はじめて君を見た時、運命だと思った。戦帰りに見つけた君は美しくてまるでそこだけスポットライトを浴びたように輝いていた
全てを投げ出してもいいくらい君が好きだよアイリス、どうか私と結婚してください。

そう自分よりも遥かに小さく脆い生き物である彼女に告げれば彼女はその瞳を潤ませた、参ったな泣かせるつもりはなかったのにと思えば彼女は震えた声で涙を拭って「よろこんで」と返事をした

「アイリス、朝だよ起きる時間だ」

全く彼女は困ったヒトで毎朝起こしてあげなければずっと寝てしまっている、まぁここに居るからといって何をしてもらう訳でもないのだからいいのだけれど寝てばかりいるとさすがの私も少しだけ寂しくなってしまうもので毎日8時間きっちりと眠る彼女のその静かな時間はいつもつまらなくて幼さを残す彼女の寝顔を眺めることしか出来ない

おはようラチェット

そう言って起き上がった君は人間の幼体のように口の端に涎をつけているからあぁかわいらしいと思いながら濡れタオルで彼女の口元を拭う
はじめの頃はラチェット先生、それが進化してラチェット"さん"そしてようやく夫婦になって呼び捨てになった、たまにはラッティと愛称で読んで欲しいものだが名前を呼ぶことさえ恥ずかしそうにしていた彼女にはまだ難しいだろう

「ほら顔を洗ったら着替えだ、今日は何にする?そういえば以前キミがよく見ていた通販サイトから服を何着か取り寄せてみたんだ…私好みにはなるがどうかな?」

はしゃいでしまってるなと思いつつも毎日そうだ、彼女と結婚したんだ、結婚、番、一生離れないという誓いを結んだ。それがどんなに幸福で幸せなことか分かるだろうか?いいやきっと常人には理解出来ない、くだらない戦争は続くけれどその中でも小さな幸せを手にするのは悪くないことだろう。
人間用の紙箱、ダンボールというのかこれは…その中にある布製品たちを数着取りだして彼女は見比べる、どれもこれも君を着飾るに相応しい代物だろうと見つめていれば彼女はこれがいいと私に白いワンピースを差し出した、今回1番気に入っていたソレを差し出す彼女にやはり分かってくれているんだと思って喜びのあまり頬にキスをすれば顔をメイクしたみたいに赤く染める

ほら白ってラチェットみたいな色だから

ふんだんにあしらわれたフリルのワンピースは少女チックかもしれないが彼女の好むブランドは大抵そういったものだった、少女チックというよりはもうアーティスティックにも感じられるが似合っているのだから文句は無いしそもそも人間の服というものはよく分からない
彼女に服を差し出しても何も言わずに膝に置いたままこちらをみつめる、本当に…本当に困った奥さんだなぁとおもう自分のフェイスパーツの数々はきっと緩みにゆるみきっていることだ、私がしていいんだね?と問いかければ視線を提げて首が小さく縦に振られる
寝る時のために身につけているシルク素材の薄紫のネグリジェのボタンを外していく度に彼女の肌に夢中になる、朝からだとわかっていながら興奮してしまうブレインサーキットをどうにか落ち着けようというのに彼女は手を添えてこちらをみつめる

えっちなこと考えたでしょ。

なんてそりゃあそうだろ…種族が違っても男は男、女は女だと何度も伝えているが彼女はからかうみたいにすけべ、えっち…と甘く罵倒するものだから思わず彼女の足元を撫でてそんなにいうならシようか?と伝えるとそれまで勢いのあった彼女は口を閉ざした
あぁ愛らしいなと思って意地悪をし過ぎたと思えば いいよ と彼女はいうものだからカメラアイがバグを起こして拡大と縮小を繰り返してようやく落ち着いた頃、彼女は私に向かって微笑んだ

「あぁ無理をさせすぎたな」

やってしまったと朝から営んでしまいぐったりと横たわる彼女を見て言った、何度抱いても何度愛しても足りずに毎度無茶をさせてしまう、医者であるのだからこんな事はしてはならないのだけれどどうしても抑えが聞かなくなるのは彼女のせいだ

