サンダークラッカーが地球での生活に安定してきた頃彼の友人の1人のメリッサがいった

「ねぇ貴方友達とか作らないわけ」

曰く人間であれば独身の男性(女性でもだ)が犬を飼うとなるといよいよ"終わり"だという、そんなお前はどうなんだと言えば私はあなたに言わないだけでパートナーがいる。と言われてしまい思わず驚いてしまう
とはいえサンダークラッカーは無意味に友人を作る気や交友関係を無意味に広げる気はなかった、人間のことを嫌っている訳では無いが無意味に事を広げたくないのだ、彼とて自分で付き合う人間くらいは決めたいと思った、特にサイバートロニアンともなれば人間達は様々な目を向けることが多い好意的なものもその反対も
メリッサはそんな腰の重い彼に友人とやらを作るのもまた彼の作品作りには欠かせないのでは無いのかというとサンダークラッカーは確信をつかれた様な気もした
どれだけ映像の中のフィクションを見ても自身の経験に勝るものは無い、仕方なく彼は友人の作り方を調べることにした

「なるほどなコミュニティ掲示板で今どきは友達を作るのか、これなら俺だって大丈夫かな」

彼が目をつけたのは掲示板サイトだった、チャットのように人々がひとつの話題について会話をする仲良くなれば個人的な連絡を取り合ったりもできるというわけで丁度彼にはいいものだった
適当に会員登録を済ませて気になるトピックを何点かみた、主に最近の映画やドラマのこと、そして愛犬について
彼はそこで1人の相手と知り合った名前は"スペック"という人物だった、男か女かはたまた人かどうかも分からない、当然彼の能力であれば調べようとすれば造作もないことだがそんなつまらない事はしたくなかった
今どきはSNS等から恋愛に発展するというのもあながち間違いでは無いなと感じていた時ふとそれは音を立てて通知を鳴らした"スペック"からの連絡である

「なになに『個人チャットのお誘い?』」

どうやら運営を経由した相手からの依頼は表立った掲示板ではなく個人的に話をしたいということに変わったらしい
サンダークラッカーがこの相手を気に入ったのはこのスペックという人物が何処までも自身の犬を深く愛していることを実感したからである、それにアドバイスはいつだって的確でサンダークラッカーが困った時大抵助けてくれるのはこの人物だった、愛犬家の掲示板ではあるが犬の話以外も多い中でスペックは犬の話にしか参加しない
それはサンダークラッカーとて同じでいっその事いつか個人チャットでもとは思っていたのは事実、それがまさか向こうからの誘いとは思わなかったが有難いことこの上なく"了承"とクリックすれば初めて見る個人チャットの画面に切り替わった

「はじめましてバスターさん、この度はお誘いを受けて下さりありがとうございます」

直ぐに丁寧ないつもの文体のメッセージが飛んできたことに思わず彼の金属の口角が緩んだ、当然同じように返事をした
バスターというのは彼の愛犬の名前ではあるが本名はあまり良くないと書いていた為に使った名前だった、それから相手と毎日メッセージをする中で会ってみたいと感じていた頃一通のメッセージが音を鳴らして届いた

「『バスターさんさえ宜しければ会えませんか?』だと・・・バスター、見てくれこれって」

小さな彼女を抱き上げて彼はとても嬉しそうに言った、だがしかし自身はサイバートロニアンであることを告げていない以上相手を困惑させるのではないかとも懸念した

「やっぱり会わない方がいいかもしれねぇな」

サンダークラッカーが自信なさげにいったときまるで勇気付けるように彼の相棒のバスターは彼の頬を優しく舐めてその小さな体で大きく吠えた、それにつられて笑ってダメならそれでもいいかと言い聞かせることが出来た

