光 それはまさに眩いもので彼女のことだろう
アイアンハイドは奥で忙しなくサイバートロン星に来てまで働き詰めの人間をみて彼は直ぐに視線を逸らした、故郷を捨ててまでやって来た彼女は今なにを思うのか彼には分からなかった

1度死んだと言われても何かしらの冗談にしか聞こえなかった、だがしかし荒廃した母星や仲間達を見て本当に戦争が起きたこと自分達は400万年も同種族同士で戦っていたらしいことを納得せざるおえない
そして戦争が集結したから全ては元通りのハッピーエンド・・・な訳には行かない、次は戦争の後片付けが待っているのだから忙しいことこのうえない、地球に居た時に人間を何度も目にしたが彼女だけは違ったラチェットの助手として働くアイリスはオートボットの誰もが信頼をして人間が得意じゃない連中だって彼女にだけは悪口のひとつ嫌味のひとつすら言わなかった

「彼女はお前の恋人だったんだ」

そういわれたのはアイアンハイドがロディマスやウィーリーサンストリーカー達と地球に戻ってきて仲間達に出迎えられた後だった
みんなが驚きと歓喜に声を上げる時アイリスも当然その1人だった、彼女は興奮のあまり彼以外視界に映らず当然声も届かなかった。
それ故に赤いその巨体に抱き着いて誰よりも静かにそして重たい声色で「あぁ神様ありがとう」というのだ、その時記憶を無くした彼は初めて遭遇する有機生命体に戸惑いながら問いかけた

「悪いが誰だ?誰かのペッ・・・仲間、パートナーか?」

あの時アイアンハイドはやってしまったと心底思ったことだろう、全員が絶句する中で誰かが彼には400万年の記憶が無いんだ。という言葉がようやく届いたらしいアイリスは慌てて体を離した
金属の彼らと違う柔いヒトは瞳を零さんとばかりにうるませていたのをどうにか拭って「初対面の人なのにごめんなさい」そして背中を向けて去った時喜びなんてのはその場で消えてしまった、戦争を覚えていないことや突然の世界への困惑以上にあの小さな背中に対して罪悪感が芽生えたのだった、その後身体検査をした昔馴染みのラチェットの言葉に顔を覆い隠した

「俺が?あんな小さな生き物が?」
「別に異種族だからって珍しいことは無いだろう、前例はまだ聞いたことがなくても知的生命体同士惹かれ無いことはない」
「そうだけどなぁ」
「謝ろうって思うのはやめておけ、アイリスは余計に傷付くぞ」

厳しい口調にラチェットがあの人間を大切にしていることは即座に理解してアイアンハイドは口篭る、直ぐに人の思考を読み取るのはやめてくれと思いながら
そうして彼はアイリスに極力関わらないようにと考えた、彼は難しいことを考えることが苦手である故に単純な行動しか起こせない強引だが彼女との接触をしないことが互いにとっては1番だと言い聞かせた
けれどそんなことも気にした様子もなくリペアが必要とあれば彼女は飛び出してアイアンハイドの診察をする、それはラチェットの忙しさもあるのかもしれないが特別に感じられた

サイバートロン星に帰郷するとなった際アイリスとはいよいよ別れるだろうとおもっていたのに彼女にはもう地球に居場所がないという、そうしてオプティマスから許可を貰った彼女も共にサイバートロンにやって来た
これもまたアイアンハイドの予想を裏切った、ラチェットがナイツオブサイバートロンの旅に出ると聞いた時について行くと思ったがそれも裏切られた、どうしたら彼女が自分の視界に入らないようにできるのか分からないがかといってアイアンハイドは無理やり自分が星を抜けるという考えにも至らなかった
オートボット、ディセプティコン、ネイルで相見えるような緊迫したこの星でも彼女は関係なく傷付くものを助け続けた

