ウラタロス










今日はおめかしをしよう。
人の体を借りながらそういった、どこで買ったのかもわからない青色のドレスにそれに映えるパールのネックレス
イヤリングは少し大きめのリングを、靴はいつもの黒いパンプスとは違う青にヒール部分がキラキラとラメになったもの(中はクッション性で歩きやすいし痛くもならない)
指には青い石のついた指輪を一つ、嬉しそうに幸せそうにまるで結婚式のよう、爪もネイルしようピカピカに磨いて伸ばしていたから余計に綺麗だ、青に金色は上品に見える
髪の毛はどんな技術か聞きたくなるほど美容師もビックリな器用さで、まとめあげられそこにもパールのUピンと一つ大きな青い薔薇


「ねぇウラタロスさん、どこにいくんですか」

「葵さんはどこいきたい?」

「私、こんな格好」


まるでパーティに向かうみたいだ、彼はいつもと違う紺色にピンストライプのシングルスーツ
靴はいつもと違う磨きがかった革靴に髪の毛もいつもよりも手の込んだセットになっているようにみえる
高いヒールなのを気遣ってゆっくり歩いて、声をかけながら歩いていく

「…とっても綺麗だよ」

何回目の台詞だろう
本当に嬉しそうに彼が言う度に恥ずかしくてならない、嘘偽りなくそう述べる彼に悪い気がしない
その反対に嬉しくなり、何故か彼の言葉は世辞かもしれないが不思議と信じてしまえる


「このドレスとっても高かったでしょう?良太郎くんのお金だろうし…私返します」

「待って待って葵ちゃん!」

まだ着てから数時間程度だし汚れもない、高い値段だが別に貯金を崩せば足りるだろう。
そう思いながらいったが、ウラタロスは顔を青白くさせた、必死に止める彼は珍しいと感じた


「それは、その…良太郎の身体を借りて僕が稼いだものだからさ、胸を張って今日だけでも来て欲しいな」


あまりにも切ない顔をしている彼にこれ以上言えるわけもなく小さく頷けばまた嬉しそうに微笑んだ
手を取られ絡め取られる、ふと止まった先には真っ白なまるで魔法の馬車の様なリムジンだった
まだ街には似合わない様な浮いたそれはドラマやテレビの世界に感じる


「さ、お姫様どうぞ」

扉を開けて微笑んだ、車内は広く備え付けの冷蔵庫までもあり、手慣れた様子でウラタロスはそこから用意していたのかシャンパンをだして注いだ
ついでにとテーブルには果物が置かれて、車の中とは思えない豪華な作りに圧的される

「…ウラタロスさん、仕事何していたんですか?」

「先生とかを少しだけね?」

「あぁ挿花とかですか、でもこんな…よかったのに」

確かにそう言われては思い出した、ウラタロスは何度か挿花の教室をしていた、その度に女性の予約が大変なことになり溢れたやら、ウラタロスがいなくなり嘆く女性が多かったりと大変だったというのを一度耳にしたのを覚えていた

「いいのいいの、僕が一度したかっただけだしね、葵ちゃんブドウいる?」

「え、あっはい」

「はい、あーん」

彼の女性への扱いは素晴らしいと何度も思う
1人1人が特別に感じるような扱い方、勘違いをしてしまうが決して自分のモノにならないと思えてしまうハッキリさがある
だからこそそこに甘えることが出来たのだろう
食事を共にしたり何もなくても睡眠を共にする時、それは遥かに心地よく思えてしまう

「っと、ついたみたいだね、気をつけてね」

運転手が開けてくれたのを一度会釈して、彼の手を借り降りる
随分と車を走らせたのを思えば、普段電車で一時間ちょっとは掛かる場所あたりだった、豪華な街並みに大きなビルが多い、特に予定がない限り来ない場所とも言えるがウラタロスは手を引いて大きな階段を上がり始める

「はい、野上良太郎です」

入口に入れば黒服の男性が数人と受付に女性が1人、特に人が沢山といった雰囲気ではないのは平日だからか。
そう思いながらも受付を終わらせたウラタロス戻ってきてクスクスと笑った

「葵ちゃん、凄い面白いから」

「こ、こんなところ滅多に来ないから」

少し高いお店だとしても会社関係でなければまずいかないのだから仕方がない
田舎娘のように天井から地面まで物珍しく見る客も少なからずいるのだろう、スタッフであろう人達は優しい顔をしているのを恥ずかしく思い足を進めエレベーターガールの手により36階に案内される
広々としたそこは夢で見るようなレストランだった目を輝かせる葵を横目にエスコートするウラタロスは料理も頼んでいたのか飲み物のメニューをみつめる目の前の彼女に微笑む

