エミヤ
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「そんなに仕事のがいいなら、俺ら別れようぜ」
この20うん数年の中で男にそれを言われたのは何度目か、まだ言ってくれるだけマシで酷い時は浮気相手にされていたり、まさかの知らない間で結婚されてたり…とにかく悲惨だった
男の言葉に対して「あぁそんな!私にはあなたしかいないのに!」などと言った言葉は出るはずもなく
「あー、そうだね、ごめん」
慣れたようにその言葉しか言えなかった
飽きたわけでも嫌いなわけでも、どうでもよくて付き合ったわけでもない、そこにはしっかり愛があり
そこには感情としての好きが成り立っていたのに、どうも上手くいかないで別れ話になってしまう
一ヶ月の間にデートは一度、あるかないか
連絡は自分からは全くしない、相手からの連絡もメールならば返事をしたり、しなかったり
そんなカップルとしては長く無理なのは理解していた、そもそも自分は仕事が大切でそれ以上のものは作る気もない
もしデートの日があってもその日仕事で人手が足りずに出てほしいと言われれば普通にデートはキャンセルだ、当たり前の話、それは金に関係するのだから
とはいえ、寂しい会いたい好き
ありきたりな感情は持ち合わせているもので、悲しいものだった
「ほんと、私が悪いのなんてわかってるわよ」
「またか」
缶ビールを片手にテーブルに置かれた唐揚げに手を伸ばした、下味もしっかり衣が多いこともなく理想の味をしている
生姜醤油で下味をしっかりした鶏肉は口の中で味を広がらせて、ビールの苦味がクセになる
勿論それを作ったのは彼女ではなく、キッチンから出てきたのは体格のいいエプロンをした浅黒い肌に白髪のオールバックの男だった
ご丁寧にエプロンはチューリップが真ん中にあり、ポケットには布巾が掛けられるようにいられている
「私だって、しっかり付き合いたいけど何年社会人してると思ってんのよぉ…」
彼これ今の職場に就職したのはお恥ずかしい話だが17になる少し前だった、高校へは魔術師としての力を付けようとしたが魔力暴走をさせて校舎をほぼ全壊させた
その結果危険だと認識され、適当な就職先をみつけられ、真っ当な給料を貰い今の会社に至る
小さな会社で作業員も2.30人ほどのそこは仕事がしやすく楽しい場所だった、社長自体も彼女を娘のように扱い可愛がってもらうものだからこそ身を削り仕事をしていたわけだが
それがやはり裏目に出てしまうことが多い
「君は仕事のしすぎだ、外でも家でも」
「そんなの言われたって、私からしてみりゃ周りが仕事をしてないだけよ」
「はぁ……だから君は男を泣かせるんだ」
「そうね、愛しているのにそれも伝わらないんだもの」
大きなため息をついて背中にあるビーズクッションに体を預けながら天井を見つめた
そもそもこの家政婦のような男は自身の使い魔だ、聖杯戦争という万能の器に願いを捧げる殺し合いに参加して、今回の戦争はどうやら何があったのかみんな生き残り平和解決となった
この男の元マスターは契約を切りなんやらあって彼女に渡したはいいが、女1人の生活を見た途端に顔を青くした
朝は朝食抜きに仕事に向かい
昼は外で健康に悪いものばかりを食べ
夜は遅くに帰ってきてはシャワーを軽く浴びてビールを飲み寝る
彼から見てそれは不健康が手足を生やして歩いているようなものだった
最初こそは大変だった生活習慣を正して怒鳴り踏んだり蹴ったりとにかく彼女の生活は彼から見ては相当なものだった
ビールは一日1本にするまでには凡そ一ヶ月かかった、食事を作っても食べずに、弁当を持たせては中身が空になるまで時間がかかった
「君の愛はわかりやすいとは思うがね」
一旦終えたのか目の前に座りテレビのリモコンを持ち番組を変えた、年寄りの大喜利番組からニュースに変えられたことに文句も言わずに唐揚げをつついた
「私好きな人には慎重にしてる方だし、それこそ士郎くんなんかずっとベタベタに甘やかしたわ」
「…今もじゃないのか」
「士郎くんには今は凛ちゃんがいるから、邪魔しちゃ悪いじゃないの」
何を言うのか、と言いたげな目を向けられる
そりゃあ大切な義弟であるが、その義弟の初めて愛する大切な女性との時間は邪魔できるわけもなく
本当ならば2人ともたっぷりと愛したいというのに、若い二人の邪魔は出来ないと思ってしまう
「士郎くんは器用だから、私みたいな振られ方はないわね」
「分からないがな、アイツのことだきっと凛の事を怒らせてばかりだろう」
「あなたがそうだったからでしょ」
「んグッ…そっそういうことだ」
目の前の男は実のところ未来の義弟ともいけなくない、未来?パラレルワールド?詳しいことまで聞くのはやめたが同じ人物らしいのはよくしっている
ふとした時がよく似ているからだ
「だがまぁ、正直君を振る男は勿体ないな」
箸を器用に持ちながら備え付けのレタスにマヨネーズを付けて食べた彼をみていれば、最後の唐揚げも取り上げられる
満足そうに今日の出来を確認する彼に文句を言いたくもなるがみつめた
「よくいうよ、みんな待っててくれないわ」
「それは彼らが君を知らないからだ、私ならば君をずっと待っていよう」
その途端に携帯から大きな着信音が響いた、彼の言葉に返事することもなく
立ち上がり部屋の入口付近に行き、電話を出れば相変わらず会社からの電話だった
仕事でなく今から社員みんなで飯に行くらしいが来ないかとのこと、相変わらず仲がいいことで…と思いながらもちらりと見た先にはテレビを見る彼の背中だった
振り返ってきたと思いきや、行ってこいとのことらしくジェスチャーされた
「すみません、今日はちょっと」
そういえば軽く話をして電話を切りまたテーブルに戻り隣に座る
行けばいいのに、という顔の彼は俺なら待てると言いたいのだろうかと思わず思ってしまう
「私の休みの時くらい、待たなくてもいいじゃない?」
そういえば僅かに嬉しそうな顔をしたあと、置いていた右手に左手を重ねられる
男の子は本当に大きくなるものだと感じながら彼の顔にを見つめて頬にキスをした
「…じゃあ、今日は私といてくれ」
まるで林檎のように赤くなった顔でそういうものだから、思わず小さく笑い手を繋ぎながらチャンネルを変えた
老人達の大喜利はいつの間にかみんな座布団が0枚になっていたのをみて少しだけチャンネルを変えるのは待っていて欲しかった…と思うのだった。
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