リュウタロス
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他人などどうでもいいと思えたのは、彼にとって興味の対象でないからだろう、人間というのはそう
子供のような無邪気と残酷さを兼ね備えた彼にとっては興味があるなしで世界ができてしまっていた、動物はその中の興味の対象、好きだとはっきり言えるものだった
良太郎の身体を使って音楽やヒップホップダンス、そして自分の好きな動物たちに触れ合う時間は何よりも心地いいものだ
「あなたその子触れるの?」
誰もいない静かな工場地帯に猫のたまり場があった、そこが近頃のリュウタロスのお気に入りであり、誰も来ず静かに猫を撫でまわすことができる、近頃は繁殖が盛んになり子猫が増えていた故親猫やその周り全体がピリピリとした空気になっていた
それ故に彼女は手に持っていた餌の袋をを開けて、持参したであろう皿の中に餌をいれる
「君だれ?」
最初は嫌悪に近いものだ、なぜなら自分の時間を邪魔する存在になりうるからだ、長く細く綺麗な髪に柔らかい顔をしていた、まるで良太郎の姉であり『お姉ちゃん』と慕う女性を思い出す
「あぁごめんなさい私西沢葵っていうの、邪魔をしたよね...ごはんあげたらすぐいくね」
「...別にいいよ」
気まぐれだった、ただ心というところのどこかで姉のような存在に甘えそうになる、けれど違うのだろう、だがはっきりとした気持ちがわからずにむしゃくしゃとしてしまう
「そんな風に強く抱いたらダメでしょ」
強く鳴いた猫は腕から逃げてしまい、物陰から強く威嚇をしているのを見て頬を膨らませてみつめた、けれども隣に座る葵という女は苦笑いをした
工場地帯故に砂埃の多い場所故、スカートについた砂埃を地面に叩き落としていき、猫たちをみつめた、よくみれば新しくまた生まれたらしく猫が増えていた
「君の名前を知りたいな」
「...名前?」
「うん、あの猫ちゃんたちと遊んでたんだもの優しい人でしょう」
そこで少しだけ悩んでしまう、自分の名前はリュウタロスではあるがこの身体は良太郎のものである、基本的に全員野上良太郎として楽しんでいたのだ、だから名を名乗るならばそうなのだろう、だがそのはずが自分の本当のつけられた名前を知ってほしいという欲もあったのだ
気づいた時にはおかしな話、どうもこの人間は悪い気は起きないが好きという気持ちには表せなかった
「...リュウタロス、そう僕リュウタロスっていうんだ」
「リュウタロス..竜か、かっこいいね」
「変わってるよね、まぁいいや」
「あっ帰っちゃうの?」
とにかくもう離れよう、そしてこのことをほかのみんなに言って聞いてみればいいと思えたのだ、そうすれば答えは小さく表れてくるとおもった
デンライナーに急ぎ足で戻ろうと思いながら考える、それでも好きなことをまだしたいという欲望に負けてしまい、ダンスに身を委ねても女の顔や話し方、すべてがはっきりと記憶に残っていた、気持ちが悪いほどの心地悪さと反対の心地よさ
全てが忘れずに残されていくのが違和感にしか感じないのだ
「でさカメちゃんはそういうのわかる?」
「ズバリ言うよ、恋だね」
「鯉?僕魚じゃないし」
大きなため息をついたウラタロスに首を傾げる、恋というものを言われてもはっきりとしなかったのだ、それもそのはず家族や仲間としての好きはよくわかってはいても
それ以外の好意がわからないのだ、むかむかとした胸やけのような症状、ちらちらと脳裏に移るあの女が嫌と思うのは別の意味で、純粋な好きとは思えないほどだ
「ええやないか、女が男に惚れるいうことは、強いということや」
「強い、僕が?当たり前じゃん..でもそっかへぇ、あの子僕のこと」
認められると思えば心地よくてたまらなくなる、ある意味ナルシストでもあるその自分自身をみてもらえたのならばうれしい純粋に思えた
ならばわかる、これは好きということなのだと、だがウラタロスの顔はなぜか違った、どうも彼の言うことは今一つ難しい、わかりにくいものであった、好きと嫌いだけの簡単な世界なのだ
