源頼光
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誰も名を呼んでくれない、誰も彼女を望まない、武人であれば男であれば、きっと何よりも幸福であれたのに、いっその事腹を割いて死んでしまおうか
いっその事、誰も知らぬ場所でヒッソリと息を引き取れれば、きっと幸福であれたのに
「…源頼光との契約が成立した…?」
「あぁ、立花くんがね前のほら…鬼ヶ島の後で戻っきた時に聖晶石での召喚に応じてくれたみたい、顔は合わせてない?すごいボディの人だよアレはもうこくほ…どうしたの?」
「え」
「すごい顔してるじゃないか」
ドクターである最高管理者は問う、奥に見える壁掛け鏡には鬼のように鋭い瞳の自分が一瞬映った
澪は何故か鼓動が早くなっていた、止まらぬほどに荒くなる心音に耳を傾ける
「きっと今頃また素材集めにみんなで鬼ヶ島だけど…」
「ロマン、私もレイシフトさせて頂戴」
「えぇ!?どうしたの澪さん」
「いいから、少し向こうに用事があるの」
そういいながらも足を止めずに進む彼女を追いかけるように立ち上がり彼は付いていく
機械を進めて全員が手伝う中とんだワガママを言ったと普段は思うはずの彼女が何も言わない、何も感情のない瞳で行こうとするのを見て恐ろしさを抱いた、鬼のように危険な匂いをさせて
「帰るときにはあの子達も連れて帰ってくるわ」
そういった瞬間に消えた彼女にため息をついた、どうしたっていうんだい?そう聞くにしても彼女はあまりにも切羽詰まっていた
レイシフトという行為は未だ慣れないでいた、あの幼い2人のマスターは適応性が高いのだろうか、生憎自分は身体自体万全の状態ではあるが頭は痛む、まるで脳を揺さぶられたかのように気持ちが悪く吐き気を我慢する
辺りは山道で上のあたりから大きな音が聞こえたのを確認して、足を進めた矢先だった黒い角の生えたものが1匹だけこちらを見つめるのを見た
サーヴァントも連れていない人間ならば死ぬことくらい理解していた魔術礼装を着てこずに、生身の姿であれば人は死ぬだろう、それをわかっているはずの彼女は気にすることなく足を進めた途端にそれは襲いかかってきた
「退きなさい!」
そう遠くから凛とした女性の声が聞こえた、光を纏った矢は突き刺さり鬼を消滅させる
上から降りてきたのか目の前に華麗に着地した後に女は見つめた
黒く長い髪に豊満な胸に包容力の溢れるような優しい瞳、高い身長にどことなく懐かしんだ彼女の顔を見て…あぁお前だったなと思い出す
「あなたは」
まるで愛する人を失くした女の顔ではないか
源頼光
彼女をよく知っている、美しく気高く何よりも愛を望んだ少女じゃないか。
苦しみながら憎まれながらそれでも誰かの為に剣を振るった武人の少女の魂はいつしか壊れたのだろうか、初めて出会ったのは武人として戻されたばかりの頃だろうか
怯え人の目を伺った少女ともいえよう女に恋をした、隠れて愛し合いながら彼女の歪みを受け入れて受け入れて彼女のその手で鬼の為に殺された
「……澪…様」
会いたかったの、あなたを見る度、体の芯が熱くなり、歪んだ魂が少女の魂を求める
「来てくれたのね、私の鬼よ」
「ぁ」
「さぁ頼光よ私の所に来なさい、また私を愛してほしいの」
怯える彼女の瞳が愛しい、先程までの気持ち悪さなど忘れて、震える彼女の瞳を見つめる
揺れている、また一度愛したいという気持ち、子供のように甘えていたいと願い思い、だけれど壊したくないと願う母の命
頼光は澪という男に恋をしたのだ、その昔そっくりなままで生まれ変わった今の彼女と同じ男、父よりも兄弟よりも愛しては女と少女と子供を教えた、隠れながら口付けて全てをさらけ出した時、父は見た
鬼と神が交わる姿を、怯え嘆き煙たがろうとした、そこに転がり込む一つの頼み
強大な力を持つ危険な獣が山奥にいると、それを殺せたならば2人をなかったことにすると
「澪様、澪様…私は」
零れる瞳が美しく腹に刺さった刀が心地好い
初めて見た娘の歪んだ笑みは心を満たした、満たされぬ愛の器が零れ落ちて、鬼の血を浴び丑の力を制御せずに美しい女の腕で死を迎える
泣いてほしい、どうか忘れず根に持て、呪いのような言葉だろう
「澪さん!!来ていたんですか!」
「…ん?見つけた藤丸くん、少し頼光殿を見たかったのごめんなさい」
「いえ、あっもうお腹もペコペコだし帰ろうかなーって」
「そうね、そうしましょっか」
目の前で固まる武人は少女だった、すれ違う一瞬彼女の腹を撫でた
私の子はいとおしかったか?と問うのだ、お前は女になれずに生きるのだから
酷い頭痛と吐き気に襲われる、戻ってきてそうそう最悪の気分に慣れない頭を掻きながら成果報告書を書いた、もう夕方がすぎていることに気づき腹の減る気配もなく珈琲を片手に廊下を歩いた
「澪様」
「こんにちは、頼光」
「澪様?」
「バーサーカーだっけか…私の名以外は話せないの?」
潜めた柔らかな瞳は食らいつきそうほど、まるで安らぎを奪う密猟者を見るような瞳
その度に子宮が泣き喚いた愛おしさを語るように、歪んでなどいない、普通にあなたを愛しているのだといいたい、あの日あの時の山奥で二人きり認めてもらいたいとどうか父に許されたいと願う頼光との鬼退治、鬼こそは弱かった頼光だけで物足りた
だからこそまた2人だけの秘め事を作ろうとした彼女を無理矢理にして泣く少女に「頼光、僕は君を愛してるんだ…君の鬼も君の魂も殺されてもいいんだ」鬼は愛した人の死を望む
永遠に生きれない弱い生き物を愛する、神に最も近い男を鬼は喰らいたかった、美味なその肉を頬張りながら苦しむ人を慈しみたい
丑は耐えれずに溢れた神の人を殺して食らってそして、愛の深さに涙した
愛とはなんと美しく愛とはなんと悲しいものか、夢のような心地よさだった
「澪様、私はあなたを喰らいました」
「えぇ、私はそう願ったもの」
「私を罰して欲しかったのです」
彼女は女の前では少女の顔をする、ずるいほどの愛らしい加虐心煽る瞳と期待したような熱
罰などこの世に存在しない、それこそ神人が殺せば怒られてしまうではないかと内心愚痴を吐く
けれど少女の瞳はあまりにも恋焦がれる、哀れんだ瞳で彼女との距離を近づけて首に手をやる
「頼光、罰など無いのよ、だってこれって私の愛だから」
憎まれても恨まれても構わないほど恋焦がれていた、少女を愛して哀れんで孕ませ堕ろさせた
それでも女は恍惚とした瞳を向けた、ぞくりとするほど妖艶だ
「あぁ澪様」
そして鈴のような愛らしい声でなく
あまりの心地に目を眩ませて
「頼光…私の部屋においでなさい」
またあの日のように二人で今度は誰にも邪魔されないように、二人だけの秘事を作ろう
愛と恋を混ぜ合わせて憎みだけを残すように、望みながら殺し合うのだ
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頼光が父の元に戻った時にいた男と「女」になった頼光が今度は幸せになる話。
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