パートナーのどこが好きかと問われればドリフトは順番に指折り数えることが出来る、見た目も中身もネジ一本さえ深く彼を慕っているといえるほど自身のコンジャンクス・エンデュラについて想っていた
まるで彼にとっての白馬の王子様のようだと言う程だが不満も多少はある、それは彼のパートナー ラチェットは控えめな性格であるということだ、そんなところも愛していると思いながらも少々不満を感じそしてそれは不安に変わる、勿論彼がこのロストライトにおいて重要なポジションに着いている上に交友関係が別の形で広い故に忙しいことは理解しているものの
「こんなことを思ってはダメだとはわかってるんだがな」
そういったドリフトは多少今日出されたエナジョンカクテルに酔っていた、彼の向かいに座るパイプスはその感情に同意してやり話を聞いていれば落ち込む彼を見て人は次々と集まるもののどうせいつもの話
いわゆる惚気だと理解していた、ふととある人物の名前を出したのはトレイルカッターとホワールであった、
「アイリスに相談してみたらいい」
「アイリス、何故彼女に?」
「だってあいつはラチェットの元パートナーだ」
「なんの」
「地球で言うところのCEかな」
まるで鈍器で頭を殴られたような気分になりドリフトは驚愕した、そんなことも露知らず話した二人は今日も随分と気分良く酔っているようでスワーブスの店内でアイリスと名前を叫んだ
ちょうど奥のテーブル席でクロームドームやリワインドにテイルゲートといった面々と地球式のトランプをしていた彼女は即座に反応し席を立ってドリフトの前に現れた
「どうしたのホワール」
「ドリフトの奴がラチェットについて悩んでる、元CEとしてアドバイスしてやれよ」
「CEじゃなくて嫁って言って、意味違うでしょ」
「なんでもいいだろ、ほらドリフト言ってみな」
そういわれても目の前の手のひらサイズの人間はそれまでこの船のクルーであり親しい友人だった筈だが今では
地球にいた際にラチェットと親しくしていた彼女だがまさかそんな関係だとは知らなかった、そもそもラチェットもその事を言ってくれていなかった事に多少の悔しさと苛立ちを感じた
そんなことを知らず彼女は手の中にあるドリンクを飲みながらドリフトにいう
「ラチェットの言葉が足りなくて不安なんでしょう」
言い当てられてしまえばドリフトは早かった、周りは即座に退散して彼女のみが残されたものの彼女は変わらぬ元夫の話を聞いてはドリフトの気持ちを理解した
あまりの感情から次々とドリフトはドリンクを注文しては飲んで、話して、泣いて、怒って、照れて、笑った
「俺はラッティを愛してるん……だ」
いよいよ机に突っ伏したところで彼女はかわいい人だと感じながら腕につけていた通信機で滅多に連絡しない男を呼び出した
凡そ数分後呆れた様に渋い顔をした男が現れる、件の男名医ラチェットである
ラチェットは内心驚いた、いくらロストライトに乗ったからと言っても接点の少なかった元パートナーから連絡が来るなど思わなかったからだ、それも現パートナーのドリフトを迎えに来いなどと余計に予測できないものだった
ドリフトのせいもあって二人の関係を知ってしまった面々は思わずそのテーブルを一度見てはすぐに視線を逸らした、まるで大きな三角形がそこに見えるような気がしたからだ
「久しぶりラチェット」
「お前さんから呼び出されるとはな、酷く驚いたぞ」
「誰か呼んでくれると思ったのに呼んでくれないから」
「すまないな面倒をかけた」
「ちょっとくらい飲んだら?奢ってあげるよ」
話したいこともあるし。という彼女の瞳にラチェットは飲み込まれそうになりながら机に伏すドリフトの横に腰かけた、給仕ドロイドに彼女が自分のものとラチェット用にドリンクを頼んでは直ぐにやってきたモノに二人はグラスを重ねた
初めてのことではなかった
「結婚して欲しいの」
そうラチェットが彼女に言われたのは地球にいた時だった、好意的に彼に接して共に過ごした彼女の言葉に驚きを感じつつもラチェットは彼女に酷く恋焦がれた
長い人生で例えようのない感情を揺さぶられこれが恋なのだと気付いた、結婚という単語の意味を分からずに問いかければ衣食住を共にして悲しみも苦労も喜びも全て分かち合うものなのだと告げられた
「君は私でいいのか」
「ラチェットだからそうなりたいと思った」
照れくさそうに笑う彼女に人間の結婚は定められた場所に申請書を出して互いの戸籍をひとつにするものだと言うが二人にはそれが出来なかった
代わりとして指輪のみを二人は作り彼女はそれを指に填めてラチェットはそれを大切にスパークケースの中に潜ませた
どんな事があっても、離れていても、胸の中にあるそれがラチェットにとっての喜びであり支えになった
「好きよ、大好き」
「私もだ」
地球らしいスキンシップを求められては応えるしかないとラチェット考えていた、何故なら互いの身体は違い過ぎたからだ
金属の身体と柔らかい肉の身体、傷付けるのはラチェットからでしかない
それ故に彼女に触れてもらい愛してもらうことが彼にとっての幸福であり、口付けなど恐ろしく自分から出来ないほどであるがそれを埋めるように彼女はした
柔らかい唇をラチェットの金属の唇に重ねて、何度も彼の聴覚センサーにはっきり聞こえるように愛を囁く、その度に彼のスパークは喜びからアフタースパークに導かれるのでは無いのかと感じられた
