ウラタロス









泣いている女がいた、夜の公園で1人
黒い髪に青い花のゴムをつけて綺麗な白いスカートに水色の可愛らしいオフショルのブラウス
白と青なんてまるで自分の色みたいに思えた、それ以前に泣いてる女の子は放っておけないと思った

「どうしたんだい?かわいいお嬢さん」

いつも通りのセリフでいつも通りに振る舞う、鼻を鳴らして泣くほど何が悲しいのだろうと思った
涙を流して顔を上げたその瞳に心臓が奪われた、大きく丸い瞳に小さくも大きくもないが綺麗な鼻、色は白く赤くなった目元はウサギのようだ
小動物のような彼女は普段見る女性と違う生き物にさえ思える、綺麗な女性でいえばこの体の宿主の姉が一番美しいとも思えるが、それとはまた違う、愛らしさを持っていた


「…ぁ、ごめんなさい私」

「いやいいんだよ、どうしたんだい?僕でいいなら話を聞くよ」

「そっそれは申し訳ないですから、それにとってもどうでもいいことですから」

ごめんなさい
鈴のような凛とした声だった、心地いい声に目を細めて立ち上がり慌てて行ってしまおうとした彼女の手をつかむ
あぁ、無理矢理はいけないじゃないかと自分でそういい咎める、いつだってスマートに優しく紳士的でなければ女性に嫌われる
それ以上にこの女(ヒト)には嫌われたくないと思えた


「なら、理由はいらないから送っていくよ」

「申し訳ないですよ」

「女の子がこんな時間に歩いてるんだ心配なんだ、それか僕じゃ怪しいなら近くの交番でお巡りさんに送ってもらう?」

「そっそんな!わ……わかりました、お願い致します」

深いお辞儀をした彼女の瞳はやはりウサギみたいに赤かった
うさぎの女の子、心の中でそう彼女を呼んでみた、しっくりとくるではないかと思えた
色白の涙で目を赤くさせた愛らしい小動物
怯えたような小さな肩に、細い指先、お洒落な洋服はデートの後なのかと思える
デートの後、いや…振られたか。等と失礼ながら思うのは彼女の見た目と涙のせいだ

話をせずに足を進め続けた


「…お優しいんですね」

「そんなことないよ、困った女の子は見過ごせない」

「貴方みたいならよかったのに」

「彼氏のこと?」

坂を登りながらそういった、隣の頭が小さく揺れて頷いた
「あぁ酷い男もいたものだね、僕なら君を捨てないのに」
いつもならきっとこんな言葉が出たのかもしれない、けれど何一つ軽口は叩けず、真剣に話を進めていた

「えぇ、やさし…かったんです、私がダメだったの」

弱々しい彼女は今にも死ぬのではないかと思えるほどだった、涙を堪える彼女が足を止めたマンションで別れを告げる

「ここかい?」

「はい、有難う御座いました」

「どう致しまして、女の子は夜道は気をつけるんだよ」

足をまた進めようとすれば力の反動に足を止める、彼女の細い両腕が掴んでいた
ウラタロスの手首を、また赤い瞳でうさぎみたい。同じことばかり頭を過ぎる

「あの…家に来てくれませんか?」

彼女は狼に思えない、まして狼になるつもりも、断れずに何も言わずマンションの中に入った
エレベーターは8と押され、ずっと2人は静かに、鍵を開けて部屋を入っても何も言わず
テーブルには書類が数枚とビールの缶が1本、服は床にチラホラと散らばりながらカーテンは半開き、女の一人部屋に夢を見てはない

「シャワー浴びます?」

きっとまた泣いているんだろうと思った、一人になりたいのに心は孤独を嫌がるのは人間の性だ
寂しくてたまらず、誰か甘えたいのに誰もそれを許さない、苦しくなりいつかそれは悪い方に崩れる
洗濯機の上に置かれているTシャツとスウェットは少しこの体では大きい程だった。
ソファーの上で横になる女の目元はまた赤くなっていた、泣き疲れたのだろうと思い抱き上げ、寝室に入りベッドの中に彼女を入れる


