G-9の任務も終えスプリンガーの容体も安定してきた頃、ローターストームは任務の関係から久方振りにウルトラマグナスの船に乗船していた
彼は廊下を一人歩く中で小さな話し声を聞き思わず周音センサーの感度を上げて薄く開いたドアの中を見つめた
そこにはサイバートロニアンからしてみればとてもちいさな有機生命体が二人、人間の少女ベリティ・カルロとレッカーズに所属している人間の女性アイリスであった
(楽しそうに笑ってんな…かわいい顔しちゃってなんの話ししてんだか)
ローターストームはベリティではなくアイリスにオプティックカメラを拡大して見つめた、彼は隠すことなく彼女に好意を抱いているからだ
人間とサイバートロニアンという種族ではあるがそんなものは何の障害にも感じないほど彼は想っていた、その理由は様々なものだろう
初めて出会った頃自分の大口を察して二人きりになった際に見透かされたこと、人間の女として多少見下してしまったとしても柔らかく微笑えんだあと負けじと言い返してきたこと、G-9の任務で弱音を零した時に鼓舞してくれたところ、任務を終えたあと付きっきりで看病してくれたこと
兎に角様々な事の経緯から彼はアイリスという女を好きになったのだ
活発で負けん気の強い若いベリティとは反対に淑やかで穏やかな彼女は楽しそうに話をしては何がおかしいのか口元を抑えてくすくすと笑った
その姿さえローターストームのスパークをくすぐるものであり一体全体どんな話をしているのかと思いきや彼女は表情を変えた
「ええっ恋人?」
彼女から発せられた単語にローターストームは思わず一瞬フリーズしてしまったものの直ぐにその話に食いついた
どうやら女性二人となりゴシップ話の好きなベリティの相手ともなれば恋バナになってしまったらしい、ベリティから度重なる質問の中で彼女はうーんと顎に手を当てながらも出会いが無いからと一刀両断した
「待ってよ、人間だけが対象なわけ?レッカーズに居るんだし別に彼らが対象外ってわけでもないでしょ」
「でもみんなは仲間だし…」
苦笑する彼女を無視してベリティは彼女に次々と問いかけた、スプリンガーは?パーセプターは?インパクターは?トップスピンにツインツイストにカップに…更にはパイロ、ガズル、アイアンフィスト…
「ローターストームは?彼絶対アイリスに気があるだろうし」
余計な事を言わないでくれと感じながらもローターストームと問い掛けられた彼女の反応は如何に?と思わず食い入るように見つめれば彼女はますます困った表情を浮かべて「考えたことないよ」といった
それでも少女はローターストームの気持ちを察して恋のニューピッドになりたいが故に掘り下げて問いかければ彼女は呆れつつも話し相手になることに決めた
ローターストーム、鮮やかな水色とピンクの航空兵、完璧な経緯を持つ彼は他人からの評価はとてもいいものだ、現にその結果レッカーズに身を置いている程…とアイリスは頭の中で彼を目一杯考えたうえで口にした
「落ち着きがないし、ちょっとナルシストで自意識過剰な面があるけど自信家で素敵だよね、だけど好みで言えば私落ち着いた人の方が好きかな」
「パーセプターみたいな?」
「うーん、あそこまで寡黙でなくてもいいけど、まぁ当てはまるのかな?あと好みといえば」
いえば?とオウム返ししたベリティにアイリスはニコリと微笑んで声高々に告げた
「私年下より年上派なの」
ローターストームは自分の稼働年数を考え、その次に彼女の年齢を考えた、凡そ十倍ではきかない程の差があるが?と思っていたものの彼女の話を聞いたベリティはどこか納得したようであり、ますます彼女達の感覚が分からないと感じた
「まぁここのメンバーならスプリンガーくらいが妥当なんじゃないかな」
そういった彼女にローターストームはこのチームのリーダーを思い出しながら確かに彼程なら誰だって好意的に思うだろうと感じた、男らしく誠実で真っ直ぐ過ぎる彼はまさに理想のオートボットともいえる
しかしそれでもローターストームは些か納得がいかないと感じながらその場を後にした、ふとドアの隙間から見えたローズピンクのローター翼をみて堪らず笑みを零しながら目の前の少女に話の続きをしてやった…
ローターストームにとってあの日の話はいつまでもブレインにこびり付いて離れないものだった、彼はそれなりの年数を生きている
だというのに彼女には眼中にもなく、年下扱いされていたとは思いもよらなかった、しかしふとその件について深く考えた時彼女は世話焼きの姉御肌であり何かしらで傷だらけの自分をその身で治療してくれる時は毎度眉を下げて困ったように
「ローターストームってばいつもなんだから」
と笑うのだ、普段の時も大抵仕方なさそうに笑う彼女を思い起こせば確かに意識されることなど全くないのではないのかと彼は感じ、ではどうすれば彼女に意識してもらえるのかと頭を捻った
「よぉアイリス手伝うぜ」
「任務帰りでしょ?休んでていいよ」
「いやいいって、どうせ今日は傷一つついちゃいないからな」
「本当だ、凄いねローターストーム」
「…ま、まぁな」
視界に入る度に声をかけて、なにか作業をしていれば率先して手を貸して、自分の暇さえあれば会いに行って
