メガトロンは近頃ちいさな悩みを抱えていた、それは本当に今迄の中では些細なことには過ぎないが大切なことでもある
デストロン軍団の捕虜となった人間であるアイリスについてのことだ、捕虜とは名目ばかりの彼女はデストロン軍団の科学者として現在活動中である、彼女の考えるエネルギー開発は毎度の事ながら驚嘆する
もちろん地球は彼女の星である故に彼らからしてみればまた違う視点での考えになるゆえに斬新な考えが多かった、彼女の知能についてはスタースクリームはおろかレーザーウェーブでさえも絶賛する程で彼女を拾ったメガトロンからすればいい拾い物である
おまけに彼女は従順でデストロン軍団に仲間意識を持っている、科学的な面以外でも当然彼らの手当もできる為に毎度軍医のような扱いとして地球にいるデストロン軍団を全体的にリペアしていたビルドロンのグレンは彼女に感謝しているほどだろう

とここまで完璧な彼女に不満なあるとは破壊大抵もまた強欲なと思われるのかもしれないが彼の想いはまた違う部分のものであった

『それでアイリスの気持ちがわからない・・・と?』
「あぁこんな事をお前に愚痴るとはな」
『いえいえ、地球にいる者たちには反対にいえないことでしょう』

画面の奥にいるのはサイバートロン星にいたレーザーウェーブである、アイリスはレーザーウェーブと比較的仲睦まじく研究事で困り事があれば彼に相談することが多かった、地球にいるデストロンの科学者といえばスタースクリームがいるが大方性格の不一致なのかあまり頼られることは無いらしいがメガトロンはそれも納得していた
映像通信の奥で彼の部下として働いているロボット達には感情というものは無くただただ働いているだけであり、アイリスもそれの一種のように思えなくはないほど感情をひた隠しにするのだ

「アイリスお前のおかげだよくやったな」

彼女のおかげで任務が上手く進んだことを褒めても彼女はメガトロンを見ることも無く目を伏せて「光栄です」とだけ述べる
一軍団のリーダーである彼に対しては当然の行動であると言えばそうだがもう少しは自分の功績を喜んでもいいものでは無いのかとメガトロンはほかの部下たちを見て思った、比較的彼は部下を褒める質で褒められた側はそれを素直に喜び次の任務の糧にする
裏切ろうとする者やサボり癖のある者など大小様々ではあるが皆それぞれ彼からしてみれば悪くない部下達であると自負していた、あの無口無表情のサウンドウェーブだとしても褒められれば少なからずは嬉しそうにするのだ、人間とトランスフォーマーの違いなのか?と思いながらそれなら褒美はどうだ?と彼はアイリスに問いかければ何も無いという

「強いて言うならで構わん、何かないのか」
「え、と・・・じゃあ、このリストのモノをご用意して貰えると助かります」

そうして手渡された小さなバインダーに挟まれた紙には新しい兵器開発の材料が乗せられておりこうじゃないだろう・・・と思うものの彼女の申し訳なさそうな顔を見ればそう強くも出られずに二つ返事をするしかなかった

従順で働き者の彼女に不満は無いがあまりにも自己主張が無いことをメガトロンは困っていた
あのスタースクリームの我儘自己中ぶりを彼女に少しくらい与えても悪くないと思うほどである、そんな主の悩ましい表情にレーザーウェーブはうぅんと唸り声をちいさくあげた後ハッとその黄色い単眼のオプティックを大きく広げた

『メガトロン様これはどうでしょうか』
「なんだそれは」

画面の中のレーザーウェーブは小さな銃のようなものを手に持っていた、一見普通のものにみえるがどんな細工があるのかと聞けば彼は説明をはじめた

「自白剤のようなものです、近頃スタースクリームの仕業で悩ましい顔をしていたメガトロン様の為に作っていたのですが丁度いいでしょう」
「それをするとどうなるんだ」
『自白剤ですので思ったことが全て口に出ます、ですので捕まえたサイバトロン戦士に使うことや悪さをしているスタースクリームに使えば簡単に白状するでしょう』
「なるほど、それをアイリスに使えということか」

確かに考えたものだな。と普段から彼に相談するのはやはり大事な事だなとメガトロンは感じた、レーザーウェーブは早速地球のデストロン基地に向けて送信すると告げたがメガトロンは制止する

「人間に使ってもそれは死なないのか」
『改良しますので2.3日お待ちを』

母星に人間が居ないため時間がかかると告げたレーザーウェーブに楽しみにしていると告げれば彼は嬉しそうに返事をした、流石デストロンいちの科学者だと自身の部下を鼻高々に褒めた
そうして数日後届いたおもちゃの銃のような見た目のそれが届いたメガトロンは早速スタースクリームを呼び出して打ってみたところ効果はてきめんで彼は裏切りを企てていたスタースクリームにカノン砲をぶつけたのだった

「アイリスすこし待ってくれ」

毎度恒例の会議が解散だと言う時メガトロンはアイリスを呼び止めた、珍しいものだとテーブルから離れずに話をしていたメンバーは二人を見つめた

「どうされましたかメガトロン様」
「レーザーウェーブからの開発品を試させて欲しいが構わんか」
「構いませんが具体的にどのようなものでしょうか」
「これだ」

突如アイリスを攻撃したメガトロンに全員が正気を失ったのかとおもわず驚き立ち上がり見てしまう、だがしかし銃から放たれたやわい光に包まれたアイリスはなんの様子も変わらないようであった
我が軍のリーダーはついにご乱心感と騒ぎ立てるスタースクリームを筆頭に全員が次々と声をかけ始めた、メガトロンはそんな周りの様子を気にする事はなく彼女を見下ろした