子供と同じだ、自分を好いてくれるものを好きになり、その反対もある、けれどそれが幸せというものか
「あ、またいた」
「こんにちは、リュウタロスくん」
「またごはんあげてるの?」
それからは良太郎にも話をして許可をもらい、一日に一度決まった時間にそこにいってあわせてもらうことができた
彼女が帰る時間までは一緒、決まった時間と決まった時間、いつも猫を挟んで二人で話をする、どんな話でもよかった
例えばその日一日の話や、猫の話、名前は伏せてはいるが良太郎を含め仲間たちの話、戦いの話もダンスも音楽も、好きなことすべてを教える
趣味は全く違った、彼女はどちらかといえばインドア派で外に出るのは図書館に行き帰りの行きつけのカフェでお茶をするとき、そしてこの場所で猫に餌をやるとき
あまり外を好まない彼女が毎日でてくるようになったのは、リュウタロスのおかげだといった
「ねぇねぇ葵これとかいいよ」
「んー?確かにリュウタロスくんが選ぶにしては静かだね」
「だって葵のために探した曲だし」
いつからか彼女が日常に加わった、音楽もダンスもお絵かきも何もかも彼女を思い出して似合うだろうと思ったり、彼女だと思いながらそれらを作り上げる
その時間に無駄とは思わず何よりも気持ちよかった、楽しくてうれしいものだった
考えるたびになぜか浮かれてしまうのはなぜなのだろうと思った時に、やはりウラタロスの『恋』という言葉が引っかかる
ヘッドホンからイヤホンに変えたのは彼女のためだ、隣同士でイヤホンを片耳ずつで隣同士で聞きあうことが心地よかった
「リュウタロスくんどうしたの?」
「んー僕、葵のこと好きだなって」
「私もだよ」
心地よさそうに嬉しそうに微笑んだ彼女にまた一つ違う心地よさを覚える、膝の上に乗る猫も心地よさそうに眠っている、穏やかな気持ちになれるのはどうしてなのだろうかと思えた、手を重ねあうこともしてふれあい話をして
「どうして付き合ってないわけ」
ありえない、といった顔をしたウラタロスだが
理解もできた、結局は人間ではないのだ、イマジンとして存在するリュウタロスがこうしてできるのも宿主である良太郎がいるおかげである
それが少しだけ苦しくもあった、本当の自分は見せることは出来ない、そうすればきっと嫌われると思った
純粋で馬鹿な子供でありながら冷静な頭で考え始めたとき、やはりいつかはこの人間も消えるのだと思えた、いっそのことこの人間と契約をすればいいのではないのだろうかと思えたのだ
そう考えればずっと共に入れるのだ、ずるい方法だと思いながらもそれを願い始める
「僕が人間じゃなかったら葵って、僕のこと嫌いになる?」
好奇心の言葉で彼女を惑わせようとした、どうせ言葉だけならば嘘で終わる、そしてそれに対して満足できる気がした、欲望に忠実であるはずが抑えてきたのは嫌われたくなかったからか
合わさった茶色の瞳が優しく緩んでいく
「...わからないよ、だって私は今の姿のリュウタロスくんしか知らないんだから」
それは素直でありずるい答えだった、二択である選択肢を改変するのだから
思いもよらない言葉はなぜか彼女らしくすっきりとしていた、心地よさに対して理解できずとも、構わないほどだ
「僕やっぱり葵が好きだよ、とってもとっても...うん、わからないけど」
「うん、知ってるよ」
決して好きとは言わずに手を強く握られた、いつの間にか流していた音楽がまたヒップホップに変わっていた、それさえ心地よさそうに聞く彼女に頬が緩まっていく
「まぁ答えなんて聞いてないけど」
照れ隠しのようにそれは笑った、膝の上の猫もまた一つ大きなあくびをして、きっとこの関係には人間もイマジンも猫も、そして好きも嫌いもいらないのだろう
今のこの時間と心地よさがまるで海のように二人の心ごと流していくのだ、まるで子供が初恋をするような、そんな甘いだけのことだった。
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