「好きなので大丈夫だよ」

「…で、でもどれも高いから私やっぱり水」

「ワインにしよか、葵ちゃん飲めるし赤にしとこう」

しびれを切らして彼は近くのウェイターに素早くメニューを見せながらワインを簡単にいってしまう
店内はまばらだから数組人がいた、窓側の景色が見渡せる場所、奥は観覧車がみえ
知らない街だが夜景が美しく彩る、運ばれる料理もお酒も全てが夢のように感じ、身体の中を駆け巡るアルコールも早くなる


「ウラタロスさんは、女の人みんなにこうするんですか?」

「流石の僕でもそれは難しいよ、ハーレムの王様になりたいわけじゃないしね」

眼鏡のフレームの奥の目はいつだって優しいものだった、それの心地よさが時折酷く寂しく怖くなるのだ
結局は他人で、おまけに彼は人ではない
野上良太郎という身体を使ったイマジンであり、こうすることはたまたまでもある
時間は永遠という訳では無いため、いつか彼を置いていくか置かれてしまうかの二択になるだろう


「私、とても嬉しいですウラタロスさんとであってから…良太郎くんにとっても感謝してる」

デザートに運ばれてきたジェラートとガトーショコラとスイーツの乗ったお皿の中身はゆっくり崩れかけている
ワインのボトルだけが減っていくのを感じる

「ウラタロスさんのこと、とても好きなんです…だから」

「僕がほかの子とも遊んだりするのに?」

「きっと、寂しがり屋なんですよ私達」

苦笑いをしてまたグラスが空いてしまう、それをみたウラタロスはまた赤い液を注いでやる
空になったのを見たウェイターはやってきたのをみて、もう一本と頼む、別にこの女を潰したい訳では無い
ただ今はお互いこれがなければ話ができない気がしてもう三本目のそれを自分に注いだ、あまり飲んでは良太郎に悪いとわかってながらも飲み干す


「人が恋しいから、求めちゃってそれを愛だと勘違いしてるのかも」

「それは葵ちゃんが?」

「…うん、この間ハナさんにも友達にも似たように言われたんです、大切なものを失ったからそこに入り込んでくれた優しいウラタロスさんに依存してるだけって」

「僕は…どうだろうね」


酷くその言葉は胸に刺さる、弱いもの同士の傷の舐め合いなのかもと再認識してしまう
女を求めるのは愛を求めるからであり、その愛を求めるのは心の穴を埋めるためなのだ
肉欲に溺れるように求めあっても心は満たされることがなかった、彼女と出会ったあの日から夜を共にする日は心は満たされていたのをよく覚えていた


「酷い話だけど、それで良かったんです」

「僕に依存することが?」

「好きな人に溺れたくなるのは、誰も皆同じだと思います」

「……葵ちゃん、僕みたいな男でも?」

決して純粋とはいえない、いい噂もあまりないかもしれない
癖といえばいいのか、悪いものは持ち合わせていて、素直に好意は伝えたことがなかった
それでも好きだと思えるのは彼女の優しさに漬け込んでいるからだろう

「はい、だから…これが夢なら覚めたくないですね」

まるで魔法みたいに、シンデレラのように、いつかこの時間も過ぎ去って解けていく
その時に置いていくものなどなかった、見つけてほしいと願っても時間は電車のように早く行って終わってしまう
その時隣には王子様などいるはずもなく、ただ消えた夢達を本物だと認識してすがり付くだけだ

「ねぇ葵ちゃん、この時間だけ僕に釣られてくれますか」

乾いた声が漏れた、ワインはまだ残っている
デザートのシャーベットは溶けて消えて、ならいっそ2人で夢を続けよう
彼女は小さく頷いた、急ぐように手を引っ張りレストランから上の階に上がる、別に変な意味でとった部屋ではない、景色が綺麗で喜ぶかと思って。なんて嘘をつきながらとった部屋
髪が少し崩れた彼女が一歩後ろで見つめるのを抱きしめる


「僕は葵が好きなんだ、嘘でも何でもない」

「私もずっと好きです」

とても綺麗だと思えた、甘い唇も優しい心も白い肌も何もかもさらけ出して
魔法の時間は終わらないと、祈りながら
人と人でないもの同士で求めながら貪りながら。









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