ガウェイン






小さく息を吹きかければ、それは大気中に白く消えていった

「こうも寒いと困るわね」

週に2日の素材集めとして来た場所がカルデアには負けず劣らない雪山だとは思いもよらないでいた
寒さには強い方ではないが弱すぎる訳でもない、それでも支給されたレイシフト用の制服に厚手のコートやその他防寒具を付けても一向に暖かくなる様子もない

「お寒いですか?」

「そうね、あなたは暖かそうだわ」

「よろしければ我がマントを羽織られますか?ご存知の通りサーヴァントには体感温度などはあまり関係の無いものですから」

「そう?お言葉に甘えさせてもらうわ」

円卓の騎士であり、太陽の騎士であり現代のアーサー王物語を知るものならば知らないものはまずいないであろう者だった
美しいその顔で微笑みながら、自身の身につけていたマントを羽織らされれば、彼の温もりが伝わるのと同時に太陽に当てられたような温もりと優しい匂いがした

「本当にあなたはこんな雪山に来てまで太陽に愛されているのね」

「澪…あなたにそう言われれば我が身への太陽は永遠に沈みません」

「そういうことは立花ちゃんに言ってあげなさい、私はあなたのマスターではないわよ」

物言いたげなガウェインの顔を見せ、話をしていたためか少しだけ顔を寄せて腰を折っていた彼の頭を撫でれば、心地よい柔らかな髪触りに頬を緩める


レイシフトを終えたあとダ・ヴィンチの下に出向いボディケアとして薬を貰いながらお茶を一杯出され椅子についた

「ところで澪、それはなんだい?」

「え?あぁこれ?ガウェインから借りているのすっかり忘れてたわ…言われなかったから」

「へぇ…そんな仲だったのか」

からかいを混ぜたような彼女の言葉に不機嫌そうな顔をして睨み付ければ、悪気はないのだと謝られる

「私はここでは誰にも特別な感情なんて向けないわ…どうせ私を誰も見ないんだから」

「相変わらずだね」

「カルデアだと私が私だと思わせられると同時に誰かの私だったんだって嫌に理解してしまうから」

「そうかい、無理はしないように何かあっても私は君を柊澪としてみるよ」

そう言われ小さく頷いたあとコーヒーカップをテーブルの上に置いて、羽織っていたマントを外し、手に持った
ファーまで付き安物とは全く違う手触りに色合い、所々ほつれをみつけながらも手を加えて自身が戻せなくなっては仕方がないかと思いつつ足をガウェインの部屋に向けた

「澪それは?」

「あら、ランスロット」

ようやくサーヴァントたちのマイルームがある建物までやってきた時にはたまたま声をかけてきた、セイバークラスのランスロットの声に下を向いていた顔を上げる
腕の中にあるマントをみては珍しそうな顔をする彼に説明をすれば納得をしてはくれたらしい

「それでどこかに行くの?」

「えぇ、マスターに呼ばれ今から種火を集めに」

「そう、気をつけて行ってらっしゃい」

「はい勿論です、それと澪」

「なに?」

「今度寒い時は是非私に声をおかけください、それでは」

そういい行ってしまったランスロットに目を丸くしたあと手元にあるガウェインのマントにまた目を落として、たった数分話しただけではあるのに疲れてしまった気がしてため息をこぼしマントに顔を埋めてしまう

「あぁもう何してるの私」

深く顔を埋めはしなかったもののメイクをしているためか色も何もついてはいないように見えても、気持ちとしては申し訳なさが勝ってしまう
仕方なしにまた深いため息をついて、洗濯に出そうとエミヤに声をかける前にガウェインはタイミングよく廊下に立っていた

「あぁ奇遇ですね」

「えっ、あ…そうね」

「マントを返しに?」

「いえ、先にその一度私が借りたものだし洗ってもらおうかと」

太陽のような眩しい笑顔を向けるガウェインにこのまま返すべきかと悩みつつも、とにかく一応は借りたものは洗うべきだと思い言えば

「そんなことはお気になさらないでください、あのような環境下で仮マスターといえど主に凍死をさせるような真似など」

騎士というものはわからず屋でなんとも女心を理解してもらいたいものだ
腕にあるマントに手を伸ばす彼になかなか渡せず、困り果てた顔をしてしまう澪に思わず首を傾げる

「えぇっとその」

「構いませんよ?」

そして兎に角ガウェインを片付けてしまおうと急ぎ足で彼の手を取り、マイルームに向かいロックを開けて彼自身の部屋に入れる

「澪?」

「明日には乾くと思うから」

あまりにも不思議な行動にガウェイン自身ももの言いたげな顔になっていき、ついには澪の手を取ってマイルームに入れてしまった
早めに洗濯をしなければ明日の朝には間に合わないと思いながらも一応は彼の所有物だからと理解しており何も言えずに見つめた

「何か隠していますね」

「大した理由じゃなくて」

「なら教えて頂きましょう」

まるで蛇に睨まれた蛙、小動物と肉食動物、ウサギとライオンのような
観念した澪は小さな声で「このマントに顔を埋めてしまって…その借りてもいたし一応は洗わなければ気持ちが悪いと思って」と告げた
間を置いて理解したのか驚いたような顔をしたガウェインはマントと澪を見るやいな、彼女を抱きしめられ、巨体を誇る彼に抱きしめられ尚且甲冑の為に痛みが倍増した

「ガウェっ痛いわ」

「これは失礼しました、あまりにも嬉しいもので」

「…は?」

「そんなに私に対して好意を抱いて下さっていたとは」

「えっと…あの」

「大丈夫です、円卓の騎士ガウェインは澪だけのものとなりましょう」

「あのだから」

「安心してください、痛みなどは与えません」

それはとてつもなく優しく太陽のような眩しい笑顔であり、体が宙に浮いたあと背中は優しくベッドに包まれ、天井をバックにしたガウェインがいた
冷や汗をかきつつマントを強く握った澪はこれはもう逃げることは出来ないと悟り、自分のサーヴァントでないことを悔いた
今すぐ誰か彼を止める術を教えて欲しいと心の中で思いながら、そっと額に送られた彼の唇からの温もりに熱が籠るのを感じながら、どうすべきかと考えることでマントのことなどもう忘れていた



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