変形依存症ってやつは人間でいう整形依存性のようなものだろうか
あぁいう人達は自分を虐めるのが好きだな。なんておもった
飼い主であるターンは私の体に"穴"を開けては着飾る、痛みに震える私を優しく撫でながら毎度熱の篭った声でいう

「綺麗だ」

私は早くこの地獄から抜け出したい


DJDという単語を初めて聞いたのは檻の中だった、人間サイズの檻は3畳ほどのサイズをしており快適ではあったが如何せんつまらなかった
地球にトランスフォーマーが現れた以上宇宙人に驚くということは彼女にはもう無かったがまさか自身が拉致されて全く知らぬ星で売りさばかれるとは思いもよらないものであった
如何にも悪人だと言わんばかりのその機体の色をした存在は毎度顔を合わす度に小さな棒状のものを銜えていた、興味本位で聞いたところ高濃度のエネルギーだというが彼女には理解出来ずまぁ食事かと勝手な納得をした
DJDにバレたら終わる、死にたくは無い、お前を売ったらその金でまた別の惑星に飛ぶ。と彼は毎日言っては日々その狭い船は黒い煙を吐きながら機体を揺らしていたあたりこの旅は長くないことを悟った

結論彼は死んだ、ようやく売り飛ばされようとしたその星で残酷な方法でスパークの灯りを消してしまったのだ
そして傍に残された檻をみた1人が「可哀想に奴に巻き込まれたのか」といいながらその檻ごと持って帰った、そうしてアイリスはターンの"ペット"になったのだ

「人間は装飾品を好むという」

はじめてそれを言われた時言葉の意図が分からずに彼を見上げた、ターンは彼女をペットではなく個人としてそれはもう可愛がった
それでも恐怖心が消えない彼女からしてみれば理解もできず毎日心がすり減っていく気分であり、どれだけ身体を暴かれて人間の真似事のごとく繋がりあっても癒されることなど彼女には無い

「それ…なんですか」
「針だ」
「どうするんです」

嫌な予感がした、人間用にしては随分と固くセイバートロニアンにしては柔らかいベッドの上で彼女は仰向けで寝かされて抵抗など出来ずに自分の上にいるその存在をみつめた
彼の手には鋭利な細い針があり、まるで刺繍針のように細かった、そして空いている片手で耳に触れられる
白く何もないその耳たぶを見てターンは「美しい」と熱っぽく呟いた、いつだって彼はアイリスに優しく愛のある言葉を送ってやるが彼女がそれに応えることはないだろう

「私に刺すんですか」
「痛みは一瞬だ」

強い衝撃と共に耳朶に強烈な熱が浮かんだ、耐えられる痛みではあるがアイリスは涙を貯めて必死に赤い血の溢れる耳たぶを抑えるがその細い腕を取られて彼の指先はまた小さなピアスを彼女につける

「あぁ本当に美しいじゃないか」

赤い彼のオプティックと同じ色をしたピアスをその白い耳たぶにつけられた彼女はターンに対して内心死んでしまえと毒を吐いたがそんな言葉は当然喉から出る訳もなく腹の中に飲み込まれた

あの一件以来ターンは人間の装飾をえらく気に入ったらしく、リストを消去する際にお土産を見つければ嬉しそうに持ち帰ってはアイリスにプレゼントした

「人間にはタトゥーというものがあるらしいな、機体にペイントをする」

彼の言葉にアイリスは肩を震わせる、彼の仮面を見つめてもなんの表情も悟れやしない、未だ1度もみたことのない彼の顔は一体全体どんなものなのかと感じる
いつものようにあの大きな機械の手が彼女の小さな耳を撫でる時、ちゃらんと耳に着いた装飾品達が音を立てるのを彼は心地よさそうに聞いた、はじめのころの真っ白な何も無かった無垢な彼女の耳は今はまるでピアスのミュージアムかのように飾られていた、耳朶も軟骨もトラガスも開けられていた

「ピアスもいいがボディペイントもいいかもしれないな、どうだアイリス」
「全身真っ黒にする気ですか」
「まさか、私は芸術を愛しているんだから君の肌に合うようにしかしないさ」

どれだけターンに内心悪態ついても彼女も自分の命は惜しいので決してその口調は変えない、問われた彼は少し驚いたような声色で小さく笑いながら彼女の耳のピアスを外していく

「いっ」
「すまない、ゲージ数をあげようと思ってな我慢できるだろう」

はじめはとても小さな普通のピアスだったものは知らぬ間に大きくなっていった、そのうちペン立てにでもされるのかと思うほど拡がりそうでアイリスは嫌っていた
ピアスを開けたいと思ったことがないわけではないが、あくまでそれはお洒落のためだ、宇宙人に穴だらけにされたかったわけではない。
ターンはひとつひとつとても小さなそのパーツを器用に彼女の耳の穴に通していった、ピアスケースを眺める彼はまるでデートで着る服を選ぶようでそれさえアイリスの癪に障る

「もし入れるならばそうだな、ディセプティコンのマークは必要だろう?それに聖典の言葉をいくつか入れよう、指の背には私の名前なんて素敵だろうな」
「私の白い肌がお嫌いで?」
「そんなに肌を汚されるのが嫌いか」
「・・・痛いのが嫌なだけですよ」
「大丈夫だ、何事も痛いことはその時だけだ・・・お前だって知っているだろう」

最後の飾りを付けたターンの大きな手がアイリスを押して充電スラブの上に寝かされる、彼女はぐっと歯を食いしばった
足の間にいる彼は仮面越しだというのに嫌に嬉しそうな顔をしているように感じられた、アイリスの足を撫でトップスの裾から手を入れた彼は彼女の薄い腹に飾られたピアスを撫でる

「何事も慣れるのが大事だ」

まるでこの環境も、この状況も、全てに対してと言いたげに今から受ける彼からの行為にアイリスは目を背けた
いつか穴だらけの墨塗れになる頃にはきっと正気も失って彼を受け入れられるかもしれないと絶望の中の僅かな希望を見いだして。

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