「おやすみウサギさん」

誰も君を抜かすことなんてないよ。だから悪夢なんて見ないでとどこかで祈った
数秒してから声が聞こえた

「いて、くれたんですね」

「うん、シャワー借りたよ」

「えぇ、お洋服入ったみたいでよかった…」

嬉しそうな声だ、服からは薄いタバコの匂いがしてあぁ男のものだとよく理解できる
別に男持ちの女に手を出すことなんてよくある事だ、好きになったらどんな相手でも関係ない
だが今の彼女はなんだろうと思えた


「私、猫を飼ってたんです…小さな頃から飼ってる猫、かわいい三毛猫で名前はカメタロって」

「猫なのに亀なのかい」

「…うん、小さな頃あの三毛猫の柄が甲羅に見えたのかも、ねぇお兄さん」

「なんだい?」

「入ってきて、足が寒いんです」

布団をあげて彼女は誘った、困ったように笑ってその布団の中に入りながら話を聞いてやった
分かっていたのだ、この家の中には猫のおもちゃもトイレもご飯も何もかも揃っていたのに
猫は存在していないのがおかしいと思った

「19歳でした、人間でいえば100歳は超えてるのかな?」

「長生きだったんだね」

「うん、その子が数日前亡くなりました…仕事もご飯も手付かずで、彼との仲もダメになっていって、今日家に来てくれたんです…でも、カメタロを失くした私は辛くてあの人を拒絶したの、わかってたんです」

人間は弱い生き物だからなにかに縋りたかったのだと
けれど敵意を出してしまい、威嚇してしまった、その後は男と言い合いを続け、結局別れた
男からすればただの猫だ、けれど彼女は違う、家族だった
友であり姉弟であり、深い絆だった、それを男はきっと「たかが猫」に捉えてしまったのだろう


「わかってたんです、彼の言い分もカメタロは帰ってこないのも」

「うん」

「…ひどいですね私、最低だ」

「そんなことないよ、僕だってきっと君と同じことをする」

「優しいのは私が女だからですか」

「かもね、男に優しく出来るほど器用じゃないんだ僕は」


この言葉が他人から見て最低とも言われることはわかっている、だがこの女はそういいそうにない
隠してもその嘘はバレる気がしたからだ、言葉旨みに操ることのできない、けれど今だけその嘘さえ甘えようとするのだろう


「お兄さん、お名前を聞いても?」

「僕はウラタロス、君の名前は?」

「西沢葵です、今日だけでいいので宜しくお願いします」


うさぎの彼女は眠ってしまった、幼い子供のようだ
白い頬に長いまつげと赤い瞳
寝息を立て、薄く開いた唇はハナの子どもの姿を思い出す、猫は君を愛していたのに。わかっていてもいいそうになる

翌朝目覚めた時、良太郎の身体からまだ出てはなかった、一晩彼女の寝顔を眺めた
良太郎は近頃の戦いで疲れていたのをしっていた、眠っているのだろう…何も言わないのだ
起き上がった彼女は恥ずかしそうな顔をしていた、寝癖を整えてシャワーを浴びた彼女の目はまた赤くなった


「ウラタロスさん、もう出られます?」

「ん?出た方がいいかい?」

「そっそんなことないです!よければ朝食…食べていきません?」

あまりいいものなんてない、平凡な朝食だ
ホットサンドにハムエッグとサラダにウインナー、珈琲を出されたが彼女のコップはオレンジジュース
子供みたいに思えた、普段からそれなりには料理をしていたらしく手慣れてもいた
味も普通、特別美味しいと言ったわけでもない、きっとこれを二人と一匹で共にしたのだろう、今朝のニュースを眺めながら、彼女は口を開いた

「ウラタロスさん」

「なんだい」

「また朝食食べに来ませんか?」

「うん、是非」

「えぇ、今度はもっと腕を振るいます」

そう笑った彼女に恋をした
いままでにないほど情熱的だった、思わず内側で苦笑いを浮かべる、さぁ最後にコーヒーを飲み終えたら早くでなければ
目覚め始めた他のイマジンたちが騒がしくなる、それに良太郎もだ、そうすればハナがやってきて全員雷を落とされる

「楽しみにしてるよ葵ちゃん、僕は先に帰るね」

「はい、また会えたら」

きっと彼女はまだ理解しない、それでもいい
どうせ毎晩遊ぶふりをして探せばいいのだ、ウサギさんを追いかけるのはカメの役目だ
そしていつしか追い抜いて、君が来ることを祈ろう
一人の男として決して泣かせないために。








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