アーラシュ





深いため息をついてカップの中で少なくなった黒い液体を胃の中に放り込む
苦味がイヤに頭を覚醒させて、時計を見れば時刻はいつの間にか夕時を過ぎていた
もう食堂は片付いてしまって残りは全てラップをかけられて置かれているのだろう、とはいえ二時間前に呼びに来たナーサリー達にブーティカからの軽食を貰った故にそれ程空腹感もなかった、部屋の中の洗濯カゴとなっているかごの中には衣類がつまりに詰まっていた
制服が数着とほとんど下着と寝間着だ、カルデア生活が長引いてからは残念ながら一切私服を着ることが減った、とはいえ昼頃に立花(姉)の手伝いでレイシフトをした故に制服を着たままだった、こんな時間だとも思い適当にラフな私服を手に取って着替えて外に出る

「お?山の翁たちのところのマスターさんか」

「こんにちはアーラシュ」

「こんな時間に洗濯か?」

「えぇ、溜まっていたのを忘れていたからあなたも珍しいのね」

カルデア内の広いコインランドリー、数十台あるが全て乾燥までしっかりついたスグレモノだ
量も多く休み無しのカルデア内の職員達にも少しは助かるものだった
とはいえこんな所でまさかのサーヴァントと遭遇するとは思わず声をかけてきたアーラシュに返事した

「夕食の時に揉めててなぁ…スープひっくり返っちまって」

「テーブルクロスの洗濯ってわけ?あなたがする仕事じゃあないのでは?」

「忙しそうだったからいいさ、俺みたいな奴じゃああんなに美味い料理もできないし…出来ることがあるならいくらでも手伝うさ」


優しくそう微笑んだアーラシュのその姿は嫌いではなかった、というよりも真の英雄と言うべき男だ
それ故に地元の人間でなくてもその人柄の良さにアーラシュを気に入る職員は多かった、頼りがいもあり優しく笑顔の素敵な男性
サーヴァントとはいえ人間と何ら変わらないのだから、女性職員からの人気は特に多い
とはいえ一端のマスターである澪からしてはあまり関係の無いことでそれこそ自身が現を抜かすことができない状況ゆえに、相手が人間だろうと英霊だろうと特に大きな感情はなかった

「相変わらずね、隣借りるわ」

「そうか?これ使うのもわからなかったからなぁ…最近ようやく覚えたんだ」

「あら万能のデータ保管庫に聞かないの?」

「どうせなら自分で考えた方が楽しいだろ」

勿体無いなども思えた、大体の知識なら自分たちの聖杯からのデータにあるというものの
今生を楽しんでいる彼にはあまり関係もないのかも知れなかった

「まぁそういいながら洗剤の量間違えてこの間大変だったんだけどな」

「あれってアーラシュだったの?三日くらい使えないからなんだろって思ったわ」

「掃除が大変だったなぁ」

「全く…あっ」

「ん?」

丁度話をしながら洗濯物を洗濯機に投げ入れていたのはいいが、音を立てて下着が落ちたことに声を小さく出した
釣られたらしいアーラシュはそれを見たあとに固まったがそんなことも気にせずに澪は急いでその赤色に黒のレースのブラを洗濯物に放り込んで、ドラム式洗濯機の上に置いてある洗剤を手馴れたようにいれて、蓋をしてスタートを押した


「…アーラシュ?」

ようやく静かになったアーラシュに気づいて隣を見れば真っ赤になった成人男性が一人
思わず澪は驚く、別に女性の下着くらいでこんな気にするようなことなんて…と思えた、それこそ女性サーヴァントなんてみている方が恥ずかしいほどの露出をしているではないかと聞きたくなるものだが、それさえ飲み込んでしまうほど初心な少年のように顔を赤くしたアーラシュがいた


