なんだって叶えてやる そうスタースクリームはなんの取り柄もない彼女に思った、口に出せないのは彼のチンケなプライドのせいだろう
デストロン軍団の捕虜としてやってきたしがない科学者である人間のアイリスは特別優秀なわけでもなく至って普通の女であった、それもこれもエネルギー資源の開発の主なメンバーを拉致しようとしたはずが誤ってたまたま手伝いに来ていた学生だという彼女を拉致したせいだ
馬鹿では無いが能天気でデストロンに拉致をされたというのに広い独房に入れられた彼女は「これで休める」だなんていってその場で寝るものだからその態度に呆気取られた彼らはしばし考えたあと、抵抗する訳でもない上に従順であるのならば彼女の頭脳も多少は使えるのだからここに居てもいいかと判断した
そうして気付けば仲間のようにいる彼女に初めこそ下等生物と見下していたスタースクリームは気付けば情が湧き彼女にそのようなことを思うようになったのだ
「外に出たい」といえば偵察がてら連れ出した
「飛行機に乗ったことないの」といわれれば乗せてやった
「雲の中ってどんな感じ?」と問われたら細心の注意を払いつつ雲の中に案内して
「友達が欲しい」と強請られれば仕方なく、本当にどうしようもないと思いつつも彼は「まぁいいぜ」といったが彼女は目を丸くしたあとに人間の と付け足した
スタースクリームはその言葉にまるで自分が恥をかいたように感じオイルが沸騰しそうになるものの彼女は照れくさそうにデストロン軍団の仲間たちはみんな友達だと思っている、特にスタースクリームは一番の。と告げるため彼の沸点は瞬時に落ちていった
しかしながらデストロン軍団は大抵人間を見下し馬鹿にして、それこそ人間達で例えるならば蟻のような、良くても家畜程度のものだった、アイリスはたまたまそこに愛着が湧きペットや自分たちより少し下だが仲間程度の扱いをされているということだがその重要性を理解してはいない、そうした所が彼女の能天気なところだろう
しかしながらスタースクリームはそんな彼女に対し強い愛着を持っており彼女が望むことならばと自身のブレインをフル活用してやった
そうして彼は完成させたのだ、ホログラム機能を更に改良し完全な人間に見せるようにと、それも彼女は"友達"が欲しいというため彼はわざわざ彼女の性別に合わせてやったのだ
「ということでお前の人間の"友達"になってやるよ」
「すごい声以外は本当に女の子、それもとびっきりの美少女だ」
あまり彼女にデザインを寄せないようにと雑誌やテレビの中の女を参照にしてしまったようにも感じるがスタースクリームは自身の美しさを表すのならば丁度いいと感じる見た目を選択したが彼女はそれを大いに喜んだ
「これから私たち"女の子のお友達"だね」
「あぁ俺の発明に喜べよ」
「うん、スタースクリーム大好き」
たったその一言が聞けるだけでスタースクリームは満足した、それからの日々はスタースクリームにとっては人間に変形するという屈辱感以上の幸福を与えるには十分なものであった
決して本来の姿であれば触れられないがその姿であれば彼女はスタースクリームの腕に自分の腕を絡めたり、彼の黒い髪を嬉しそうにブラッシングしたり、女同士だからと流行りのカフェに誘ったりとまさにその姿は友人でありスタースクリームは自分自身を褒め称えてやりたくなった
「ずっと人間の女の子ならいいのに」
頬を染めて嬉しそうに言う彼女にスタースクリームはお前が望むなら構わないとさえ感じていたものの、それはとある一言により崩された
「ずっとその姿なら意識されないだろ」
そんなことを言ったのは珍しいことにサンダークラッカーであった
スタースクリームの自分の中で僅かに認められない恋心を仲間達は全員知っていた
なんせあのスタースクリームが人間に熱心に話し掛けたり、その為ならば彼が見下すような存在にさえ変形してみせるのだからあからさま過ぎた、別に種族を超えた愛情は珍しいものでは無いがあのスタースクリームとなれば話は多少変わる
周りからあまりいい印象を受けない彼に対してもアイリスという女は分け隔てなく接しているからこそ二人は今の関係が出来ている、そして彼女の望むことをしてやっているのならばその友情は崩れないものだろう
「別に俺は意識して欲しいなんざ思ってちゃいない、あいつがどうしてもっていうから今の姿になってやってるだけだしな」
「それじゃあアイツが誰かと付き合ってもいいんだな」
「どうしてそうなりやがるスカイワープ、まぁあんなすっとろい鈍臭い女に惚れる奴なんざ滅多にいねぇがな」
