ヒビキ











年々彼女は美しいオンナに変わる、知り合ったのはまだ彼女が小学生くらいか
いつ間にか家業を引き継いだ彼女は鬼のサポートの猛司とはまた違う鬼の心体サポーターとしての役割を継いだ、配役としては銀ともいえようが銀の中でも特に力が強い家計のものだった
鬼になるものもいれば、医者としても、誰もが自由に生きるが決して心を捨てはしない力強い一族の娘だった


「こんにちはヒビキさん」

「よっ、葵ちゃん」

「今日は珍しくいるんですね」


冒頭の言葉はこの女に対して思うことだ、歳を重ねる度に見た目も中身も何もかも美しく
自分よりも幼いはずの彼女に対し、少しだけ感情が揺さぶられる
大きかった彼女の喫茶店の制服はピッタリとして、浮いていたような大人の制服はいつの間にか負けぬほどだった
美しい髪を下ろした彼女が髪を耳にかける度に、美しいと感じる

「ヒビキさんぼーっとしてる」

「最近忙しいからさ、疲れるのかも」

「それはダメです、ほらうちに来てくださいマッサージしてあげるから」

「え!?いやいいって俺そんな」

「ダメです、ヒビキさんになにかあったら」

少し拗ねたような顔をした彼女の顔に頭をかく、別に構わないのにと言いたいがここまで断ると周りに何を言われるかわかったものでもない
重たい腰を上げて、斜め向かいの喫茶店の中に入る、先代である彼女の父がじろりと見つめるのを笑いながら誤魔化し、二階の部屋へと上がる


「最近来てくれなくて寂しかったんだ」

マッサージ用のベッドにうつ伏せで寝転べばお香を焚いて小さく音楽を流した彼女がいう
その言葉は何処と無く胸にチクチクと刺さる、悪い意味ではなくむず痒いといえばいいのか。


「そんな、イブキとかトドロキとかは毎日お世話になってるでしょ」

「そりゃあ2人は近況報告とか…でも、ヒビキさんってば何も来てくれないから」

「相変わらず俺のこと喜ばせるのは上手いねぇ」

「そんなことないです、私は別に」

からかいがいのある当たりはまだ子供なのかもしれないと内心笑うが、彼女の細い指先がしっかりと背中を撫でることに意識し始めたのはいつからか。
変な気を今更一回り近く離れた彼女に向けるのも変な話だろうとは思いつつも、ちらりと見た彼女の顔は何よりも嬉しそうで、それを同じ角であるイブキやトドロキなどにも向けられるのを考えると苛立ちが少しばかり刺激する


「にしても大分固いですね」

「うーん、鍛えてるけどマッサージは自分でもなぁ」

「だから来てっていってるのに、そのために私はこういうことを覚えてるんですから」

「葵ちゃんのマッサージは本当に有難いよ、治療の腕も勿論だし、貶す部分さえ出てこないレベルだね」

「…だってヒビキさんのためだったから」

耳がいいのも困ったものだ、何よりも嬉しそうな顔をしないで欲しかった、全く危険な娘だよと言葉が漏れそうになり慌てて飲み込む
触れる手は暖かく彼女の心のように感じる、心地良さにまぶたを閉じればゆっくりと意識は手放される


気づいた時には彼は眠っていた
30過ぎとはいうものの感じさせない肉体だ、彼との出会いは鬼になった時に挨拶しに来てくれた時だ
その時は優しいお兄さんだったものが歳を重ねる度にかっこいい素敵な男性に感じてしまった
鬼とそのサポートであるのだから有り得てはならない、というよりもきっとこの男性はそういった類のものは認めてくれない
昔1度だけこぼしたことがある

「ザンキさん、もしヒビキさんを好きになったらどうしたらいいと思います?」

同じ鬼であり歳も近いはずの彼にそう尋ねた、難しい顔をされて一言いわれる

「あいつは…恋とか愛の類は多分理解できないタイプだろう」

無理、というような言葉に落胆とした
あまり来てくれないヒビキさんを思いながら時折イブキ・トドロキに話を聞くと変わらず魔化魍退治に専念をしているらしい
トドロキに至ってはいろんな意味で鈍感だが、イブキはすぐに察知していろんなことを聞かせてくれたり応援をしてくれる

「でもホント葵さん好きだよね」

「え?そう…かな」

「うん、なんか凄く羨ましいなヒビキさんが」


イブキは優しい、そのためきっと女性ならばイブキのほうを選ぶのかもしれない
確かにそうだ彼は人を泣かせない、残酷なほどの優しさを持つ彼に人は甘える、イブキの優しい顔を見ると苦しくなったのは事実
それでも初めて愛した人は変わらぬ人だった

目の前で小さな寝息を立てて眠る彼の頬に小さな口付けを落とした
叶わない恋でよかった、この人がある種真面目で、実らぬ恋だとわかっていればなんとなく報われた気分だった
音楽を止めて、椅子を持ってきては眠る彼の寝顔を見た


「……私、ヒビキさんのことずっと昔から好きなんですよ」

「あのなぁ、そろそろ恥ずかしいんだけど」


ふと聞こえた言葉に下に下げていた目線をあげた、そこには苦笑いを浮かべて目を開いた状態のヒビキであった
思わず目を丸くして、今呟いたことを聞かなかったことしてもらおうと慌てふためき立ち上がれば椅子は勢いよく後ろに転んだ


「あっああああのヒビキさん私」

「俺よりイブキとかのがよっぽどいいと思うんだけどなぁ」

「…え」

「俺のこと好き?」

まるでイタズラをする少年のように彼は言った
顔に熱が籠るのを感じながらも激しく頷けば、嬉しそうな顔をされる、何もかも変わらないと感じながら言葉を待つ


「俺結構離れてるよ?」

「いいです」

「いつか命を落とすかも」

「私が守ります」

「心強いなぁ、俺も好きって言ったら?」

心臓が止まりそうだった、そうあってほしいと願っていたものだから、心苦しいほどに嬉しくてたまらないと
言葉も出ずに何故か涙がポロポロと流れ始めたのを見てヒビキは急いで立ち上がり彼女の涙を拭う


「あぁもう泣かせたいわけじゃないんだって」

「ごめんなさっ、嬉しすぎて私泣きやみますからあぁもう」

「余計泣いてるって!」

うるさい程だ心臓の音も今の2人も鳴り止まないほど
苦しくなって嬉しくてたまらずに、目の前で困った顔をする彼に段々と涙が引いて思わず笑えてきてしまう
そうすれば次は驚いた顔をするものだから、感情の波が荒いのかもしれない

「改めていうけど、俺と交際してくれますか?」

「ヒビキさん、交際って…少し古めかしいですよ」

「…っじゃあ付き合ってください」

「はい」


少年みたいな拗ねた顔も、イタズラしたみたいなずるい顔も、穏やかで優しい人を暖かくする顔も
全てが全て好きなのだと認識する、手を取られて絡め取られた指先に少し恥ずかしくなり見上げればそっと近づく顔に目を固く瞑るが、額に小さくそれはおちた

「期待した?葵のえっち」

「っっヒビキさん!!」

「はいはい」

子供扱いは少しまだ消える様子はなくても二人で大人になれたらいい、ゆっくり階段を上って
熱い唇の熱に酔いながらそう思えば、彼は崩れたように優しく笑って肩に顔を埋めた
あぁ、この人のが少し子供かもなんておもって。






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