アーラシュ
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眠れない夜が明けようとする、雨戸にしているためか外の音がよく聞こえて、新聞屋のバイクの音が聞こえた
コツコツと外の階段の音が聞こえ、近くなったのを思いきや、音を立てドアが空いたのを聞いて、誰なのだろうかと思いながら眠るフリを続けた
「寝れないのか?」
大きくゴツゴツとした手が頭を触れる、長ったらしい髪の毛を指先で遊ばせては優しい声にあぁ英雄アーラシュの声だと認識した
彼と彼女の関係を上手くいえば恋人、複雑な関係だが簡単に表せばそれ、敵とも味方とも言えないで世界線のよくわからない平凡な世界をみんなが生きていた
アーラシュは深夜のバイト帰りだ、夜中に街の警備をしている彼の前世は東洋の大英雄だ
みんなが前世を信じ、みんなが自身の前世を生き様を知る世界はとてつもなく気味の悪い世界に思えた
「…最近なかなか寝れないの」
「悪い夢でも見るか?」
そう言われた時に、ふと彼が星のように光り輝き優しいその笑顔で真っ直ぐと世界を見つめて散った最後を思い出した
英雄は孤独だった、英雄だからこそ誰もが愛しても、強さの中の孤独を身につけた彼はその孤独に悲しみなど感じなかったのか、大きな手は確かな体温があった、それに包まれながら暗い部屋の中で立つ彼を見た
「そうね、あなたが星になる夢かしら」
「なら、澪は月だ」
「どうして」
「星と月は夜にしか出ない、宇宙には俺たちだけの世界が広がるんだ、そうすりゃ怖くない」
まるで子供を宥めるように優しくいう彼はその程々に鍛えた巨体を狭いシングルベッドに入れようとしてくるのを文句も言わずに奥に詰めた
アーラシュはあまり自分の家に帰らない、毎夜遅くに寝てる間などに来ては隣で優しく包み込むように寝てくれる
「足冷たいな、寒いか?」
「ううん、アーラシュがいるから温かいよ」
腕を彼の背中に回しながら子供が抱きつくかのようにその身体を抱きしめた、心臓の音に温もりに臓器の動く振動、様々な感じが伝わるのを脳に焼き付ける
今日もまた彼はこの世界で生きているのだと実感した
「俺は、助けになれてるか」
まるで助けになれなかったことでもあるようにいうのはきっと彼は忘れれないからだろう
目の前で愛する人を失くしたのが、彼の愛した人は彼のために自害した、愛する彼の目の前で愛を語り、平和を願い、英雄としてのあり方を教えた
怖くて仕方ないのだろう、瓜二つの人間がまた死ぬのが、そんなことを理解していても単純に自分を望まれてると願った
「えぇ、アーラシュがいてくれるだけで私は幸せよ」
求め合うのは弱いからなのだろうか、生きていることを毎日願って愛を語るよりも世界のことを願った
暗い部屋の中で馬鹿な人間となれた2人が求め合うことは結局傷の舐め合いだ
「大丈夫、私はまだ死なない貴方を置いて死ぬのはもう飽きたから」
彼の人生の中にいた時、全く同じ自分は彼の目の前ですべてを捨てて彼に英雄としてのあり方を教えた
ひどく怯え悲しみ苦しんだことを知ってながら次の世でも同じようにしようとした、それを彼は止めることなく見つめたのを見て、本当の英雄になれた彼に心の穴が空いた
「なぁ澪」
「なに」
「お前を抱きたい」
もう朝になるのよ、そう文句も言えず彼の腕に寄り添った
行為の中の彼は泣きそうで求めてくる度に英雄でなく一人の青年として、男として彼は愛する人を傷つけたくないようなそんな顔をした
黒い髪を撫でながら彼の瞳を見つめた時に、美しいその瞳を細めて愛を語った
目覚めた時、幼い顔でイビキをかくアーラシュの腕を見れば力強く抱きしめられていた、二度と離さないようにというかの如く
そんな彼に安心しつつも時計を見れば残念ながら仕事は遅刻していた、そんなことを気にすることなくただ今は英雄ではなくなったこの世界で一人の人間として生きる彼の寝顔を見てもう一度眠りにつくとした
次目覚める時にはきっとまた今日も張り切ってひよこ豆のペーストを作っているであろうと予想して穏やかにカーテンから入ってくる太陽の光を少し浴び目を閉じた
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