ともなれば意識されて当然だとも思うが彼女の態度は何一つ変わらずにローターストームはいっその事腐ってしまいたくなった、本当にサイバートロニアンは彼女の恋愛対象外なのかと思う程でありそれならば諦めがつくとも思った
「思った…のにな」
彼女のいない部屋で頼まれた荷物を運び込んだ際にふとテーブルの上に乗ったデータパッドは起動しており、雑誌を読んでいたらしくそこには異種族の恋愛についてであった
それは彼女が決して異種族恋愛を嫌悪する者ではないのだと理解するものであり、ローターストームは思わず下唇を噛み締めて自分は彼女の対象外でしかないのかと感じた
レッカーズに所属してキミアに籍を置いている優秀な彼女のことだからこそ様々なサイバートロニアンと出会ってきたのだろう、その中には彼女の心を奪う者がいても不思議な話では無い
「やっぱり俺じゃダメだよな」
彼は自分への自信は多少ある、くだらないかもしれないが肩書きや勲章だけは立派なものだがそれらはレッカーズで意味をなさないことも理解していた
そしてそんなものをみて彼女は他人を判断しない、もっと根本の機能や性能では無い、相手の中身-スパーク-自体を見る人だ
「ローターストーム?」
「終わったか?」
「もうすぐね、だからあの二人の喧嘩の間に割って入っちゃダメって言ったのに」
「だってまさかオルトモードになるまでとは思わなかった」
「ここのみんなは喧嘩であっても本気だからね」
はいバッチリ、凄くかっこいいよ。とリップサービスをいう彼女に頬を撫でられてはローターストームは心地よく感じられた
数分前何らかのことでトップスピンとツインツイストが激しい喧嘩をしているのをみんなで止めたもののそのお陰でローターストームのバイザーは破壊され顔にも小さな傷を負った
レッカーズ内での喧嘩はよくあることで慣れたものの暴力事には強くないローターストームは苦笑しつつアイアンフィストにバイザーの修理を依頼しようと思っていたのに廊下を歩く彼女にバレて大騒ぎされたのだ
「折角かっこいい顔してるのに怪我してちゃダメだよ」
「アイリスから見ても俺はかっこいいんだ」
「そりゃあね、顔だけじゃないと思ってるけど」
珍しく彼女から楽しげに話をされてローターストームは思わず興味本位で話を掘り下げた、普段は多忙気味な彼女は今日は多少マシなのか彼の話に付き合うことにしたらしく彼の手の中に座り込んだ
空を飛ぶ姿も、普段の自信満々なところも、けれどどうしようも無い恐怖があるところも、しかしそれに打ち勝とうとしてるところも、いつだって優しく仲間を気遣うところも
「全部好きだと思ってるよ」
思わずローターストームは半笑いで開いていた口を閉じて驚いたように彼女を見つめた、当の本人はあとそれから…と続けてローターストームの反応もみずに彼のことを語る為思わず彼は少し待ってくれと続けた
「そんなにいわれたら回路がショートしそうだ」
「普段褒められたがる癖に」
「いつもの褒め方と違うだろ」
「好きっていわないから?」
そうそれだ!とローターストームは思わず彼女を持つ手を高くあげて自身の目線の高さを合わせた、そして口をハクハクと開閉しては震えるもので彼女はくすくすと笑うのだ、まるで何もかもを知っているような素振りで
しかしローターストームはそんな事を理解できる訳もなくただそのバイザー越しのオプティックで彼女をみつめた
「好きって言われたいんだ」
「年下に興味無いくせに」
そう呟けば彼女は何が面白いのか腹を抱えて笑うのだからローターストームは普段の自分のクールな姿など忘れてしまいそうなほど情けない姿で彼女を見つめた
「年下って自分のこと思ってたんだ」
「アイリスが」
その言葉にふとあの時の話を聞いていたと彼は自ら白状したことに気付いてやってしまったと思うもののハナから知っていた彼女は何も気にしなかった
それどころか彼に対しては年齢についてはあまり考えていないのだと告げるため、それならベリティとの会話はなんだったんだと聞くもののあくまで好みの話じゃないかといった
「それにローターストームのことはそういうタイプとかどうとか抜きして思ってたから、こうして意識してくれてよかった」
「よかったって、意識ってなんだよ」
「いつも私ばっかり振り回されてたから、いい気分ってこと」
その言葉にローターストームが驚いている間に彼女は彼の手の縁に立ってバイザーの下のオプティックを嬉しそうに眺めた
あぁ待てよ、そういうのって…とローターストームがいう間に彼女は顔を寄せたあと嬉しそうに笑った
「言いたいことがあるなら今だけ聞いてあげる」
問いかけられた彼の中には何百何千と質問が行き来しているというのに僅かに開いた彼の口から溢れた音はそのどれでも無かった
「もう一回…シてほしい」
案外受け手でシャイなのだと彼女は思いながらローターストームの唇に狙いを定めた時彼は普段の姿など忘れてただ目の前の少し意地悪でかわいい恋人にもう勝てないと白旗を振る覚悟を決めるのだった
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