アルテミス
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「ねぇアルテミス」
「なぁに、澪」
白く美しい髪が揺れる、珍しい愛する男を連れて歩いていない彼女は嬉しそうな瞳で目の前の魔術師を見つめる
仕事の片手間で女神である彼女の相手をしていたがふと楽しそうな恋物語は止まり、ただ静かに宝石のような瞳が見つめた
「なんというか、あまり見つめられては私も仕事がしにくいの」
「そう??」
「えぇ、私何かついてる?」
「違うの、やっぱり変わらないのねって」
「…昔の私と?」
そう言われることにはもう慣れすぎたのか指先一つ止まることなく電子パネルをタッチしては次のレイシフトについて考える
ゆっくりと細い弓を引く手が伸びて髪を撫でる
「短い黒髪…あの人が女の子ならきっと澪と一緒だわ」
「オリオンより、愛してた?」
「ダーリンを愛してるけど、ダーリンより彼は、愛してくれたかも」
その瞳があまりにも悲しいものだった
彼女はオリオンを失くす筈だった、有名な逸話でもそうだった、兄であるアポローンに騙され彼を撃ち殺してしまう
医者もハデスも父も、死者を生き返らすことなど許してもくれなかった、そしてオリオンの死を悲しむアルテミスを哀れんで、彼を星にしたのだと。
だが死ぬことは無かった
何故ならオリオンとアルテミスの側にはいつも生死の神が側に居たからだ
強い力を持ち、誰よりも高潔な神でありながら、人のような感情を持ち合わせた
アルテミスを愛し、オリオンを羨み、誰よりも人間であったのだ
「オリオン…どうして、私が??」
「ねぇ、助けて…誰でもいいの!私のダーリンを!!オリオンを……奪わないで、私の愛する人なの」
「どうして…ねぇ、どうしてなの、ただ側にいれたならそれでよかったのに」
嘆き苦しむ美しき女神、ただ処女神であった故に兄であるアポローンはオリオンとの仲を許さなかった
愛おしい妹の幸せを奪った罪悪感を感じながら、戻らぬものに彼は何も言えず
誰もアルテミスに手を差し伸べることは出来なかった
「あぁ我が愛しいアルテミス、どうかもう泣かないでくれ…私がなんとかしてみせる、だからどうか月の女神よ…」
「……澪?」
「そう、私だ…私は生死を司る人の神、大丈夫…愛する君のためならば私は全てを投げ出そう」
オリオンの遺体を連れ去った彼はオリオンを連れ帰ってきた
抱きしめる腕の温もりも触れ合う唇もオリオンであり幸せだと笑った
だが誰もそれを許すことはなく全員がオリオンと澪を狙った、それは罪になるが澪の力は絶対的だった
冥界の神であろうと、何であろうと全ての生死を決める神の力であった故に誰も止めれなかった…止める前に彼は朽ち果てた
オリオンを狙った矢は外れ、オリオンを突き刺そうとした刃は突然欠けて壊れ
アルテミスやオリオンは気づいたのだ、決して2人何かがない限り他人の手でもう2人が死ぬ事は無いのだと
だからこそ、彼は死んだのだすべての責任を抱え
愛したアルテミスという女と
その女の愛した男オリオンを想い
「まるで英雄ね」
「それが澪の過去なの」
「私じゃない私よ、だってアルテミスは私を愛さないでしょう?」
ベッドの上で近くにあったぬいぐるみを抱きしめた彼女は小さく笑った
愛する人のためならば誰もがそうできるものでもない、神であれどいつか死んでしまうことはわかっている、なのにそれを否定したからこそ女神の血を引いた神は死んだのだろう
「あの人は多分私の、まぼろしの王子様なんだもん」
「夢だけを見せて消えた?」
「…うん、私は強欲の女神だわ、だってあの人もオリオンも欲しかったの」
ベッドに倒れ込んで天井を見つめたアルテミスは泣きそうな顔をするのを見つめ、資料整理をしていた画面を閉じ、アルテミスの顔を覗き込んで彼女の両頬を包んだ
「…姿は違えど私はあなたを愛してるわアルテミス」
厄介だと何度も思った、魂だけは嘘をつかない、心や脳がどれだけ自分を自分と言っても
過去の自分たちはその日その時間愛していたものの幸せを望み続けていた、置いていき朽ち果てた臆病者のクセして愛だけは1人前だった
アルテミスの白い指が手首を掴んだ
「大丈夫、だって私はダーリンがいるもの、私が愛してたのは昔のあなた、柊澪なんて魔術師は愛さないわ」
「……えぇ、そうね私なんかを愛したら貴方はきっとアルテミスではなくなるものね」
あまりにも真っ直ぐな瞳に苦笑いを浮かべた、小さくその赤い頬に口付けて彼女の目頭に溜まった涙に知らぬふりをして、そっとベッドから立ち上がり部屋を出る
「……もう彼女を悲しませないでくれ、オリオン」
「ったく、女になっても言う奴がいるかよ」
「そりゃあ、『僕』は永遠に彼女を愛しているのだからね」
そう小さく呟いた、オリオンが部屋に入っていくのを横目に見て小さくため息をつく
あぁまだ生き残っているなんて、今更言えるわけもないか………
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