壇黎斗
▼▲▼
小さな頃から友人と言える者はいなかった
代わりに一つ歳上の幼馴染の女性がいた、いつも優しく笑って手を引く彼女を裏切った
「…く、ろ…とく」
「……ごめんなさい葵さん」
苦しみもがく彼女を冷たい瞳でみつめた、嫌いなわけはない、反対に彼女を幼いながら<愛>していた程だ、ゲームのためならば何をも犠牲に出来た
だからこそ幼馴染であり大切だったはずの彼女も犠牲にした、少し前に手紙を送ってきたあの少年と同じ目に合わせてやったのだ
「だれか!!葵さんが!葵おねえちゃんが!」
苦しむ彼女が美しいと感じた、どうせ医者がなんとかするしなければ自分以上に憎むだろう、そして何よりもあの少年のことがあったのだから治らないわけがない
あれから15年も経ってしまった
遠目に眺める彼女は昔の記憶は消えていた、医者でもない何も知らないただの一般人であった
「…黎斗さんなんか最近楽しそうですね」
「ん?あぁもうすぐ新作ゲームが完成しそうでね」
「ならお祝いのお花用意しなきゃ」
幼い頃から美しい女性と感じたものはそれ以上になった、いつか全てを奪っていたいと願ってもそれはいつも遠くに考えた
目の前にいながら「黎斗さん」と呼んだ彼女は過去の記憶はほとんど覚えてもないことだ、それこそ壇黎斗という人間のことを覚えてもなかった
手術を終え急ぎ足に会いに行った時彼女は言った
「病室を間違えてるのでは?」
と、壇黎斗という人間だけを忘れて都合の悪い記憶が消えると同時にそらは彼女からへの自分の消滅だった
そこからはただのビジネスパートナーとも言えない、花屋の主人とゲーム会社の社長であった
昔のように笑い合うことも何もなく、仕事の男と女に変わった
「疲れた顔してますね、黎斗さん」
「その敬語とさん付けを外してくれたなら考えなくもないさ」
「またそんな、ほんと子供みたいね黎斗くん」
何か一つわがままのようなことをいつもいっては彼女は潔く受け取って笑う、黎斗くんと名前を呼ばれる度幼い頃手を引いて歩いてくれた彼女の背中を思い出す
その背中が愛おしく何度も求めては突き放して、彼女の幼馴染という存在に定着させた
指先のネイル、施された化粧、柔らかな唇、伸びた髪
全てが女へと変えられたのに、相も変わらず記憶の中に残る中学生の頃の姿
あれから何年もたってしまっても忘れることがないのは罪悪感の混ざった愛情なのか
「黎斗くんって…なんか懐かしい気がするけど、なんでなのかな」
「私に似た友人でも?」
「…わからない、小さい頃だったからかな、うまく思い出せないや」
花の手入れを終えたのか手馴れた様子に部屋の中のポットを手に取り珈琲を入れた彼女が一つのコップをデスクの上に置いてソファーに座った
隣においてあるマイティのクッションを見つめては指先で弄りはじめて
「黎斗くんだったら、私忘れないのに」
彼女は霧のかかったモヤを取りたいだけなのだろう、その言葉に深い意味は無い壇黎斗という男を望んでいる訳では無い
過去の自分の失くした記憶を気にして、そして隣にいる壇黎斗という人間に懐かしみを感じているだけである
何もそれ以上はない、例えこれが壇黎斗でなくCRのドクターであり友人である者達でも構わなかったのだろう
「私も、君なら忘れないよ」
その身体を何度も抱きしめる夢を見ながら、そう呟いた
ソファーに座る彼女はあまりにも大人になりすぎてしまった、枯れない花も永遠に輝く宝石もこの世に存在しないのだと言うのならば作ってしまえばいい
電子の世界でならきっと永遠の幸せが二人を導いてくれると信じて
▲▼▲
- 18 -