当日家に呼び出したサンダークラッカーは胸を高鳴らせた、どんな相手が来るのか分からなかったからだ
相手が相棒は大型犬であるというだけの情報だ、文面からして礼儀正しい人間なのだろうと予想はついていたがそれ以外は何も調べもしていない今迄軍にいたようなサンダークラッカーならありえないような行動だっただろうがそれほど同じく犬を愛する者に悪いやつはいないとも思えていた
ふと家の外から車のエンジン音が聞こえたと思えばそれは丁度家すぐ前で止まった、そしてドアの開閉音が聞こえて彼の家に近付いた
人間向けのチャイムが数度鳴らされて彼は高鳴るスパークを落ち着かせながらドアを開けた先にはメリッサとはまた違う人種の女性がそこにいた

「はじめましてあなたが"バスター"さんですか?」
「あぁ、そういうあんたは"スペック"か」
「えぇ本当のスペックは彼なんですけど」
「こっちも本当のバスターは彼女なんだ」

サンダークラッカーの登場に驚いた様子もない彼女は笑って行儀よく座っていた大型犬を紹介するものだから同じくサンダークラッカーも自身の手に抱いていたバスターを紹介した、バスターは興奮したように床に降りると彼女のパートナーに飛びついたものだから珍しいなと感じた

「私はアイリス、貴方は?」
「サンダークラッカーだ、気軽に呼んでくれ」


そうしてサンダークラッカーは愛犬家仲間を作ったのは早半年前、アイリスは思っているよりも彼らの近くに住んでいて週末になればサンダークラッカーの家に泊まりにやってきたしサンダークラッカーも街には降りれないがオルトモードで連れ出した
生憎バスターは彼女の相棒をいたく気に入ったらしく二人きりで寄り添って過ごすことが多かったので邪魔をしないようにとサンダークラッカーとアイリスは度々2人で時間を作ることも多かったのである

「いい映画だったな」
「本当に・・・あっという間の2時間だったね、やっぱり私ミュージカルとかラブストーリー好きだなぁ」
「次回はアクション映画にしよう」
「それこそカンフーなんていいんじゃない?」
「カンフー?なんだそれアイリスがいうなら面白そうだ」

2人の繋がりは犬だけに留まらず、映画にドラマにテレビ番組に音楽等様々なものがあった
サンダークラッカーの大きな家の中のモニターでみる映画は圧巻でアイリスは見たいものがあればその都度レンタルビデオ屋にいって彼と一緒にみては2時間弱の時間を過ごして感想を声高に話すのだ
そんな2人に互いの相棒達はどことなく呆れた様な顔をしているようにも見えた

「サンダークラッカーも人だったらレンタルビデオ屋さんに行って借りれるのになぁ」
「でも俺はアイリスが選んでくれる奴はどれも嫌いじゃあないぜ」
「嘘でしょ、この間の映画はめちゃくちゃ貶したくせに」
「アイリスだって貶してただろう、あれは酷過ぎた」
「わかる、脚本が無茶苦茶だったもん」

サンダークラッカーがエナジョンを、アイリスがコーヒーを飲みながら楽しそうに話をする、いつの間にか彼の部屋はメリッサだけが来ていた頃よりもずっと人間に快適な部屋に変わっていた
アイリスの為の冷蔵庫やら食料品が用意されていたりもするし、泊まりに来る彼女は2.3セットほど服を置くほどになっていたほどだ

「今度はサンダークラッカーが選んだ映画みたいな」
「アイリスを満足させられる作品を探すのか・・・骨を折りそうだな」

なんといっても見ている作品数だけでいえば彼女の方が上だからと彼は苦笑する、それでもアイリスはサンダークラッカーが選ぶなら何だっていいのと返事をする
フワフワと柔らかいものに包まれるような感覚を近頃彼は不思議に感じた、それはこうして時間を共にする時に起きる時もあれば何も無い時でも起きる、具体的に彼女のことを考えると起きるのだから不思議なものだった

