「お願い、もうやめて・・・ここから出してゲッタウェイ」

トランスフォーマーからしてみれば小さな檻の中に入った人間はその瞳に雫を貯めては溢れさせていた、それをみつめるゲッタウェイはスパークの奥から幸福を感じていた。


「なんだこの船には人間がいるのか」

ゲッタウェイがはじめて彼女を見かけたのはロディマスの手の中にいる時だった、聞くにはラチェットの弟子という名目で乗っているらしくその時はどうでもよかった
けれど船の中で唯一存在する有機生命体であるからか彼のセンサーはそんなアイリスというひとりの人間を捉えるようになった、大抵ロディマスやウルトラマグナスにラチェットといったこの船の主要メンバーと過ごしている彼女と接点はなかった

「あなたと話すのって実ははじめてだったり?」
「そうだな、生憎俺は医者にかかるようなことはあんまりないから」
「それが一番だよ、ここの人達ってばみんなちょっとした事で瀕死になる時あるから本当びっくりしちゃう」
「そんなヤツらの身近にいる癖に」
「だってみんな面白いんだもん、ほらそれより健診するからちゃんと座っててね」

半年に1度この船では全員に健康診断がされる、長い旅やクォンタムジャンプなどの影響下で知らぬ間に体に何かあった場合を考慮して面倒ながらも船には優秀な医者が複数名いる為忙しなく働いてくれる
アイリスも例外ではなく健診程度ならば任されるらしく珍しくラチェットも誰もそばにはおらずゲッタウェイの機体に手を滑らせた

「あっねぇ、ゲッタウェイ忙しい?」
「いや特に何も用事は無いけど」
「もう少しお話しない?私ずっと話してみたかったんだよね」

ひと通り仕事を終えたアイリスはカルテを書き終えたあとそういった、ゲッタウェイは不思議とスパークが温まるように感じて二つ返事で了承をした
人間と二人きり、それも滅多に話もできないような彼女と、目の前でマグカップに口付けて飲料を飲む彼女が自分にだけ楽しそうに笑って話をする姿、これが永遠に続けばいいと思ってもそれはすぐに終わる
自動ドアが開いたかと思えばそこにはロディマスと新しく乗船し始めたサンダークラッシュがいた、彼らは健診を受けに来たがラチェットではなく態々彼女の検診を受けたがったらしく時間が被った事に話し合いをしていた

「もうちょっと話してたかったのに・・」
「仕方ない、君は随分彼らに好かれてるみたいだからな」
「そうかなそうだといいな、私もみんなのこと好きだし」
「俺もアイリスのこと好きだけどな」
「嬉しいよありがとう、今度は2人でゆっくりお話してねゲッタウェイ」
「もちろんだ」

短い返事をして別れた、部屋を出る直前彼女を抱えたロディマスとそれに対してなにか苦言を呈すサンダークラッシュに彼は苛立ちを感じていた

あの健診以来彼女はゲッタウェイを見掛けたら話しかけるようになった、他愛もないことから船長会議の話に地球のこと、どんな話もゲッタウェイは機嫌よく聞いた
話をする時に手に座らせることや見下ろすことも気分がいい、その小さな身体が安心しきって自分に身を預ける事は何者にも変えられない幸福感だと彼は思った、小さくてか弱くてけれど芯の強いひとりの医者であるアイリス
彼女だけが今の船の癒しだと彼はフェイスプレートに隠れた唇を噛んだ

「なぁアイリス、メガトロンのことをどう思う」
「どうって・・・最初は噂に聞いてたから怖い人だって思ったけどこの船で話したりしてから印象が変わったかも」
「どういう風に」
「優しくて考え方が違うだけで平和を望んでいたのかなとかって、この間なんてね」

苛立ちを彼女の前では見せたくは無い、ガリガリと彼はバレたいように自身の体に指を立てた傷が入っても気にはしない、それ程までの苛立ちだ
彼がロディマス達を追い出してロストライトの船長になってから心地よかった、マトリクスもプライムも彼女がいればいらないと思えるほど心地いいとさえ感じる。それでも自身の望みを全て叶えたいと彼は傲慢に願う

「ロディマス達帰ってこないね」
「あぁ探索に時間がかかってるんだろうな、でも大丈夫だ俺はお前のそばにずっといるよ」
「・・・ありがとう、ゲッタウェイが慰めてくれると元気になるよ」

二度と戻ってこない連中を懸命に望む彼女に苛立ちを感じながらも共に過ごせる時間が増えることは確かな喜びでもある、けれど嘘というものはいつだって簡単に暴かれていく
彼女と仲の良かった連中が意見をした、サンダークラッシュやパーセプター達だった嘘ではないが意見の相違ということになるだろう、最悪の通信がロディマスから来たときゲッタウェイの計画は完全に狂い始めた・・・否もとから彼の計画などどうしようも無いものだったのかもしれない

「なに・・・してるのゲッタウェイ」

倒れたサンダークラッシュとリップタイド、そして興奮状態のゲッタウェイを見かけたのはアイリスだった
彼女は酷く狼狽えた状態で動揺を隠せなかった、看護師として活動してる彼女から見てナレッジガンを打たれた彼らが重症のようにもみえ慌ててその小さな体が彼女の親しい友人サンダークラッシュに駆けつけてその小さなどんな白い塗装よりも美しい白い手があの青い華やかなボディに触れる

「どうしたのサンダークラッシュ、ねぇこれどういうことなのゲッタウェイ答えて」

震える彼女の声がゲッタウェイの聴覚センサーに震えた、動揺を隠せない音の波長が乱れているのを聞いて何故か彼は気持ちよく感じた、疑いを持った彼女の自分たちと異なる目が彼を捕える

「アイリスの予想通り俺が二人を撃ったんだよ、死んじゃいないから安心してくれ」
「わかった、ブラスターにいってもう一度船長たちに通信っ・・・ゲ、ッタウェイ?」
「あいつらはお前を捨てたんだ、この船は俺が船長だ・・・あんな奴らじゃなくて俺を見ろ、俺の指示を聞いて俺のために動け」

他の誰でもない俺をと彼は言いたげにアイリスに声を荒らげた
突然強く掴まれたアイリスは苦痛に顔を歪めた、呼吸もできずに苦しむ彼女にハッとしたゲッタウェイは手のひらの上に彼女を乗せて謝罪した

「なぁアイリス勘違いしないでくれ、俺は君を傷つけたいわけじゃないんだただこの旅を続けたいだけなんだサイバーユートピアをみつけて」
「わかった、わかったらゲッタウェイ降ろして」
「降ろしたらどうするつもりなんだ」
「何もしないけどあの二人を放置できないでしょ?」
「あぁ君ってどこまでも世話焼きの優しいやつだな」

フラストレーションばかりが溜まる、ゲッタウェイのオプティックが鈍色に染まっていくように感じた。
アイリスを掴んで彼はゆっくりと圧迫していく、決して殺さないように傷つけないように、けれど確実に苦しめられるようにと苦しみに顔を歪め涙を自然と溢れさせる彼女をみて彼は笑う、圧迫による苦しみや呼吸が出来なかった為か意識を失ったアイリスをみてゲッタウェイは優しく微笑みフェイスプレートを外した

「楽園にいこう、俺たちの・・・俺とアイリスの幸せな楽園、サイバーユートピアに、そして俺はプライムになるんだ」

眠る彼女の小さな唇に口付けて彼はそれは幸せそうにそう語る、この夢のためならば尊い犠牲も仕方ないのだと言い聞かせて
彼女に合う部屋も用意して離さないようにと考えて彼は床に倒れる仲間達を冷めた目でみつめるのだった。

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