殺エミヤ




燃え盛る炎の中でただ男は泣いていた、自分の望んだはずの願いは歪に満たされて世界は泥に侵されて
街を覆い尽くさんとする炎が男を殺す、誰かいないのかと屍のような足取りで歩き、声を枯らすように叫び
ただ1人その世界を見つめた、少年を見つけた彼の表情はあまりにも満たされて、まるで救われたのは男のようだった

「澪、君がいるなら士郎は大丈夫だね」

暖かな陽だまりの中、そういった彼はあまりにも崩れそうな弱い生き物へ変わってしまった
横に座り込みながら彼の息子の入れた茶を啜りながら

「あなたがいなくなると、きっとあの子もみんなも寂しがるでしょうね」

「そうかな、それならきっと僕は幸せ者だよ」

そう言い合った、暖かなひだまりの中で触れた彼の手はあの日から随分とか細い気がした
あの時思うことなどなかったことだろう、自身を死に追いやろうとした彼が微笑みかけて隣にいることなど、想像もつかなかったことだ


夜の空の下で二人きり、あぁこうして二人になるのは案外初めてだと感じた
アサシンクラスのエミヤとして存在する彼はどこかの世界線のどこかの衛宮切嗣だ、話し方も声も形は違えど全てあの男だった
正義を信じた男、正義に縛り付けられ多数を取る男

「眠れないのか?」

任務のためといえど秋頃の山の夜は冷え込んだ、テントの中には寝袋も更にはマスター用にと用意された厚手のブランケットなどもありながら、それを着込んでいた
隣で警備代わりにいるその男の声を聞いては何度も眠る前を思い出した

「少しだけ、ところでみんなどこかにいったの?」

「明日の朝食とこの辺りの探索だ」

「少し外の空気吸いたいからついてきて欲しいの」

「出たいなら好きにしたらいい」

口数が多い訳でもない彼の言葉に起き上がり、髪を手櫛で整えて外に出る
改めて聞こえる虫の声や、山の中故にか都会と違いよく見える星たち

「エミヤは、誰かを愛したことをある?」

何もわからない彼の過去を気になった違う世界線の中で生きた彼は何を思い一人でいたのか
野暮な話を聞くものではないと分かりながらも英霊として死した彼を気になってしまったのだ

「あったのもしれない、だがそんなものは無意味だ」

「どうして」

「僕には何も守れやしない壊し殺る事しかできない」

怯えた子供のようにフードの奥に見えた瞳は悲しく染まっていた
隣に立つ男の手を思わず取り指を絡める、驚いたような素振りをして、すぐにそんなことは無かったようにしたエミヤの手はゴツゴツと銃を握りすぎた為か固くなっていた

「そんな事ないでしょ、私のことを守ってくれてるじゃない」

初めの頃から良くしてくれた、山の翁が来る前からアサシンとして来てくれた彼には何かと世話になり続けていた
微妙な距離感でいて、どこか避けているかと思いきや見つめて、近寄れば逃げられる

「…あんたや、あの白いキャスターや全員そうだな懐かしむように見る、残念だがあんたたちの望む存在にはなれない」

おやすみマスター

まるでその言い方は優しい父のような言い方だった、霊体化した為かクラススキルとやらがあるために消えたように見えるだけかただ分かりもせずにその場に立ち尽くす
星は一つだけ遠く離れた場所に消えそうなほどの小ささで輝いた、それがまるで一人の男を語るように


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