「アイリス?アイリス…?」

どうやら深い眠りに落ちたらしい彼女は唸るだけで目も開けてくれやしない、用意していたワンピースは床に落ちてしまっていたので仕方なくハンガーにかけ直して傍に置いておく
ふと時間を確認すればそれなりに経過していたらしくこりゃあいかんと寝てる彼女を起こさないようにベッドから飛び出して念の為に身嗜みだけは整える、結婚して幼妻を取ったとはいえ周りにうつつを抜かしすぎで仕事が疎かだと思われるのはあまり良くはない。あぁ恋しいが仕方がないと彼女の寝顔にキスをしてすぐ戻るよ。と伝え部屋を出る
ロックを厳重に、内側からは開けられぬ様に、外側からも私以外からは開けられないように

「本当に結婚てのは素晴らしいものだよ、私達には不要な契約だと思ってたけどそんなことは無いね」

医者ってのは忙しい、毎日毎日運び込まれる患者たちを治しては次…と繰り返していくたまにおしゃべりな患者がいるので結婚しているのかとか私の妻が可愛いんだという話をした

「アイリス…アイリスがいるのか」
「ン?あぁ彼女の知り合いか…あぁ私と結婚して幸せにしているよ」
「そんな…あぁクソ」

彼女は結婚前から交友関係がとても広かった特にディセプティコンと、危険な連中だからやめた方がいいと言うのに優しい彼女はディセプティコンにもいい人はいるの。というから困ったものだ
いつだってニコニコしていて子供のように無垢でそして時折見せる大人の表情に私は虜になる、治療をする際時折患者が暴れるものだから怪我を負う時もあるが心配されるからやめて欲しいものだった、万が一部屋に戻って彼女にバレたらどうするんだ…心配性の彼女のことだからきっと泣いてしまうに違いない、そう考えていると仕事なんてほっぽり出して帰りたくなるが丁度司令官が現れてディセプティコンの状況を聞いてきた、お話は得意では無いがそれ以外で情報提供をしてくれた彼の話を伝えれば司令官はよかったという。ディセプティコンが降伏してくれれば平和が訪れ私もアイリスも幸せに暮らせるというのに

「そういえば奥さんはどうなんだ」
「とても調子がいいですよ、毎日私の帰りが恋しいようで」
「それはよかった…すまないんだが次の出撃に付き合ってもらえるか?心配なら君の奥さんを同行してもらってもいい。たまには外の空気も吸いたいだろう」
「本当ですか?そりゃあ有難い、もしかすると友人に会えるかもしれないからきっと彼女も喜びます、ありがとうございます司令官」

司令官は私と彼女の結婚を全面的に喜んでくれた、周りの奴らは異種族故にあまりいい顔をしなかったが愛を知らない奴らはなんて可哀想なものなのだろうかと思えた
ようやく一日の仕事を終えて部屋に戻れば彼女はコロコロとベッドの中で横になっていて用意したワンピースも身につけていない

「ただいまアイリス」

そういえばようやく気付いた彼女が私の名を呼んで腕を広げる、かわいい彼女は私がいないと何もやる気が起きないのといった、服を着たって見せる相手がいないのだから意味は無いし話し相手がいないのでは起きても意味が無いと
そんなに甘えたことを言うならラボに連れていけばよかったと思いつつもそうなるときっと彼女に夢中で仕事が疎かになるからいけないと判断した、彼女にそれなら今からみせてくれるかい?といって服を着せる、あぁやっぱり綺麗だよといえば嬉しそうにはにかんだ
今度の任務はキミも同行していいって話だけどどうかな?と伝えれば彼女は硝子のような目を丸くして喜んだ、久しぶりにお外デートだね。といわれてデート…うん、そうだなぁ…と恥ずかしくなる
私に乗る彼女はいつも楽しそうだからその姿を見るのは好きだ、だからついつい何処までも連れていきたくなる
楽しみだねと言うと彼女はラチェットとならどこでも…という、堪らず抱きしめて唇にキスをしたら恥ずかしそうにフロントガラスに手を置かれる、あぁ、堪らない…好きだよアイリス


