シェイクスピア





作家がいった

「愛を語るのならば、人の言葉を借りては面白さに欠けるというものではありませんかな?」

そう髭を蓄えた子洒落た服の作家はいって、ペンに手を取っていた
また悲恋を題材にした話をしているのだろうかと思いつつ、彼の生原稿とやらを見てコーヒーを飲んでいた、生憎このコーヒーは誰かがいれたものではなくこの作家の部屋のインスタントコーヒーである
ミルク一つのコーヒーは眠気に襲われる昼下がりを意識がはっきりとした状態で文を読めることができた

「あら、ならあなたはどう例えるの」

本日は休暇、レイシフト予定もなく全員がまったりとした時間を過ごしているために作家人は自分たちの趣味に時間を費やしていた
そこに転がり込んで邪魔になるかと思いきや、この作家による願いであった

「そういわれると悩みますなぁ」

「私は普通に「愛してる」といえたらいいわ」

「ほぉ、澪殿はそう例えますか」

ありきたりな言葉で十分だといった彼女を珍しそうにみつめるものだから、変なことでもいってしまったかとおもえば嬉しそうな顔をした
きっと彼にとっての予想通りの言葉であり、読者の声なのだろう、その読者の声とは反対のものを出したがるのが筆者というものでこの作家は楽しそうに筆を滑らせていた
彼の没案の小説を読みながら時間を明かせば、いつの間にか夕方だったはずの時間は夜に変わっており、夕食に全員が集まるのだろうと思えた


「澪さん、我輩は思ったのです」

「..なにを?」

手を止めた彼は立ち上がり、そして跪いた


「<あなたを、夏の日に例えましょう..いいや、あなたのほうがずっと美しく...穏やかだ>」

そういって、どうだろうか?と意見をほしそうな顔をした彼に対して笑いがこみあげてしまう
まさかあれからもずっと考えていたとは思いもしなかった、伸ばされたその手を取った、同じように口を開いていう

「<あなたなしには私の今後の芸術は成り立ちません。もしあなたと芸術をが両立しなければ、私は喜んで芸術を捨てるわ>」

そういいながら作家のその手に口づければ、彼は負けたというような顔をする


「これだって、ありきたりでしょう?」

「いやはや...あなただからなのでしょうか、どうも我輩は年甲斐もなく喜んでしまいますな」

そういって恥ずかしそうに顔を赤くする彼を見て思わず自分自身も同じように顔に熱を籠らせてしまう、手をみつめていればお互いにおかしくなり笑いあう


「やっぱり私日本人だからこういうわ...「月が綺麗ですね」

「やはり日本人は美しいですなぁ」

そういい夕食を求めに立ち上がり二人して思わず笑って扉を開け、二人して食堂に向かった
作家たちによる愛についての語らいは今から始まることだろう
















memo
「あなた様なしには 私の今後の芸術は成り立ちませぬ もし あなた様と芸術とが両立いなければ 私は喜んで芸術のほうを捨ててしまいます」 谷崎潤一郎

「君を夏の日に例えようか。 いや、君のほうがずっと美しく、おだやかだ」 ウィリアム シェイクスピア

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