「そんな仏頂面やめたらどうだ」

目の前の元ディセプティコンかつ現ネイルの友人スカイバイトは彼を見据えてそういった、彼の言いたい言葉が嫌という程わかるアイアンハイドは聞こえないふりをして視線を逸らした

「元から俺はこういう顔だ、それより今日はステージに上がらなくていいのか」
「確かにそういう顔だったな、アイリスのことだろう」

彼女はいい・・・と短く言ったと思えば詩を唄い始めるヤツに重々しい視線をぶつけた

「なんだその詩は」
「気に食わないのか、俺ならもっといい詩を送れると?」

そうじゃないとアイアンハイドは思った、嘘だ、少しだけそう思った、いつだってあの小さな身体でオートボットの本部や街を駆け巡る姿に自分たちの身体を知り尽くしリペアする姿、笑う時に恥ずかしそうに口元を隠す姿など表面だけで例えられる言葉は沢山あるというのにスカイバイトが唄うそこには何も無い
ただ健気でかわいい人間。というだけで魅力なんてどこにも詰まってないじゃないかと三流以下の詩だと毒付いた

その裏の席に座ったネイル達が丁度大きな声でアイリスの話をし始めた、治安維持法を無視した行為をして逮捕されそうになった時にアイリスが庇ってくれただとか怪我をした時に彼女がリペアを担当してくれただとかそんな内容だ、物資も限られている中で誰彼構わず医療行為をするなとプロールに強く言われているであろうにも関わらず医療事業者としてのモットーに従うまでだと彼の指示を聞かずに行動しているらしいことは知っていた
その行動が彼らのスパークに刺激しているとはきっとあの異星人は気付きもしないと苛立ちを感じた彼はグラスの中のエンジェックスを飲み干して音を立てて席を立ち上がり店を出た
何処に行く予定もない、しばらく救援を求める通信も来ない上にこれといった予定もないのだ簡単にいえば暇をしてる状態で視界に入ったのはやはり彼女だった無意識に彼女の移住区近くに来ていたらしい、 忙しなく働く彼女が自分よりもはるかに大きな荷物を作業ロボやら強化アーマーを着てなんとかしているのをアイアンハイドは見ていられずに近付いた

「何処に運ぶんだ」
「アイアンハイド・・・ええと、部屋の中にお願いしても」
「わかった、残りのも置いておけ全部持っていく」
「ありがとう」

小さく花が咲いたように笑う彼女にスパークが火花を散らした、この気持ちは空白の時間のせいなのかどうなのか彼には分からなかった、サイバートロン人サイズの配送箱を5.6個運び入れ終えて去ろうとすれば彼女はお礼にお茶だけでもといった
飲んできたばかりだと言いたかったがあまりにも引き止めたそうな彼女の表情にアイアンハイドは困ったような表情を浮かべて仕方がないと二つ返事をした
はじめて入った彼女の家の中は人間サイズの家具もそれなりにはあるが殆どサイバートロンサイズのものであり歪な空間に思えた、医療スラブに腰掛けたアイアンハイドの前に少ししてから手伝い用のロボットが彼らサイズのマグカップを差し出した中には純正品のエナジョンの味がした、今やこの街の治安は完全にいい状態とはいえないので粗悪品を掴まされることが多いがアイリスはその辺も見聞きして買っているようだと安心した

「本当ありがとう、この子と私だけだと搬入作業だけで30分以上掛かっちゃうから助かったよ」
「いやいいんだ、それよりも一人でここに?」
「アイアンハイドはそういえば来るの初めてだもんね、そう一人かな・・・毎日患者さんは来るんだけどね」

アイアンハイドは という辺り他のオートボットの連中は来たことがあるのだと察しては分からない苛立ちを感じた、随分と下にはなるが向かい側に座ったアイリスはやはり随分と小さくその手は少しだけすす汚れが残っている、何を話す訳でもない2人はただ静かに少し大きなマグを片手に過ごした