「なんてことを…」

向かいでこちらに銃口を向けるジェット機をみつめた、私のかわいい奥さんに当たったらどうするんだと思わず睨みつける
同行するのは同意したが戦闘には参加しないと言っていたのに当然そう上手くはいかない。ディセプティコンのナンバー2であるスタースクリームはアイリスをみつけるなり顔色を変えて近付いてきた
結婚前は確か彼女はスタースクリームと仲が良かったんだったかと思い出して、その交友関係に不快感を感じる、腕の中のアイリスはくったりと眠っていて移動までに疲れたんだろうなかわいらしいことだと指で撫でてやる

「自分が何をしたのか分かっているのか」
「何をしたかって?結婚さ…私とアイリスは誓い合ったんだよ、健やかなる時も病める時も永遠に過ごそうと」
「…彼女は、死んだ、お前のせいで」

そういったスタースクリームにラチェットは呆れたような顔をした、彼らはいつだって人のせいにしてくる、どうしてこの戦争が起きたのかどうして彼女がいまラチェットの腕の中にいるのか全てはお前たちのせいではないかと言いたげな顔だった。

「…あの、誰ですか?」
「なんだ…有機生命体じゃないか…」

はじめて出会った彼女はディセプティコンのペットだった、何故サイバートロンにいるのかは知らなかったがその無垢なる瞳に見つめられた時ラチェットは恋をした
うつくしいその瞳に自分だけを宿してほしいと強く願った。
彼女はスタースクリームに助け出され直ぐにその場を後にした、それから永遠にラチェットは彼女に夢中でもう一度出逢いたいと願い積極的に出撃するようになった。

「アイリスっ!アイリスっ!」

床に伏す彼女は何も言わない、スタースクリームは彼女を抱き上げゆっくりと命が途絶えるのを感じた、立ち尽くすラチェットは優しく微笑む時、このオートボットは何も思わないのだと感じた、尊き命を奪う事を…
ディセプティコンが彼女の死を弔い、出来うる限りの人間としてのやり方でと美しいその体を棺に入れて埋めた時スタースクリームは友人として誰よりも悲しんだ


「かわいい私のアイリス、捨てられてしまったんだな…可哀想に」

アイリスと再会した時、彼女は土の中だった、重たい箱の中に閉じ込められた彼女は美しく眠っていてオートボット共は彼女を見捨てたのだ、使えなくなったら棄ててしまう彼らは最低だ、大丈夫私がいるからね。と彼はアイリスを抱き締めた

ラチェットの腕の中にいるアイリスは白いドレスのようなものを身にまとい微笑んでいた、かつての肉体では無く明らかにヒトではなくした彼女は虚ろな瞳であり、ラチェットはほらスタースクリームだ挨拶をしてご覧とアイリスに声をかけた

『久しぶり、スタースクリーム』

人工的な彼女の声に死者に対する冒涜だとスタースクリームはいう、その言葉に泥のような赤をしたラチェットのカメラアイが彼を捉える

「お前達が棄てたんじゃあないか、勝手に死んだと判断をして冷たい土の下に閉じ込めた…あぁ可哀想な私のアイリス、大丈夫さ、私は君が死んだとしても何度でも蘇らせられる」

腕の中の人形にキスを落とすラチェットは心底幸せそうだった、かつてのヒトの身体をなくした彼女の美しかった瞳は何も映さぬ硝子に変わり服の裾からみえる彼女の腕や足はまるで球体人形のようだ、声だけは彼女の音声データを改造して作っているのだろう、歪に微笑む彼女をみてスタースクリームはこんなことならば形が残らぬ方法で送れば良かったと心底後悔してしまう

『大好きよ、愛してるラチェット』

彼女の歪な声がラチェットに愛を囁けば狂った彼は嬉しそうな顔をして私もだよ。と答えた
正義の鉄槌はいつか落ちるだろう、それが今でないにしてもきっと…とスタースクリームは呟いた

「その時は彼女も一緒さ」

夫婦なのだから、地獄も天国もどこまでも彼女の魂を逃してなるものかとラチェットは彼女の身体を抱き締めて頬を擦り寄せた、虚ろな彼女の硝子の瞳は助けて。と願うようにジェット機を写した

正しかったのは、誰なのだろう。


元ネタ:ネクロの花嫁(奏音69)

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