山の翁
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魔術師として今出来ることを最大限に活かし、やるだけだった、自分がいい歳をして愛だ恋だの現を抜かす前に現実的なものに直面して、自分の存在価値をまた理解する
魔術師は男であるならば理想としてしっかりとした勉学を身につけ完璧な誰もがいう、魔術師として存在できることだ
女であることは毎度難しい、どんなに望まなくても体と心は正反対に動かねばならない、英霊であろうと人であろうと結局男と女は変わらないのだ、おまけに魔力等というつまらない糸のようなものが結びあったなら尚更
まだ幼い藤丸立花という娘にそれをさせたくなかったのは自分のエゴだ、子供という純粋無垢を理想化させて、大人というつまらないだけの言葉に貼り付けられた自分と同じになって欲しくないだけで、彼女は今日もサーヴァントたちに囲まれて笑う
一般人と何ら変わらない魔力のことなど全てカルデアがなんとか出来る、そう思っていてほしいと願った、たった三人のマスターでそのうち2人は一般人とに近いのだ
一人だけずば抜けた年長者は使える限りの自分のスキルを使いサポートする、魔力補給か、それとも性欲解消か
英霊達に抱かれる時彼らは決して、柊澪という名を呼ばない、彼らの中の特別な誰かを呼んだ、澪によく似た彼らの世界の中で愛した…親しい人を誰もが愛おしく重ね合わせて呼んだ
心苦しくそれに対して思いつつも拒否することさえできない愚かさにむせび泣き、1人きりのベッドの中で重たい腰を持ち上げた
中に溢れる魔力が混ざり合い、それはただの魔力として存在するのが安心感に晒される
きっと誰もが自分を汚い人だというようになる、それを覚悟しながらも望まれるまま言われるまま、まるで人形のように生きては息を吸い、吐いて…そして、生を実感した
「翁様、いるのでしょ」
彼は静かに青い炎で部屋を照らし目の前に立った、大きな体格に人とは似ても似使わない見た目、彼が人なのか獣なのか神なのか、何かわからない
ただ、山の翁として存在してはこのカルデアに来てスグに彼は側に黙って立っていて、何のために居るのかどうしていてくれたのか分からぬまま、それでも自分の背中を押してくれることはわかって、その言葉に甘える
「契約者よ、汝の魂は境界の淵を永遠にさ迷うか」
「そうね、私のことを誰も愛さないのだから、私も誰も愛さないんだもの」
心がないというように、彼はその大きく鋭いその指先で髪をすくっては優しく撫でる、まるで父のような存在に思えることか、彼が異常な程執着する宗教さえ興味もないのだから、信頼さえなければ彼のその瞳に映らなければ殺されたことか
彼だけは柊澪という女を認めて人としてくれた、それだけで十分で、喉を鳴らして彼の指先に触れる
「私、あなたに愛されたい」
彼が人として感情が無いわけでは無いからと、そこに甘えるように思えたからか、本心ではなくまるで子が親に甘えるようなものだ
それを理解しているゆえに彼の指先は優しく女を撫でてその青い炎を柔らかく揺らす、暖かくもない青い炎が心を洗う獣のように鋭い爪が顔に触れては心の奥が疼いた
「汝の鐘を鳴らすものは我でない」
「私の鐘の音は聴こえない?晩鐘の音さえ」
愚かならば彼のその腕に首を捧げてみたいものだ、利口だったのがいけなかったかと苦笑いを浮かべて、見上げた先に何も言わずに山の翁はその髑髏の姿で見つめるだけだ
「貴方を見てると…思い出すの」
1度だけの少女の恋のように熱く燃えたその炎はもう消えたのに思い出してはまた小さな炎のように心を熱くさせる
決して口数多いわけではなく、けれど的確に人に言葉をかけるこの者が懐かしく、ベッドの上に仁王立ちをして少し高くなった目線で彼を見つめた、頬なのか口なのかそれとも、顔でもないのか分かりもしないそこに手を伸ばして触れる
「…どうして、私のそばにいてくれるの?」
「我が契約者よ、汝の魂の救済はハサンにあらず…だがしかし、我が亡き心(しん)は汝の願いを望むことである」
「わからないわよ、難しいのよあなたの言葉」
嘘をそう言って思わず澪は山の翁の頭を抱える、そうすれば身体に腕が回され力強そうなその太い腕の中に閉じ込められる鎧の痛みと冷たさが現実のようにぶつかるくせに
彼のその言動は夢の中のものなのではないかと、思えてしまう、柔らかな青い炎が消えていった、そっとその腕に抱かれ廊下を出れば外は真っ暗に吹雪を見つめた、廊下のランプは彼が通る度にオレンジが消えて青に変わってしまう、まるで炎さえ殺してしまったかのように
「契約者、澪よ」
「なぁに」
「汝の魂に救済を、我等は願っているその光を永遠に見守っている」
あまりにも優しい彼の声に思わず笑みが漏れた、気付かぬうちに眠りについていたのか目を開けたその部屋の中の明かりは青く小さく光り輝き、心を温め続けた
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