※擬人化要素有


映画や小説のように運命や必然というのは確かにあるのだと理想主義者と宿敵に言われながらも比較的自身をリアリストだと語るオプティマスはその時おもった

「すみません、ここにはどう行ったらいいかわかりますか?」

近頃人間とトランスフォーマーが共同開発したというヒューマノイドモードは今まで自分達が使っていたホログラムとはまた全く別で人間の姿に変えられるというものだった正式には限りなく人間に近いアンドロイドのようなものだ、これはあくまで擬態であり人間社会を知るためであり、人間社会に溶け込むには打って付けのものであり彼らの生活の支えにもなる
この新しい技術を得て喜び、休みになれば街に繰り出す仲間もいる中でオプティマスは初めて一人で街中を歩いた、ガラスに反射する彼の姿は凡そ40代半ばから後半で白髪混じりのブルーアッシュの髪は綺麗に後ろになで付けられており他の人間よりも頭がひとつ飛び抜けているような高身長の紳士的な中年男性であった、オプティマスは普段とは異なる目線が新鮮であり普段走っている街中がまた新しいものにもみえるとガラスから街に目を向けた

そんな時ひとりの女性が先程の通りそんな彼に声を掛けてきたのだ
困ったような顔をして手元には地図があり少し寒くなってきた街中で鼻先を赤くしていた

「これは」

彼女が求める場所は現在地とは随分と違うようだと思った、遠い場所から来たのか土地勘に疎そうなその女性をオプティマスは何故か放っておけなかった、口頭で伝えてみるも彼女は頭の上にあからさまに?マークを浮かべておりどうしたものかとおもいながらひとつ提案をした

「ちょうど私は暇をしているのでその場所まで同行しよう」
「ええ、でも遠いんですよね」
「調べたところ地下鉄で4.5駅だそうだ」
「調べたって・・・今何もしてなかったですよね」

しまったいつもの癖だ オプティマスは自身が人間でないことを軍の人間以外にはあまり知られてはならなかった、怪しまれたか?と思い見下ろせば彼女は目を輝かせて「都会の人ってやっぱり凄いんですね」と告げるものだから少なからず彼女が無垢な人間でよかったと思った警戒心が強ければそもそも彼のような見た目の人間には声を掛けなかっただろうとはオプティマスは想像しなかった

そうして2人は地下鉄に乗って彼女の望んだ場所まで案内した、そこはホテルでもなくただの小さな個人経営のカフェでありまたオプティマスは驚いてしまう、話を聞くに彼女は地方民らしかく表情をコロコロと変えて話をする彼女に夢中で普段関わる人間とは異なる彼女にオプティマスのスパークは柔らかくなっていたことに彼自身はすぐには気付かなかった

「来たかったんですよね、そうだお時間ありますか?」
「あぁ」
「お礼にご馳走します」
「いやそれは」
「どうせ私1人の予定だったんですけど2人の方がきっと美味しいと思いますから」

案外押しが強く誘ってくる彼女に断る理由もないかと判断して彼は自然と手を引かれて店内に入り込む、人間の店に入ることもましてや食事をとる事も初めてだとオプティマスは内心ドギマギしていた
とはいえ店内はミーハーな若者ではなく今現在のオプティマスのような落ち着いた年齢層の人間が数名いるだけで随分と静かな店であり、1人で切り盛りしてるらしい初老の店員が好きな席へと声をかけるものだから彼女は喜んで2人掛けの席に腰かけてメニューを眺めた

「ここのコーヒー美味しいんですってラジオで聴いて来てみたかったんです、全然場所分からないからオプティマスさんみたいな優しい人と来られてよかった」

ここでネタバラシをしたら彼女はどう思うのだろうかと考えた、焦るのか驚くのか泣くのかはたまた冗談と笑うのか、たかだか出会って1時間程の彼女に一体何を思っているのかと彼は彼女の手の中のメニュー表を眺めた

「こういうところは来られませんか?」
「そうだな、外食自体があまり」
「私が注文しますね、なにか苦手なものはありませんか」
「特にないが君が選んだものを試したい」

アイリスという名前の彼女は少し都会から離れた場所に住んでいるのだという、家からバスでここまで来て街を探索していたのだと、初めて飲むコーヒーの味よりも彼女の声と会話に夢中になっていた
ふと横を向けば鏡に反射する自分は知らない自分だとオプティマスは思ったそこには金属の身体はなく血と肉が通る人間のようであった、店に入って2時間ほどカップの中のコーヒーも空になり彼女は「寂しいですけどそろそろ出ましょうか」という時計を見てみれば自身も帰宅時間だと思い出した

「アイリスそのくらい私が」
「いいですよ、素敵な時間を貰えましたから」
「こちらこそとても素晴らしい時間だった」

お会計で彼女はサッと2人分の金額を渡してしまうものだから支給されていた財布を開く間もなくオプティマスは彼女に抗議するもそれは受け入れられられずに変わりに小さな微笑みが返される
店を出て直ぐに行ってしまった彼女の背中を見て不思議な感覚だったとオプティマスは思いながらNESTの基地に帰った


