坂田金時










「なんていうかよ、あんたは無理しすぎなんじゃねぇの?」

高くつまれた書類があるわけでも、パソコンをいじってるわけでも、次の編成を考えてるわけでもないのに、彼はそう言った
眩しいほどの綺麗な金髪に、見えない瞳の奥


「どうしたの?金時あなたが珍しいのね…酒呑達に何かを言われて?」

「そうじゃねぇって、普通に心配を…心配…ってかまぁ」

素直なのか不器用なのか未だわからない、彼はそう言いながら手を引いて歩き始める、カルデアの廊下ですれ違う人達に仲がいいなんて微笑ましく見られて、金時はそれを恥ずかしそうに無視する
本当に何があったのだろうと同じ日本人の職員でありマスターである彼女は思っていれば、それは与えられているサーヴァント用の個室

サーヴァントなのだから部屋などいらないといったのに、結局あまりまくった部屋のために使えと与えた部屋は今では彼の好み1色、金色のものばかり棚にはいくつか小さなフィギュアは自分が幼い頃うっすらと見た事のあるヒーロー
大きなソファーの上に座らされてそのテーブルの上に大きな皿を音を立てておいた


「…なにこれ」

「あの赤い方のエミヤが今日のおやつにってよ…餡蜜くれたんだよ、俺にはちっと量が多いから食ってくれよ」


嘘つき、なんて小さく言いかけてしまう
彼なりの気遣いを無駄にしてもダメか…と思いながら持ってきてくれたお皿に入れて食べる
確かに大柄でバーサーカーな金時には普通の量なのかもしれないが、甘いものはそんなに大量に摂取しても困るものだ
それにあのエミヤがこんな量を1人に渡すのだろうかとふと思って、そして気づく時には小さく笑ってしまった


「ねぇ金時」

「なんだ?」

「あなたって優しいのね」

「なっなにいってんだ」

恥ずかしそうに顔を赤くする彼がまるで幼い子供のようでいつも可愛らしく思えていた
大きな指先で小さなスプーンを持つ彼さえ面白くてたまらない


「あんたがあんまりにも休んでる顔じゃねぇから心配だったんだぜ」

「…私そんな顔してたかな」

「職員全員忙しいのはわかるけどよ…人間なんだぜ、アンタがいくら普通の人間と違うとはいえ」

その言葉が重くのしかかる、説教というわけではなく彼自身の心配からの言葉なのが余計に身に染みる
他人に心配をされることは恥ではない、だがそれに気づかぬ自分が恥だと思えてしまうのだ
人をよく見てくれるこのバーサーカーの男は幼い子供のような顔を見せながら人を見てくれている


「聞いてんのかよ」

「え、あぁもちろんでも金時がそんなに見てくれてるって思わないから」

「そりゃあ惚れた女くら……ぃ」

大きな声で言った後に真っ赤になった彼の言葉は何度目か、毎度惚れた腫れたの話は得意でなく、愛を囁くことは不器用を通り越している
そんな彼が好きでたまらないのは事実であるのだが、からかいたくなってしまいそうになる。
けれどからかってはいけない、彼の好意は純粋だから
まるで生まれたての赤子のように真っ直ぐなその愛は心を擽るものだった

隣に座るそんな彼は背中を丸めて顔を背けながら食べるものだから密着して顔を彼の肩につける
心音が聞こえるんじゃないのか?と思えるほど体温が熱い彼


「澪、ちけぇって」

「いや?」

「嫌じゃねぇけど…その誰かに見られたら」

「ここは貴方の自室でしょ」

慌て始める彼が面白くてたまらない、中学生みたいに青い恋をしている
お皿を置いて金時の膝に手を乗せて見上げれば観念したように彼も皿を置いてその手を握る
大きすぎる彼の手は関節が一つ、二つ分ほど違うかもしれない、そんな手に包み込まれた左手は暖かいカイロのような温もりに心地よさを感じて目を細めた


「なっ、なぁ澪」

「なに?」


知っているの、あなたの次の言葉
どもりながら申し訳なく恥ずかしそうに訪ねてくる彼は決まって同じセリフを吐く


「キスしていいか」

真面目な日本男児みたいだと思ったのははじめの頃だけ
毎度聞かれるそれが可愛くて好きだった、もしダメだと言われたらきっと背中を大きく丸めるのだろうなとおもえて想像するだけでも面白いのだから


「うん、いいよ」


けど意地悪をしては母にも怒られてしまう、そして悲しい柴犬みたいな顔をした金時に申し訳なさでいっぱいになるのだ
だから辞めておく、それに彼はそれを許可する時に決まってまた顔を近づけた後小さく言うのだ


「好きだぜ」

まるでそれはどんなラブレターよりも、どんな愛の告白よりも恥ずかしくて
どんなプロボーズよりも、どんな一生涯の言葉よりも嬉しくなるようなそんな真っ直ぐな言葉なのだから。






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