「えっあっ…わっ悪い悪気はなかったんだ」

「いや別に私気にしてなんて」

「ほんとに、ほんとに悪かったから…あっ!洗濯物出来たみたいだしじゃあ」

漫画のような取り乱し方をして洗濯機からテーブルクロスを取り出したアーラシュは走り出したのだが、出る前に一度自動扉より早すぎたためにぶつかった
目を丸くした澪だが、アーラシュのいた所には小さなバイクの鍵がひとつ落ちていったのをみて、また後ででいいかと冷静に思いながら1人洗濯物が仕上がるまでを待つのだった。

あれから次の日からアーラシュと廊下ですれ違う時も、任務のために全員で会議をする時も、食事をする時も
視線が痛いほどに浴びせられるくせにこちらがみればそそくさとあらぬ方向に視線を向けるものだから澪は大きなため息をついた

「静謐、少し聞きたいのだけれど」

「はい、なんでしょうかマスター」

「アーラシュってその、なんていう女性のこととか結構気にするタイプの男性だった?ほらあなた聖杯戦争一緒だったでしょう?」

「…一緒ではありましたが、深く知るほどでは、ですがその女子供には優しい方ですね気にするとは?」

自室に呼んだ静謐にそう言われては答えるのも難しく頭を抱えた、このままでは気まずいまま時が過ぎてしまう、そうなれば向こうも嫌だというのにどうしたものかと

「契約者よ」

「…だからあなたねぇ、出てくる時は教えて頂戴それで何かしら?」

「汝の首を跳ねるか?」

「この程度で悩むなと言いたいわけね」

そう呟けば部屋にいたはずの大柄な異型の者は消えてしまった、深いため息をついてまた溜まってきた洗濯物を見て重たい腰を上げた
まるで自分が何かをしてしまったような、まるで思春期の子供のような表情をしたアーラシュのあの顔、忘れれずに何度も過ぎる

「あ」

自動ドアが開き広いコインランドリーに1人椅子に座った男、気づいていない様子で近づいて前を回れば大きく口を開けて寝ていた
珍しいと思いながら出来るだけ静かに音を立てないようにと洗濯物を入れて回し始める、眠るアーラシュに何も言えるわけもなく少しの間だからいいかと隣に座り持ってきていた仕事を進め始める

「…ん」

「おはようアーラシュ、英霊でも寝るのね」

「えっうおっ」

「ちょっと!」

目を開けた途端に驚いたアーラシュが椅子から落ちたことに驚き駆け寄ればまた彼はあの日と同じように顔を赤めた
英霊とはいえ澪とて女で、それなりの経験を積んでいたのだから思わず勘違いを起こしそうになる

「ねぇアーラシュ、そういうふうにされるとお互いに面倒じゃない?」

「あぁわかってるんだごめんな」

「じゃあ」

「けどその、無理なんだ…意識したらその俺も男だし」

たかだか下着の一枚じゃないかと言いたくもなった、これが相手がアマデウスやティーチならこんなことにもならなかったと思えた
しどろもどろと話を1人でしては解決にも形もしない


「好きな人のあんなの見たら想像するのが男だろ」

開き直ったような言葉だ、まるで俺は悪くないとでも言うのか、アーラシュからは予想もできない言葉だ
澪は思わずアーラシュをみつめれば同じようにその瞳を絡ませた、はぁ…っと思わず澪はため息をこぼした

「じゃあみてみる?」

そういいながらアーラシュの弓慣れしたゴツゴツとした手を取って胸に触れさせる
服越しに伝わる手の感触に心臓の音を聞かれないかとばかりに思いながら前を見れば、顔だけで終わらずに耳と首までも赤くなった彼の顔に思わずからかいすぎたかと手を離した時には遅くアーラシュの腕に引かれる
そっと顔が近づいて勢いよく目を瞑ると同時に低いその声が聞こえた

「からかってたら本気になっちまうだろ」

「えっ、あぁ…うん」

「それとドアから作家さんたちがみてるぜ」

その声に顔を上げて思わずみてみればニヤニヤと笑うシェイクスピアと真顔のアンデルセンがいたのをみて
あぁ来月の小説はラブストーリーになってしまうだなんて思わず冷静に思うのだった。




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