その滅多にのうちに入った自分がよく言うもんだとスカイワープとサンダークラッカーは呆れたように見つめた、そしてそんなスタースクリームにからかいを見出したスカイワープの悪い表情にサンダークラッカーは止めておけと横目に見るものの止めることは無かった
それは彼もまたスタースクリームが自分に素直になればいいと考えていたからだった
「案外あんな女でもいいように見てるやつは多いんだぜ、知らないのかよリーダー」
彼の肩を組みながらスカイワープは他の仲間とエネルゴンを飲み交わす際によく聞くという話を告げた、それが真実か嘘かはどうでもいいスタースクリームの気さえ向けられればいいだけなのだ
「あいつはいつもニコニコしてて愛想がいい、オマケに話もよく聞いてくれるし簡単なリペア程度ならあいつに頼むやつも多い、それにこの軍じゃ貴重な女だ」
女に飢えたヤツらだって少なからずいるんだと悪魔の囁きをすればスタースクリームは思わず口腔オイルを飲み込んだ、そしてスカイワープの胸を軽く押して勢いよく立ち上がりその場を後にした為本当に素直じゃないが素直な男だと笑った
努力の矛先さえ間違えなければ完璧なのにと思いながら
「どうしたのスタースクリーム、今日はそんな姿で」
「別になんでもねぇよ」
なんでもないと呟きながらも見下ろした彼女はここ最近では感じることのなかった距離感にスタースクリームは僅かながらの物足りなさがあった、彼らの胸ほどの高さにある彼女の部屋を見下ろしては普段あそこに二人でベッドに腰かけて雑誌を読んだりしていたのだと思い出してはそれが出来ぬ今がどうしようもなく残念に感じた、微妙な空気感に戸惑いを感じたアイリスはどうにか彼に話を振ろうとするもそれを遮りスタースクリームは問いかけた
「お前は女に対して特別な感情は持たないのか」
「特別…って、例えば?」
「特別は特別だ、全くそんなことも分からないのかよ」
これだから何も知らないガキは困るとはいいつつも素直に恋愛感情とは聞けないスタースクリームは曖昧な言葉ばかりを彼女に告げた
アイリスは彼の問いの意味を見いだせないもののどうにか自分なりに解釈をして、友人以上を考えた女の子は一人しかいないという
「一人だと?!」
一人でも十分だった、サイバートロニアンの人生はとても長く短い時を生きながらもパートナーを複数回交換する人間とは反対にその一人と想いが結ばれてしまえば永遠になるようなものだった
男であるならまだしも女、それも一人だけというのならば特別以上のなにものでもないだろう
「でも女の子って言えばいいのかな、難しいかも…でもその子とは凄くいい関係ができてると思う」
「いい関係?一体どこの女だ…お、男はどうだ男で好きなやつは」
「それも…一人」
ということは彼女に性別の見境はなく特別な相手が二人もいるのだと知ったスタースクリームは絶句した、彼女の人生の中にその特別な枠を取った輩を今すぐ引き裂いてやりたいと思い嫉妬の渦に飲み込まれそうになる中でもアイリスは何も気にせずに照れくさそうに「向こうは友達だと思ってるけど」というのだ
あぁそうだ叶わなければいい、女も男も、どいつもこいつも…とスタースクリームは奥歯を噛み締め拳を握った
「ハハッ、どうせ叶いやしねぇ恋だ、まぁしかしダチとして多少は慰めてやらなくはないがな」
「…うん、ありがとう」
そう告げた彼女は今にも泣きそうな表情をしたあとスタースクリームは通信機が鳴った、次の任務についての話だと呼び出されたもののアイリスのあの悲しげな表情が忘れられずにスタースクリームはメガトロンの話もその聴覚センサーに触れさせられなかった
彼女があの表情を浮かべたのは彼女が想う相手との実らない恋を嘆いているからなのか、スタースクリームがいった慰めが彼女を苦しめたのか、何を考えても答えは出せず、その様な中で与えられた地球外の任務の数日間は彼女と顔を合わせることも無く過ごすことにはなったが彼のブレインの中はまるっきりアイリスに染まりあがっていた
短い人生なのだからそれこそ自分の思いに素直に生きればいいとスタースクリームは感じていた、それが出来ない程の相手となればそれほどアイリスが相手を思う気持ちも強いものだろう、それを考えては無駄に苛立ちを仲間にぶつけては喧嘩になりろくでもないものだった
ようやく地球の基地に帰還したスタースクリームは多少の負傷を負いつつも任務の報告を終えてリペアルームに向かう道中彼女の部屋を通り掛かり足を止めた
軽いリペアなら彼女を頼るのも悪くはないかとスタースクリームがドアを開ければ丁度人間には安全には見えない液体を試験管から飲もうとする彼女が居た為スタースクリームは慌てて駆けつけ溢れかけた液体の入った試験管を投げ捨てた
