そうだアイリスくんついに完成したんだ」
「何が」
「人型味覚共感センサーだ」

彼の言葉に疑問を抱きつつ細かな傷の修理をする彼女は医者では無いがホイルジャックのために身につけた技術だった、ビークルモードの彼は興奮気味にロボットモードに戻りながらアイリスを抱き上げた
まだ治ってないし機材もあるから危ないよ。という意見など彼の聴覚センサーには届かないらしく今回作った発明品の説明を始めた
延々と続くその説明をアイリスは全て聞いた、仲間の誰もがホイルジャックの長く難しい説明に耳を背けてもアイリスだけは違う。子供のように無邪気に楽しそうに話す彼の姿を好んだからだろう

「ってことは私たちと同じものを食べて、それをエネルギーに変えることが出来るようになったってことでいい?」
「そう!インセクトロン達はなんでも食べるだろ?だからあれを考えてね・・・本当はあいつらを一匹捕まえて隅々までみたかったんだが中々捕まえにくくて」
「それでも作れたんだからやっぱりホイルジャックって天才ね」

彼女の言葉に動きを止めたホイルジャックはカメラアイを丸くして驚いたような顔で彼女を見たあと小さくぷしゅう・・・と音を立てた

「あぁアイリスくんに言われると嬉しくてたまらない」

まるで初心な少年のような反応を示す彼にアイリスはキスしたくなる、けれど2人は決してそうしない、彼の頭に抱きついてただ優しく微笑むだけだった。

アイリスくんの料理が食べたいんだ。
そういって招かれたのはトランスフォーマーサイズのキッチンだった、聞けばホイスト達に設計を頼みガス周りや細かな部分は彼らと安全面はアラートに確認してもらったとの事だ
冷蔵庫の中には溢れんばかりの食料がありどうしたんだと言えばスパイクたちに貰ったものや自家栽培したものだという、彼の本気にアイリスは呆気を取られるが少ししてから声を出して笑った

「こんなに私のご飯楽しみにしてくれる人がいるだなんて」
「スパイクくん達がえらく自慢げに話すんだ、キミの料理が美味しいってずるいじゃあないか」

まるで子供のような言い分だと思いながらも悪い気持ちにはならなくてアイリスは嬉しそうに微笑み腕によりをかけることにした
ホイルジャックはアイリスの料理を作る姿でさえ好きだった、無駄のない動きでひとつの食材で何品も作っていく姿はまるで魔法のように感じる
料理は化学だと言うが彼ら自分はここまで器用には出来ないと思いその忙しなく動く背中をみつめた、1時間半ほどしてからようやく終わりを告げた彼女はホイルジャックが用意したダイニングテーブルに最後の料理を置いて彼に案内された席に座る

「いただきます」

人間と同じ挨拶をするホイルジャックはナイフとフォークを使いその料理それぞれマスクを外した自身の口に消していく、エネルゴンしか補給エネルギーのなかった彼にとって料理は魔術だと改めて感じた
彼らはこんなものを食べていたのかと思えば羨ましさすら感じ何も感想を言わないホイルジャックに不安を覚えたアイリスはおいしい?と問いかけた

「美味しいなんかじゃ例えられんよ、キミは天才なんやなアイリスくん」

熱弁するように彼はそういってこの料理は?とそれぞれの説明を求めるものだからアイリスは小さく笑って説明していく
全ての料理が彼の身体に消えた時アイリスは酷く嬉しそうに浮かれた顔をしていた

「ホイルジャック食べかすついてるよ」
「あっあぁすまんね」
「ねぇ、また作っていい?できるなら・・・ずっと」
「勿論だ、アイリスくんの料理なら未来永劫食べていたい」

空になった食卓の上で2人は顔を見合せて笑った、彩り豊かな食卓のように2人のここにも色が増える。
それから2人はずっと同じように食卓を囲うようになるのだった



「味気ないな」

あんなに楽しかった食事がここ数十年なんともつまらないものに変わった、どうせなら彼女にレシピを聞いて少しくらい自分で作るすべを学べばよかったとホイルジャックは思った
テーブルの上に散らばるレシピ通りのかつての料理はどれだけ食べても美味しく感じられずに仕方なくエネルゴンキューブを口に齧り付く、けれどもそれの味も変わらない
決して味覚センサーがおかしくなった訳じゃない

「キミが居ない食卓ってのはこんなにも味気がないんだな」

これから先ずっと彼女はいない、それでも彼は生きるためにエネルギー補給をする、そしてその度に彼は思い出すだろうかつての愛おしい人との幸せだった食卓を。

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