アヴィケブロン
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極寒の地ロシアを抜けたばかりの今辛く苦しい旅はまだ始まったばかりであった、車内は重たい空気が流れることもなく藤丸姉弟は楽しそうな笑顔を向けてテーブルの上で何かに触れる
「うわぁゴーレムって出来るんだ」
「かわいい、これがいつかアヴィケブロンのみたいなゴーレムになるんだ」
等と言葉を発した、ロシアの地であったあの場所を空想切除した直後すぐにダ・ヴィンチから召喚場所を整えてみたとの事を言われ澪・藤丸立花姉弟は1人ずつ召喚をした、目覚めた筈のカドックは様々な事を質問されながら人見知りの少ない歳の近い藤丸姉弟たちにゆっくりだが警戒心を解いているばかりだ
「なんだか嬉しそうねアヴィケブロン」
「そうかな、表情は見えないんじゃないのか」
「分かるわよ、貴方って子供とかに対して扱いが分からないだけで好きでしょう、純粋なあの瞳が」
生前彼は孤独を貫いた、誰も彼を理解出来ないのだと彼自身もわかっていたからだ、その中に1人の少女は彼を気にした、魔術もゴーレムの意味さえも知らない子供であれどそれだけに執着する彼を何処までも愛おしんだのだろう
「君の瞳は変わった、昔は僕を憧れるような瞳が今じゃ子供を見る目だね」
「そう?でもゴーレムのことのなると貴方ってばあの子達みたいに無邪気だもの、仕方ないじゃない」
目線の変わらぬ彼女の手の内では物体が形を作り上げる、アヴィケブロン程とは言えないがそれでも一流魔術師として申し分のない魔力を分け与えられた立派なミニゴーレムが現れて彼女の手のひらに立っている
「このゴーレムの知識は貴方からのものよ、遠い昔の私宛へのね」
「英霊になってから様々なことを知るようになったと痛感する」
ゴーレムは自我を持ったように彼女の手からすり抜けて子供のようにはしゃぐ2人の元に行ってしまう
名残惜しそうに見つめた後に話をするアヴィケブロンを彼女は嬉しそうに見つめた、彼女にとってのアヴィケブロンはゴーレムを作る師にあたりそして何よりも幼い恋心を受け取ってくれた男でもあった
それでも彼女のアヴィケブロンといたときの生前はやはりゴーレムに負けてしまい、叶わない恋でもあった
「君への恋心や、子供の温もりなんてものかな…大戦中僕は何処までも終わりを後悔したよ、そしてロシアでの最後も君と別れるときどうしても心のどこかもう少しだけと願ったさ」
口数多く話をするものだから澪もいつになく真剣に話を聞いた、生前の彼では決して抱けなかった感情はいつからか溢れそれは喜怒哀楽様々なものであり
彼の胸を熱くさせる、元々自分の世界が広い人間であり入ってくるものに拒むこともなければ深い興味も抱かないでいた
それは彼に対しての瞳がどれも心地いいものでなかったからだ、だが現在は魔術師も大きく広くなりそれこそ彼を崇拝する人間も少なからず居るはずだ
「今を大切にしたいと願うよ、君やあの幼いマスターたちの為に」
「世界の為ではないのね」
「僕にとっての世界は君たちだ、それ以上なんて今の僕には存在しない」
こんなキザなことをいうような人物だったかと澪は思わず霊気の固定ができているのか怪しんでしまう
終わりを告げるベルがなっているのにこの車の中だけはいつもと変わらない気がした
「それでも澪、君が望むなら僕は存分に自分のこの力を奮って見せよう」
機械的なその手に掴まれて顔元に持っていかれ仮面に触れさせられる、彼の素顔を見たいなどと思うわけもなく澪はアヴィケブロンのありのままを望んだ
澪の掴まれた手が仮面の下に潜り込まさせられれば小さな温もりが手に触れる、柔らかく癖の強い髪や人間の呼吸、小さく指先に唇が触れたことがわかり思わずアヴィケブロンをみた
「僕は君を今度こそ心から愛すると決めたんだ」
「…えぇ分かってる、さながらあの子達は貴方にとって子供ね」
「あぁ弟子でもあるけれど、君との子の気持ちになるよ」
今度こそ澪はアヴィケブロンの言葉に目を丸くしたあと顔中に熱が篭ったのがわかる
思わずデータパットを職員から借りてアヴィケブロンがシュメル熱にでもやられたのかと思ってしまうほど彼は甘い男になっているのだから
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