あの日以来彼女を忘れられなくなった
調べれば簡単に見つかると分かりながらもあの時のような偶然を望んでしまうオプティマスは人間とは異なる優秀なその検索能力を使わなかった
その代わりに週に2日ある内の1日は人間の姿になって街に出かけるようになった、仲間達にはあの司令官も遊びを学んだかとからかわれる程で気恥ずかしいものであるが否定は出来ずに曖昧に答えた
何となく察しているらしいメンバーもいたが彼らも深くは追求しない、そんなある日オプティマスは少人数で武器の輸送任務にあたった帰り、仲間たちは他の任務やら休暇の関係で別行動になってしまい1人基地に戻ろうとしていた
広い何も無い道を走っている時前方には自分と似たトラックが止まっており、運転手は車から降りて地図を睨みつけていた、念の為にホログラムを車内に撮して近付けばオプティマスはおもわず驚いてしまう

「こんにちは素敵なファイアーパターンのトラックの方」
「こんなところで立ち止まっているようだが大丈夫か?」
「えぇ少し次の行き先を確認しつつゆっくりしてたんです、ここってば車も人も来ないからあなたはお帰りですか?」
「あぁ君は今からまだ仕事が?」
「ええ生憎と、そろそろ行きますね」

そういって華奢な体に見合わない大型のトラックに乗り込んだ彼女はエンジンを入れて走り出そうとする、窓を開けて出発する直前彼女は言った

「そっちの姿も素敵ですよ」

ホログラムの調子が悪かったか?はたまた自分は知らぬうちに名乗っていたのか、分からないと思いながらオプティマスはその場から動くことが出来ずにそのトラックの背中を見つめた
彼のブレインはますますあの女性、アイリスに夢中になった、もう一度会えないだろうかだとかあの時追いかけたら良かっただと考えるがまるで彼は恋する少年のようだと周りの連中は口を揃えて言うほどである
オプティマスも自分がそれなりの重症だということは分かっていたがどうしようも無かった、彼女の控えめな笑顔や今どきラジオや地図を使う古典的な部分に女性らしい華奢でお淑やかさがあると思えば自分と同じかそれ以上の大型トラックを運転する姿はまさに魅力的であったのだ、例えそれが2回の出会いで数時間にも満たない出会いだとしても十分なほどに魅了されていた

いつの間にやらオプティマスはあの日彼女と来た店に1人で入ることには慣れており、いつもと同じ席で同じコーヒーを片手に座って何をするでもなく座っていた
向かい側の席が音を立てた為彼はふとみつめればそこには待ち望んでいた彼女がマグカップを片手に座った、まるで毎日会うような気さくな笑顔を向けて

「今日はキャラメルマキアートにしてみました、オプティマスさんはコーヒーですか」
「これしか知らないんだ」
「飲みます?」

口をつけたあとだが彼女の提案をのんだオプティマスはその熱いマグカップを顔色変えずに受け取った、コーヒーとは異なる味と香りが広がり小さく 美味しいな と呟いた
向かいに座った彼女は久しぶり会う友人に話す素振りでここ最近のことを話しはじめる、仕事が忙しかっただとか両親が家庭菜園を初めて付き合い始めただとか如何に生活が充実しているかが分かり聞いているだけで心地よいほどだ

「でもオプティマスさんに会いたかった」
「私も君に会いたかった」
「仕事中に会えた時嬉しかったですよ、あの辺で仕事してるんですか」
「いやそういうわけではないんだが」

言葉を濁す彼にそれ以上深く追求しない彼女、オプティマスは少なからず彼女に姿を晒してもいいのではないかと思いながらも躊躇った、彼女が一般人であるからなのかはたまた自分を受け入れてもらえるか分からないからか
マグカップの中の液体に反射した自分は見るからに人間である、けれど本来はこの姿とは全く異なる存在であることを彼は痛感していた

「私最近本格的にコーヒーを入れられるようになったんです」
「それは素晴らしいな」
「だからこのお店じゃなくてもコーヒーは飲めますよ」

あなたが望むならどこでもいれますよと告げる彼女にオプティマスはソーサーの上にカップを置いて彼女を見つめた、穏やかに微笑む彼女にオプティマスは勇気を持って口を開いた、それはコーヒーが飲みたいだったのか君ともっと話したいだったかもっと違う言葉だったのかは曖昧だ



それから数ヶ月後オプティマスは自身の休暇の日に人の姿になることは減った、ビークルモードで彼女を乗せて走り出す風と共に彼女とコーヒーの香りを感じながらオプティマスはラジオをつけた、午後のラジオはティータイムとご一緒にお聴き下さい。というMCの声を聴きながら彼女は嬉しそうに缶コーヒーに口をつけた

「そういえばどうしてあの時私だとわかったんだ」

ふとオプティマスは彼女に問いかければアイリスはその言葉に驚いた顔をしたあと楽しそうに笑った

「見た目が変わっても声は一緒だったから」

あぁなんて単純でわかりやすい種明かしだとオプティマスは少しだけ恥じらえば彼女の手がハンドルを撫でながらいった

「それにオプティマスならどんな姿になってもわかるよ」

その言葉にオプティマスはスパークが燃えてしまうんじゃないかと思うほど喜んでしまう、叶うなら今すぐ彼女にキスをしたいと思いながらどうにか足を止めないように走り続けた

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