「ラブストーリーがいいな、とびきり甘ったるい感じのやつ」

ヒントをくれる彼女にどうかお眼鏡にかなうやつを探すと約束をした、映画を終えてコーヒーを飲み終えてもまだ2匹は起きる気配もなくアイリスは笑いながらいつもの様に夜の散歩を誘った
誰もが寝静まったような夜は2人をさらに楽しませてくれる、会話の内容はいつだって同じだと言うのに飽きることは無いのは何故なのかそんな日々を過ごしていた時、サンダークラッカーの家の中でアイリスは今日も仲良く寄り添う2匹を愛おしげに眺めながらつぶやいた

「なんだか2人ってカップルとか、夫婦みたいだね」
「確かにバスターはメスだし、スペックはオスだから丁度いいな」
「ずっと一緒に居させたくなるね」

2匹は似たような境遇を経験したし、同じような交配種であった為に親近感などもあるのだろう
アイリスの意見には彼とて強く同意する、いつも2人が帰る時バスターは寂しそうに子犬の頃のように鳴くのを聞く度に自分さえ悲しくなってくるのだから不思議であったがそれはバスターの悲しみに寄り添っているからだとおもっていた、けれどそれが違うことに気付いたのはアイリスに会うと心地よく離れると心苦しくなるという事実に気付いたからであった

「一緒に居させてやってもいいかもしれないな」
「えぇ?スペックは私の家族なのに」
「アイリスも家族になったらいいだろ」

だからこれはとても難しい言葉だとサンダークラッカーは思った、彼は自覚したのだ異種族であるアイリスを愛していると
初めこそその気持ちに戸惑いを感じたがその戸惑いを消したのはやはり地球のテレビ番組だった、ラブストーリーをみていればその苦しさと喜びを含めて愛なのだと知らされた
友人という枠を超えるのが怖いという気持ちもよく理解した、この関係が壊れて万が一恋人でも友人でもなくなったらきっと絶望のあまり何にも手がつかなくなり機能停止するかもしれないとさえ思っていたのだ
ふと彼女を見つめれば、ゆっくりと顔を上げたアイリスと視線が絡み合う、真っ赤な林檎のように赤くなった彼女を純粋に愛らしいと思った自分の期待と違うその色に触れたいとおもった

「それって」

どういう意味?と彼女が聞くものだからサンダークラッカーは決心して彼女を抱き上げた、そして黙って見つめ続けてゆっくりと顔を近付ければ彼女は拒絶することも無く彼の大きな唇を受け止めた

「こういう時ってどういう言葉をいうべきなのか」

何が正解だったかと100万通り近くあるラブストーリーの内容を思い出しても答えは出なかった、アイリスは彼の言葉に「その言葉でいいかも」と小さく笑うものだから正解でよかったと胸を撫で下ろせばチュッと音が鳴ったときサンダークラッカーはアイリスにキスされたのだと気付くと一気に機体温度があがるのを感じた

「今すぐオールスパークに返るかもしれないな」
「まだダメ、今から沢山家族の思い出作らなきゃでしょ」

まずはそう家族写真からかな?という彼女にまるで夢現な気分になって彼は酷く頬を緩めた、そんな2人をちらりと覗いていた2匹のカップルは嬉しそうに微笑んで同じように鼻先でキスをした
取り敢えず4人を全部撮してくれるカメラマンを探さなきゃねと笑う声が響いた

そんなこんなでサンダークラッカーは"友人"作りは失敗したと語った、彼の唯一の友人であるメリッサは絶句してしまう
友人ではなくまさか異種族同士の恋人が出来るとは思わなかったからである、そういやお前のパートナーは?と聞いてくる彼に思わず苛立った彼女はハナから居ないわよ。と苛立っていえば丁度コーヒーを入れたアイリスがメリッサらしいわねと笑いながら2匹を連れて入ってきたので思わずマグカップを奪って一口で飲み込んではその家から飛び出した
あぁもう末永くお幸せに!と声を荒らげながら

「なぁアイリス次の脚本考えついたんだ」
「どんなお話?」
「犬を通じて知り合った2人が恋人になる話」

それって凄く素敵。と彼女は顔を寄せるサンダークラッカーの唇にキスをして笑うのだった。

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