「もう慣れてきた?」

アイリスの言葉にアイアンハイドはそれはお前に聞きたいことだと思った、かたや400万年の歴史を知らずに過去から来た者、かたや全く異なる星に移住した者、互いに慣れたかと言われればまだである

「まぁそれとなくだが、そっちは」
「みんな良くしてくれるからそれなりに」
「ネイルの奴らがお前のことを褒めてたな、あまりプロールに逆らうとあとが怖いんじゃないか?」
「それは貴方もでしょ、プロールに反論したって聞いたよ・・・まぁ本当にダメなら2人して監獄で会えるかも」

その言葉にアイアンハイドは小さく笑う、勘弁してくれよ。と
二人は互いによく似ているのだろう、頑固で意気地無しで自分で物事を解決しようとして暴走しそうになる、そしてその反省にまた一人業火に身を委ねようとする

「貴方に会えるなら私どこでもいいし」

ちいさく呟いた言葉を聞き逃さなかったアイアンハイドは口を閉ざしてしまう、彼女にとってのアイアンハイドは今も昔も変わらないただ唯一愛する人なのだろう、けれど彼は彼女に上手く答えられないのだ、どれだけスパークが苦しくなってもその反対に今のようにどれだけ安らかになっても

だからこそ彼は聞こえないふりをした、新しくなったとはいえ何百万年も生きている彼の聴覚機能は劣ることを知らないのだ
けれど二人には少しだけ進展があった、一人で働き詰めの彼女の手伝いをするようになったのである、アイリスはその小さな体でこの大きな惑星に住んでいる為に生活には困ることも多かった、更にはディセプティコンもオートボットも関係なく手助けする彼女に不埒な事を考える輩も少なからずいるのを知ってしまえばアイアンハイドは落ち着いて見ていられなくなったのである

「お手伝いさんが怪我されると困るんだけどな」
「悪かったッ・・・優しくしてくれアイリス」
「優しくしてるってば貴方が無駄に傷をこさえるからでしょ」

それでなくても物資不足で大変なのにどうする気なんだかとプスプスと怒りを口走る彼女にアイアンハイドは苦笑いする
どうしてこうも喧しいはずの小言が気持ちいいのだろうか、その柔らかい手が機体に触れるのが何故ここまで心地いいのか分からない、ふと自分の腹部を治す彼女に無意識に手が動いて器用にその小さな頭を指先で撫でたことに彼自身も驚いてしまう

「わ、悪い」
「いいの、いいからもうちょっとだけ撫でて」

泣きそうな嬉しそうな彼女の表情にアイアンハイドは何も言えずその指先で小さな頭を何度も撫でては懐かしいような気分になる、今すぐ抱き締めてキスをしてやりたいとさえ錯覚するがそれは自分の思考では無いと判断した彼女の想いに強く同期してしまっているせいだと言い聞かせた

「アイアンハイド」

仮に同期してしまっているだけだとしても彼女にこんなに熱っぽく呼ばれるのなら悪くは無いと、他者と同期できるような能力のない彼は思うのだ

2人の距離は少しだけ変わった。
地球にいた頃の2人を知る者からしてみれば以前に近くなったといえるような距離感だろうか、けれど2人はまだ完全には戻っては無かったそれでもアイリスは構わないと感じていた今はまだこの少しだけ他人の距離が1番安心出来るからとアイアンハイドの想いなどつゆ知らずかいつも通り彼の細かな傷を治したアイリスは彼の胸に顔を寄せた、どこまでも熱い蕩けた眼をしながらも好きとはいえず

「あんまり怪我しないでね」

まるでそれが愛している。という言葉のようにいうものだからアイアンハイドは素直に彼女に愛の言葉を伝えられずその背中を撫でて短い二つ返事をするのだった歴戦の戦士が恥じるほどに緩みきった顔をしてその小さな唇に口付けを落とせたらと願いながら
まだほんの少しだけその勇気が出せずに自身の機体に柔い体を押し付ける彼女の熱を感じるのだった

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