アーラシュ





「アーラシュ、宝具の解放を」

「いいだろう…『流星一条』!!ッ」

彼のその声とともに溢れる魔力、一点に集中した力が溢れるように撃ち抜かれて辺りにいた敵全体に攻撃が与えられる
ゆっくりと金色の粒となり消えていく東方の英雄、アーラシュ・カマンガー、シュミレーションとしてサーヴァントの育成のための素材を取りに行くために連れていくのはもう何度目かのことで互いをよく知った
目の前で消えゆく彼を見ること見慣れてしまい、それが普通に感じた
たった一つの命は、データになり座に残っているオマケにここカルデアでは例え外で死んだとしても戻ってこられた

「ただいま」

「おう、おかえり浮かない顔だな」

「別に特に深いことは無いわ、さっきはありがとう」

「俺に出来ることならいつでも言ってくれ」

彼は一言で言えば英雄で、誰が見てもそれは分かっていた
理想である彼をいつからか苛立ちに変えた、平気な顔をして宝具を解放して行く彼はある日澪に告げたのだ

『俺が死んだって代わりはいるさ、それに今は戻ってこれるんだ気にしなくていい』

他人事のように笑う彼は人のため、世界のため、ただサーヴァント達に力を与えるために素材を集めるためとはいえ簡単に死んでいく、痛みは変わらないというのに

「澪?」

「…アーラシュ近い」

「また考えてるのか」

シュミレーションや、レイシフトで彼を連れていき戻った直後、顔を合わせるたびに澪は気難しい顔をした
勿論それはアーラシュを責める理由にもならずに彼女は自分を内心責める、千里眼を持つアーラシュからすればそれは丸見えで澪の自己嫌悪に相変わらずだと感じつつもそばに立ち顔を寄せた

「べ、別にあなたのことじゃ」

「俺の眼は誤魔化せないぜ?」

アーラシュはこの柊澪という女を好んだ、彼女が女神の血を引き一人一人の人間や英霊達の何処かで大切な人の代わりを務めたからだということも除いて
20数年間の年月を生きて、更に眠りについた彼女に待っていた未来は人類の滅亡だった、正体のばれた彼女を封印指定対象者だと告げる魔術協会、眠りにつく彼女のその力を買い取ったカルデアの前所長、全ての時は流れに流れ絶望の崖の淵にたった彼女は自分よりも未熟な幼いマスターたちを守るように立ち上がった

「私じゃ力不足かもしれないって思うだけ」

「リツカやフジマルがいいって、だろ?」

「あなた案外趣味が悪いんじゃない」

「悩んでるとこを見ていたくなくてな」

ため息をついた彼女が歩き始めたのを付けていく、生憎護衛役のアサシン達も気配は感じないと思えば察したのか「今は外してもらってる、カルデア内じゃそんなに危険なこともないでしょ」等と告げる
アーラシュは内心ため息をついた、何もわかっていないのだなと危険はいつも身を潜めて今も隣にいるのにと

「なぁ、澪」

「なに」

「…本気か?」

「悩むなって言ったのあなたでしょ」

いいから来なさい、と女王様らしい答えが返ってきた、千里眼を常時発動しているという訳では無いが、何も話さない彼女の頭を覗き見て思わず固まったアーラシュと当たり前だと言うように澪のマイルームのドアが指紋認証システムで開く

「ダメなわけ?」

「…い、いや」

「本当急に弱くなるんだから」

頭の中の言葉が常に流れてくる、抱きしめて、触れて、生きているのか、心臓の音を聞きたい、たくさんの欲が彼女の頭を支配していた
自動ドアが開いて入れば、ものの少ない10畳ほどの広い部屋の中、音を立てて自動ドアが閉まると同時に胸元に当たった衝撃は澪自身で見下ろした

「…今日もちゃんと居てくれてよかった、帰ってきた時にいなくなってなくて…よかった」

千里眼を止めて彼女の背中に腕を回す、固い鎧越しに触れる彼女の温もりがむず痒く、一声をかけて装備を解けば薄いシャツ越しに澪の体の温もりが伝わった
黒い髪を撫でて背中に腕を回す、互いの鼓動が当たるような心地がして、英霊であろうと魔術師であろうと、何であろうと今こうして2人は生きているのだと再確認する

「いなくならないさ、マスターの2人も澪も悲しむだろ」

「悲しまないなら、消えないわけ」

「…手厳しいな」

「馬鹿ね、貴方がアーラシュだから心配してるのに」

もしレイシフトから戻ってきた時に彼がもう二度といなかったと、きっとアーラシュの答えならばもう一度召喚すればいいと言うのだろう
けれど今の記憶を持ちこうして抱擁できるのは今この場にいる、この記憶を持つアーラシュでしか無理なのだ
それを言っても理解はされないのだろうと思わず思いながら逞しい腕の中で頭を撫でられる彼女は猫のように目を細めた

「にしてもあんまりこんなことしない方がいいぞ、勘違いされるんじゃないか?そうなればお前さんのトコのアサシン達も黙ってないだろうし」

「……」

「お、おぉ?」

恋仲でもないのにこうして甘えられてはさすがに勘違いもしてしまうというアーラシュの言葉にまるで鬼のような顔をしている澪がいて、思わず固まってしまう

「…アーラシュじゃなきゃ、こんなことするわけないでしょう」

いつもみせる冷静なクールな彼女ではない表情はまるであの愛や美の女神たちの魅了にかけられたような気分であった
思わず目を丸くしていれば言った本人が恥ずかしかったのかアーラシュ自身の胸に顔を埋めた

「言わせないでよ、英雄のくせに」

小さく悪態ついた彼女にあぁこの女らしいと思った、魂や見た目は同じでも何一つ似ていないと思えた
髪の毛を撫でていた手を止めて澪の頬に手を添えて顔を上げさせれば、赤く色づいた顔の彼女が見えた

「英雄の前に人間で男だからな」

「そうね…で、なに」

「キスしていいか?」

「……こういう時はね、千里眼なんて便利なものあるんだから使えばいいじゃない」

「澪の口から聞きたいってのはダメか」

調子に乗りすぎたかと思いつつもみれば悪い顔をしない彼女に顔を寄せる
身長差があるために1歩だけ後に下がり澪の顔を見て口を添える、もっと欲しいと思いながらも思わず聞くことも出来ずに千里眼を小さく覗けば同じ意見の澪にもっとと唇を求める

「…んっあっらしゅ」

「澪っぁ」

小さな力で肩を押されることも照れ隠しだと思っていれば小さな音を立ててドアが開く

「澪さーん、アーラシュいま……」

「わあお」

「アッアーラシュさんに澪さん」

「マスターに、フジマルにマシュっ」

「っっ!長いこと借りててごめんなさいっ、アーラシュも離れなさい、ほんとじゃあまた夕飯の時にね」

そうまくし立てていった澪の力は筋力A++を誇るのではと思いながらも追い出されたアーラシュは顔を赤くしたマシュ、そしてニヤニヤと笑うマスター立花にその弟藤丸

「「どういうことか教えてもらおうか」」

あぁ千里眼を使えばよかった…等と肩を掴まれて笑う2人に思わず思う
なぜなら二人は澪のモンスターペアレント並だったからだ、小さく千里眼を使えば嫉妬と共に扉の奥から小さく声が聞こえた
それはどうにも悪いものでなく、余韻に熱を残して、頭の中を溢れさせる彼女の声だ
今度はこの二人がこない時間に会いに来ようと小さく笑えばそれを見ていた幼いマスター2人は更に怒ったように文句を吐いた



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