深夜2時のデストロン軍の海底基地の中はとても静かだった
夜間警備を担当する者は基本交代制であり当然その者も休息をとっていたがピピピと自身の通信機能が音を立てた、現在基地の連中は誰も外には出ていない上にこんな非常識な時間に我等の主は命令を下さないことを知っていた
サンダークラッカーはスリープモードを解除してすぐに誰からの連絡かを理解して苦笑いをした

「はい、こちらサンダークラッカー」
『はいサンダークラッカーってもう聞いてよ!』

金切り声を上げた通信相手は今にも泣き出しそうな声で何かをまくし立てるがサンダークラッカーにとってはどうでもいいことだった
どうせまた似たような話で同じことを喚き散らしている、初めの20回ほどは真面目に聞いてやっていたが結論はいつも同じなので流す術を身につけたのである

「また振られたのか?」
『ッそうなの!』
「今どこに?迎えに行く」

冷静で柔らかいその声に少しだけ落ち着きを取り戻した女は小さな声で居場所を告げる、それが彼女の家でないことを知っていた
本日の入口警備をしているとんがった方のジェットロンたちに出掛けるとだけ告げてサンダークラッカーは飛び出した、その胸の高鳴りを誰も知ることは無いだろう

「まだ泣いてるのか」
「遅いよ」
「悪い悪い道が混んでたんだ」
「空はこんなに静かよ」
「こりゃあ参ったな、どうしたら泣き止んでくれるんだ」
「美味しい紅茶と甘いクッキーで手を打ってあげる」
「それなら俺の部屋だな」

大抵彼女があぁして聞いた時に「家」といわない場合はサンダークラッカーと話したい時だった、トンボ帰りのように基地に戻って入口で寝そうになっているラムジェットたちに挨拶を交わすアイリスは人間の中でも数少ないデストロン軍側の存在である
見た目や行動にそぐわない知能と技術力を持った彼女をメガトロンは大層気に入りはじめこそペットだと言っていたものがいつの間にか出入り自由の普通の仲間になっていた。

誰もいない深夜の娯楽室に入ってサンダークラッカーはその大きな体でとても小さなティーカップに最高の紅茶を注いだ
これもまた彼はアイリスのために学んだ、美味しい紅茶の入れ方や小さいものを持つ感覚、案外彼は器用でそれらをそつなくこなすことが出来たが彼の兄弟機である黒と紫の機体は不器用らしく何度もティーカップを破壊してしまいアイリスに怒られていた
まだ鼻をグズグズと鳴らす小さな存在の前に茶菓子を並べてやり、自身にもホットエネルゴンを注けば2人の深夜のお話会はスタートする

「男なんて最低よ、野蛮で好き勝手して、もうっ本当に最悪なの!」

ブランデーを混ぜた覚えはなかったが今日のアイリスはいつに増しても激しいと思った
そう彼女がサンダークラッカーを呼びつけて泣き言を言うのは男のことだ、例えばそれが1人2人ならば彼もまだ聞いてやれたが会う度に違う男の話になるのだから困ったものだ

「真面目な君がチャーミングだよ。なんていって近付いてきたくせにいざそうなった時には『君は真面目すぎる』なんていうの」
「そりゃあそいつが悪いな」
「おまけにエッチの時も痛いっていってるのに『大丈夫大丈夫、てか君処女?』なんて鼻で笑ってきてもうあったまきた」

アイリスはサンダークラッカーを信用している
デストロンに所属するトランスフォーマー全体が乱暴かつ粗雑な話し方も多い中で彼は柔らかく優しくかつ紳士的だった、いつだって彼はどの時間に連絡を受けても優しく「迎えに行く」と一言告げてくれるのがどれだけ嬉しいことかアイリスは例え人間でなくても優しい友人ができたことが嬉しかった
そもそも人付き合いがさほど得意でもなければどちらかといえば苦手なタイプのアイリスにとって機械生命体は人とも言えないがコミュニケーションが取りやすく接しやすかったのもあるだろう。

「今回で56人目だな」
「数えてたの?」
「そりゃあこんなに話してたらな、ラジオだとしても冠番組になっちまう」
「ははっ面白いこと言うね」
「また新しいやつ探すのか?」

