気圧の差だとか気温の差だとか女の特有のものだとか寝不足気味だとか思い当たる原因はそれはもう大量に思い当たっていた
とはいえデストロン軍団に身を置いている以上はそんなことは関係なくミスをすれば怒られる、どうしてその失敗が起きたのかだとか基地が半焼しただとか危うく死人?が出るところだったとかでこってりと絞られてしまい反省半分ショック半分
完全にメンタルがやられていると痛む腹部を撫でてベッドに倒れ込む、生憎壊れた基地自体は早々にビルドロンたちが直してくれたし彼らは気を使ってくれたがその優しさは私をチクチクと刺されてさらにメンタルが急降下していく

「で?こういう時にご機嫌取りってわけだ」

与えられた極上のベッドの上で枕に顔を埋めてそうつぶやいた、ちょうど部屋に入ってきたヤツは「まぁな」といいながら近付いてくる私の大好きな甘い香りがふわりと部屋に広がって何を持ってきたのかがわかり、思わず視線を向ければヤツは縮小機能を使って人間サイズに切り替えてトレーを持っていた

「ご機嫌取りくらいされたってバチは当たらねぇだろ」
「スタースクリームにされるのが気に食わないの」
「なんでぇ折角お前の好きな物で固めてやったってのに」

そういってトレーの中身を眺めれば想像した通り私が普段気分のいい時に使うちょっと高いティーカップの中にはまだ湯気を立てるチャイが揺れている、その横のケーキ用の小さな皿にはこれまたどこで仕入れたのかホイップクリームとカスタードが溢れそうなほどの大きなシュークリームが乗せられている
ちょうどメンタルと一緒に小腹が減っていた為にそれを見ただけで素直に食欲がそそられる、見上げた先のスタースクリームの顔はどうぞという感じで私を揶揄うつもりも意地悪するつもりもないように思えた

「これどこで買ってきたの」
「馬鹿言うな作ったに決まってるだろ」
「よく知ってたねこんなもの」
「この程度俺の手にかかれば簡単だ」

流石元天才科学者様。なんて皮肉を頭の中で言ってやる
私とスタースクリームは今自室で話をしていても仲は特別良くはない、なんなら毎度実験をしてる私を見ては小言を抜かしてくるし、口癖のように所詮人間の脳じゃこの程度だ なんて言ってくるからデストロンの中ではどちらかというと嫌いな方だ
なのに私が定期的にこうしてメンタルをすり減らして落ち込んでいる時に限ってこいつは優しくしてくる、私が好きなものを手に持って哀れな者に手を差し伸べるかのごとく接する
チャイの温もりと香りに酔わされたみたいに私はおもわず

「私がどうしようもなくダメな時に限って優しくするのやめてよ」

スタースクリームは私が黙って摂食する間も慰めのような言葉を吐いた、アレは上手く行けばデストロン軍が変わる、やっぱりお前は人間のくせになかなかやるもんだ、基地が壊れたのはお前のせいじゃない、この失敗は次に繋がる、俺はお前を認めてる。あの皮肉屋でプライドが高くて性格は最悪ともいえるほどのスタースクリームがいうのだから滑稽を通り越して寒気すら走るはずなのにこういう時に限って嬉しく感じてしまう自分はどうしようも無かった
結局みんな甘いものが好きなのだ、このシュークリームみたいに
私の言葉を聞いたスタースクリームは どうしてだよ と返事をした、弱りきった私は手に持っていた最後のシュークリームの最後の一口を呑み込んで答える

「優しくされたらそこに甘えちゃうじゃん、そうするとそれがアンタだとしても私好きになりそうになる」

例えどれだけ自分に普段意地悪をしてくるような最悪なコイツでも私は簡単にコロッといってしまうというやつなのだ
だからやめてほしい、いつもみたいに貶して嗤ってくれたらあぁいつものスタースクリームだなと思うのに今こうして茶菓子を持ってきた彼に私はどうしようもなく甘えたくなっている、これも全部私が弱いせいなのだ
普段はクソッタレで最悪 と思っているのは多分知られているし隠す気もない
何もいわないスタースクリームに何かないのかと思わずベッドに腰かける私の向かいで立ったままのヤツを見上げれば赤いカメラアイは愉しそうに歪んでいてクツクツと喉で笑うように声を上げていた

「俺が態々めんどくせぇ人間の食事をいちから作る理由がわかるか?」

わからないよ、多分ほかの人なら優しさかな?とか思えるけどスタースクリームは本当に分からない一瞬毒でも盛られてるのかな?なんて思ったほどだ
素直にさぁね といえば彼は私の口端についたクリームを金属の指先で拭い取って指先を舐めた、その姿はまるで人間のようだ

「どうせ手作りの方がお前は喜ぶだろ?優しくしてやったら好きになるって・・・そりゃあ分かっててしてるんだよ、分からねぇなんてやっぱりお前は馬鹿だな」

そういいながらスタースクリームは枕元にあった涙を拭いていたティッシュで指先を拭いたあと粗雑に私の頭を大きな金属の手で撫でた、その手は金属だから温もりなんてないはずなのに温かくて彼の手に私は頭を擦り寄せた
今だけはあなたの計画に乗ってやってもいいと思って、冷めきったチャイをもう一度入れ直してよとワガママを告げたら彼は優しくしすぎるのも良くねぇかもな といった

-

- 71 -

←前 次→
top