「暫くそれで様子をみる、異変が起きたら直ぐにわしに連絡をするように」
「かしこまりました」
「最後にアイリス、今回の計画書についてもとてもよかったぞ」
「本当ですか?とっても嬉しいです」

ふと全員の視線がアイリスに向かった、彼女のいつものトーンの変わらないはずの声が喜びを表すかのごとく声高になり語尾には音符でもつきそうなほど弾んでいたからである
アイリス自身も予想だにしなかったようで目を丸くしたあと咳払いをした

「失礼しましたいつもの癖が出てしまったようで」
「いつもの"癖"だと」
「ええそうです、私はメガトロン様に褒められるのがとても嬉しくていつも自室に戻っては喜びに身を打ちひしがれ…って」

淡々とした彼女からこぼれる言葉にメガトロンは驚いてしまうがアイリスは思わず口を覆い隠した、一体どんな細工をしたんだと聞きたいほどだが自分で口を抑えたり離そうとしたりする彼女はまるで操られているかのようであった

「本当はめちゃくちゃ褒められるの嬉しいしみんなみたいに撫でられたい!」

そう言い残して彼女は部屋から飛び出してしまった為メガトロンはその場でレーザーウェーブに通信を入れれば彼は3.4コール目で受信した、どうされました?と穏やかに笑いかけては手の中にある自身が渡したものを見ては早速使用したのかと理解して感想を求めた

「これにどんな細工を追加したんだレーザーウェーブ」

怒りか喜びか羞恥心かなんとも言えぬメガトロンの顔を見たレーザーウェーブは え? と思わず声を零してその場にいたデストロンの参謀達も話に耳を傾けるのだった


最悪だ最悪だとアイリスは荷物をまとめていた
一体全体どうしてメガトロンはあんなものを使ってきたのか、もしや裏切るとでも思われたのか?などと彼女は考えては哀しみに打ちひしがれていた
はじめてメガトロンと出会った時は彼女はただの研究者であった、研究も上手くいってこのままスポンサーたちにも認められれば国としても大きく変わるほどだと言うほどの内容で大いに喜んだのもつかの間デストロン軍団に襲撃されたのである、それでも自分の研究が進められるのならばさらには地球以外の知識が増えることが大きいと感じた彼女は素直にデストロン軍に所属した
自分達を殺さんとばかりにやって来たであろう彼は思っていたよりも紳士的で部下思いで捕虜でありながらも協力するアイリスに部下達と同じ待遇のようにしてくれたほどである

「アイリス、わしだメガトロンだ」

他の者ならばノックもせずに無理やり部屋に入ってくるというのにやはりメガトロンはノックをして返事を待った、アイリスは何も答えられずに入れば「すまなかった」と立場としてそんな言葉をいうべきではない彼がそういものだから仕方なくドアのロックを解除した
彼は部屋に入ってきてはアイリスを見下ろして酷く申し訳なさそうな顔をしていた

「お前のことを考えずに思考を晒しあげたわしは愚かだった、本当にすまなかったな」
「それならどうしてあのような事をされたんです」
「何を考えてるのか今ひとつ分からず不安になってしまったのだ」

そんなことで とアイリスは思いながら確かに彼女は出来うる限り感情を押し殺し続けた、はじめこそその考えは生殺与奪の権を握った彼らの気に触ることを行ってはいけないとおもったからではあったが徐々にそれは捨てられたくないという一身に変わってしまった
それがまさかこんなことになるとは思わなかったとアイリスは絶望さえ覚えたがメガトロンは酷く申し訳なさそうな表情を見せた

「人間の女というのは無条件に虐げられる存在です、特にこんな事をしてると謂れ無いことを言われることも」

アイリスは暗い顔をして話をはじめた
学生時代から優秀で結果を残した反面恨まれることも多かった、表には出ないものの酷い噂話が流れることも多く傷付いたのだと女であるからというだけで言われるのならば女になどなりたくなかった
デストロンに来てから彼らはそんなことを言わないが内心思われているのではないかといつも怯えていた

「女のくせに人間のくせに調子に乗っていると思われたくないんです、私の力でここに居るのだと証明しなきゃダメだと思っています」

本当はあなたに褒められることはとても嬉しくていつだって思い出しては次へと繋げようと努力したとアイリスは白状した、みんなの前で世辞を受ける度に破顔しそうになり他の者が撫でられているのを見ては羨ましさに唇を噛んで、最後は素直になれない自分の卑屈さに自己嫌悪をした

「よく胸の内を語ってくれた、ワシはとても光栄に思うぞ」
「そんな」
「だからこそ断言しよう、貴様を貶す者はこの軍には不要だとな誇るが良いその知能と技術を不安ならばいくらでも言ってやろう皆の前で喜べないのならばこの部屋でいくらでも伝えてやろう」

すくい上げる様に抱き上げたメガトロンは泣きそうな申し訳なさそうな彼女の小さな頬を指先で撫で

「アイリスお前はワシの誇りだ」

そう告げた時の彼女の顔を忘れることはないだろうと思った
新しい彼女の開発した兵器に皆の前で言葉を送っても彼女は顔色を変えなかった、数時間後メガトロンの私室がノックされて入室許可をすればその小さな天才はやって来ており無言で彼の膝の上に登った
そして胸元に顔を寄せる様はまるで拾った猫が懐いたようなものにも感じられた

「メガトロン様お誉めください」

そううっとりした瞳で強請る彼女にメガトロンはどうしようもなく堪らない感情が込上げることをグッと押さえ込んで小さな頭を撫でながら彼女が溺れんばかりの賛辞を送るのだった


-

- 67 -

←前 次→
top