しかしながらラチェットは奥手な男だった、奥手といえばまだ多少はましな言い方だが臆病なのだ、別れを告げることが苦手で愛を囁くことも得意ではなく、いつも受け手だった
「ラチェットはどうして私とこの関係になったの」
「大切に思っているからだ」
「じゃあどうして、私を遠ざけるの」
「守りたいからだろう、当たり前の事を聞かないでくれ」
オートボットの状況が悪くなるにつれてラチェットも余裕がなくなった、愛する人が傷ついてしまうことを恐れていたというのに自分から彼女を傷付けた
それでも彼は謝ることが出来ずに仕方の無いことなのだと自分に言い聞かせた、戦争が落ち着けば終わればこんな環境でなければ彼女をもっと大切に出来るというのにと願う頃彼女から手渡されたのだ
「私に付き合わせてごめんなさい」
終わりましょう。
数年間の付き合いは彼の数百万年の人生で短いはずだと言うのに、彼女との出会いはずっと長く心地よいものだと感じた
泣きそうな顔の彼女はラチェットとの関係を切ったとしてもオートボットに協力は続けると告げてくれた、そうして返却された指輪を彼は受け取っては「わかった」とだけ告げてしまった
正式に二人を繋ぐものなど何も無かった、あの金属のリングだけしかないというのにそれさえ無くなれば二人は元からずっと他人でしかないようだった、様々な場所で彼女を視界に捕える度に苦しくなり忘れ去りたいというのにラチェットのブレインには自分に笑いかける彼女がインプットされて消えなかった
いっその事記憶ごと消してしまいたいと願うもののそれもデータを思い出しては出来なくなる
気付くのが遅すぎたのだ、彼女に何も告げなかったことや自分の不器用さについてを
「貴方のいい所でもあるよ、無駄な事を言わないのは」
「お前さんがお喋りが苦手だというからだろ」
「それは好きな人の前で変なこと言いたくないからだよ」
それは知らなかったなとラチェットは思いながらエンジェックスを口に含んだ、どうやら今日のカクテルは少し強めに調合されているのだとカウンター奥の亭主を睨みつければ彼は何を思うのか楽しそうに笑って静かに冷やかした
「不安がってたよ、彼」
指さしたのは白い機体、未だにスリープモードから起動する気配はなく情けない姿だと思いつつも嫌いでは無いのだ
それが表に溢れているからこそ彼女は元パートナーであるラチェットに忠告した
「言葉と行動以上に愛する人に必要なものなんてないんじゃないの」
「どうしたらいいのか分からなかった」
「手を握るだけでもいいじゃん」
「振りほどかれたらどうするんだ」
「掴んで離さない、それでも逃げたら抱き締める」
テレビの見すぎだと一蹴してやりたいが彼女はそうしてきた、それをラチェットは受け止めて心地よくなっていた時期があった
そして横で潰れるパートナーもそういえばそんなタイプだと気付いては難しい表情を浮かべた
「私らしくないだろ」
その言葉に彼女は呆れて溜息をこぼした、全くラチェットは恋に関しては本当に疎くて積極性に欠けるのだと感じつつも今後のためにアドバイスをする
何故なら人間との付き合いでは無いコンジャンクス・エンデュラという関係は深いものだからだ、どちらかが死んでもきっと消えない想いがあるからこそ彼らはそれを交わしたはずだと理解していた
「人を愛するのはそういうものでしょ」
「まだそれを持ってるのか」
ラチェットは驚いた後すぐに気まずそうな表情を浮かべた、彼女は小さな石のついたネックレスを胸元から取りだしたが互いにそれが何かを理解している
はるか昔出会い恋をした時にラチェットが彼女に送った石だった、なんとなく綺麗だったから、君に似合うと思ったんだ。といった彼の優しさを忘れることなどない
確かに彼らしくは無い行動だがアイリスはどこまでもそれを気に入っていた、一度も手放せないほど、しかしそれも今日で終わりだと彼に手渡して彼女は酒を飲み干した
「せいぜい若い恋人をもう泣かしちゃだめだよ」
「あぁわかってる…お前さんもまたいい出会いがあれば紹介してくれ」
話はここまでだと彼女が終止符を打つためラチェットは苦笑しつつ彼女の幸せを願いながら言えば彼女は目を丸くして彼を見つめた
「あれ?私みんなに言ってなかったっけ?」
その言葉にラチェットはなんのことだと思いきやスワーブスのドアが開き珍しい客人が来客した
「私いまはファルマとCE前提に交際してるの」
「突然迎えに来いと言うから来たらラチェットと飲んでいたのか」
おいおい嘘だろうとラチェットは間抜けに口を開けて二人を見つめた、これにはスワーブスにいた客たちも知らなかったようでその言葉を聞き静かに驚いていた、そんなことを気にせず彼女はファルマの手の中に乗ってそのまま二人は去っていくためラチェットは深い排気をついた
「あいつにアドバイスをしとかなきゃならないな」
彼女のことを放置したらすぐに捨てられるぞと、そしてまたどうして彼女も…認めたくは無いが似たような言葉足らずなワーカーホリック性質な男に恋をしてしまっているんだと言ってやりたかった、それが原因で振ったくせにと
手の中に残されたネックレスをテーブルの上に置いてラチェットはドリフトを起こして店を出る
彼が意識を戻したら多少気恥ずかしくてもたまには彼の望む言葉を言ってやるかと考えながら、先程の二人についての驚きはまだ隠せずに廊下を歩いた
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