散々酒を飲んで泣いていたアイリスの目は普段よりか少し腫れぼったかった、うーんと唸る彼女は少し悩んだ後に肯定の言葉を告げた
サンダークラッカーは自身の入れたドリンクを飲み干してテーブルに肘を着いて彼女に顔を寄せた、そして彼の赤いオプティックが優しく形を変えて笑いながらいった

「なら俺はどうだ」

思わず固まってサンダークラッカーの顔をみつめた、そしてテーブルの外に伸びる手足から頭の先までじっくり見つめて彼女は驚いた顔を隠せずに声も出さなかった
そんな様子も気にせずにサンダークラッカーは語る

まぁ聞いてくれよ条件には当てはまるだろ、それも特に好条件な方に
男だし毎日送迎するし何時に連絡をしてきても怒らないし仕事に理解はあるしなんなら養えるアイリスが望むなら何だってしてやれる
あぁせつぞ…セックスについてはまぁ俺は優しい方だし体格差はまぁなんとかなる。

なんて彼は捲し立てる、珍しく饒舌な彼に呆気を取られてしまい瞬きひとつもできやしない

「どうだ?」

まるで強請るようにアイリスの頬を優しく彼は撫でる、その手つきは友達なんかではなくて恋人のようで彼女は意識せずには居られなくなってしまう

「ど、どうだろう」

今までの人生で友人でさえもほとんど居なかった彼女にとって友人として見ていた存在に好意を向けられることが分からなかった
オマケに異種族であるのだから尚のこと、確かにサンダークラッカーはとても優しく紳士的だ、付き合ってみたらもしかするといいのかもしれないとも考えたがやはり分からなかった

「別に急かす気はねぇけどよ、俺はそういう風に見てるって意識して欲しいだけだ」
「わかった、分かったからそのやめて」
「なんだよいつもしてるのに…意識したのか」
「っ今日は客間で寝るから!」

椅子から飛び降りたアイリスは走り去るように逃げた、彼の狩人のような目を見ずに
翌朝デストロン基地で目覚めたアイリスは昨晩の酒の残りと涙の跡で顔を腫らして頭痛を抱えて部屋を出た

「おめでとうさん」
「よぉアイリス、まさかお前がなぁ」
「クラッカーのこと誑かしやがったな」
「晴レテアイリスモデストロン軍ニ正式入隊ダナ」
「なぁまじかよ」

「サンダークラッカーと付き合い始めたって」

全速力で走った、様々な部屋を行き来しても目当ての存在はいない
観念して仕方なくメガトロンの部屋のドアを開ければやはり目当てのものは居らず丁度レーザーウェーブと通信していたようだった
2人はアイリスをみるなり微笑ましそうな顔をした

「まさかサンダークラッカーを選ぶとはな、まぁスタースクリームよりはいいわい」
「人造トランスフォーマーに改良したかったらいつでもいうんだぞアイリス、私がちゃんとしてあげよう」

まさかたったの1晩どころか数時間でこんなになってるだなんてと疲れきった彼女はとぼとぼと重たい足取りで歩いていれば昨日と同じ部屋に想い人がいた
慌てて近付いて足元で彼の名を呼べば優しく笑いながら抱き上げてくれる

「よぉおはようさんアイリス」
「おはようってそうじゃない!何この騒ぎ」
「なにって俺がアイリスに告白したって言っただけだぜ」
「だけどみんな付き合ってるって話になってるから」

慌てふためく彼女の言葉に彼は目元をきゅるんと丸くしたあと楽しそうに笑った
ついていけないと困り顔のアイリスを次に捉えたのは彼がデストロンとしての顔をしているときだった

「どうせアイリスは俺に堕ちるから、いいだろ?」
「な、なに?」
「堕ちるさ、優しくされて甘やかされて理解してもらえる、俺はアイリスのこと全部知ってるからな、優しい友人なんてポジションに誰が満足すると思う?」
「でも…それじゃあ、優しくしたのは嘘?」
「嘘じゃない、好きだから優しくしてるんだよ」

彼の手が優しく頬を撫でて唇を撫でる、ひやりとした金属は火照った体にはちょうどいい気持ちよさで思わずうっとりと甘えてしまいそうになる

「俺は本気だぜ、いつだって狙った獲物は撃ち抜いてる」

だからお前さんも俺に撃ち抜かれてくれよ。

そういって彼は私にキスを落とした、その時の私は意地を張って納得しなかったもののその時からかはたまたもっと前からか彼にとっくに墜落させられていたのだが
今はまだそれを知ることは無い

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