「なっ何血迷ったことしてやがる」
「血迷ったって、違うよ実験してたからそれの効果の確認をしようと思って」
「効果の確認ってのはなんだよ」
「メガトロン様から依頼されて自白剤を用意してたの」
なんてものをこの女に頼んでいるんだと我らがリーダーに思いながらスタースクリームは呆れ返り軽いリペアをしろと命令した、アイリスは久方振りに再会した彼に対して嬉しそうに微笑みながら了承した
「あんなものレーザーウェーブにでも作らせたら良かったのになんでお前になんて」
「たまには仕事しなきゃと思って」
「で?完成してたらお前は何を自白してたんだろうな」
ほんの少しの傷を治すアイリスを見下ろしてスタースクリームが笑えば彼女は黙りこくってしまい顔を俯かせ終わったと告げるように彼の傍から離れた
その態度にスタースクリームは苛立ちを感じ「お前が言う"特別"なやつに情けない言葉でも伝えようとでも思ったのか?」と敢えて意地悪をいうように言ってやればアイリスは顔を上げて今にも泣きそうな表情をしていた
強く拳を握りワナワナと怒りに似た感情を高ぶらせる彼女にスタースクリームこそ怒鳴りつけてやりたいと思った、ここまでよくしてやっているというのにこちらの思いは全く見向きもしないのかと
「そうだよ!スタースクリームに好きって言いたかったの」
は?え? と間の抜けた声が広い部屋に響いた、アイリスは思っていた言葉と違う言葉が出てしまい何故かと目を丸くして今のは違うと訂正しようとするも「意識したくないから人間になって貰ったのに、その姿さえ好きになっちゃうからどうしたらいいのか分からなくて」と口にしてはこれはあの一滴の自白剤の効果が彼女の感情の昂りから強く出てしまっているのだと気付き慌てて口を手で覆い隠しリペア道具の片付けをして逃げ出そうとした
普段であれば確実に嘲り笑うと思っていたスタースクリームは何も言わずにいる為何事なのかとアイリスは思っていればスタースクリームのはグレーのフェイスパーツは色を濃くして機体の排気口からは僅かに煙をあげていた
「スタースクリーム?」
「な、なんでそんなこと」
「だって友達だから良くしてくれると思ってたのにこんな感情知られたら嫌われちゃうと思って」
「そんな訳ないだろ、お前こそ俺の気持ちも知らないで」
「俺の気持ちって?」
その言葉にスタースクリームはおもむろに顔を背け口を閉じた、互いの気持ちは薄々察したものの彼は言葉に出来なかった
しかしアイリスは違う、自白剤を確認のために飲んだというのは口実でありもしその効果が本物でも偽物でも身を任せ自分の感情を吐き出せると思ったからだった、彼の足元に駆け寄り精一杯彼を抱きしめたアイリスは告げる
「私はスタースクリームが好きだよ」
友人ではなく異性として。という彼女にスタースクリームはどう答えればいいのかも分からずに宙を彷徨う手を僅かに揺らした
アイリスは彼の優しさに気付けば甘え異性として意識してしまった、友人として精一杯振る舞う人間の姿をした彼にもまた恋をした以上は認める他なかったのだ、例え彼が何を思おうとも
「俺は…」
震えたような声で呟く彼にアイリスは耳を傾ければ彼は言葉を発さずにただ腰を下ろしアイリスの背中に手を置いて抱き寄せた、それ以上は何も無いもののアイリスはただ静かに回された金属の指を抱き締めれば二人は言葉に出さずとも互いの気持ちを理解するのだった
「最近あの姿にならねぇの?」
ふとスタースクリームの自室に来ていたスカイワープの言葉に仕事をしていた彼は顔を上げた、あの姿といわれた言葉に対し僅かな間を開けなければ分からない程に使っていないことを思い出したスタースクリームは短い返事をした
若い恋人のような人目問わず目に見えて愛し合うことはしないもののスタースクリームとアイリスの関係が確実に変わったことは誰が見ても理解できた
そしてスカイワープの言葉に返事をしたあとに彼は付け足した
「別にもうダチじゃないからな」
そういったスタースクリームの表情の柔らかさは初めて見たもので驚きを感じたもののからかう気は起きなかった、幸せそうならそれでいいのだと思いふとスタースクリームの自室のドアが開いたかと思えばか細い人間の声が聞こえスカイワープは慌てて部屋を後にした
去りゆく間際に見えた二人の表情は何処までも柔らかく、もう二度と友達にはなれないのだと感じるのだった。
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