九条貴利矢
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いつ見ても薄暗い場所に見るも無残な形に変えられた者も美しいほどの、眠ったようなものも
死体であり送られてくる、それらを相手にしながら死体を見つめる
いつかそこに寝そべる自分に同じように監察医はどう思うのだろうか、ふとそう思った
重たい足取りで深夜3時過ぎ、ようやく終えた仕事にため息を深くつきながら慣れた道を歩く、病院から近いそれなりの大きさの花屋、電気は消えている、その隣の階段を上がり不用心に開けっ放しのドアを開けて部屋に入る
上に羽織るのも面倒で手に持っていた赤色のジャケットを床に投げ捨てて、サングラスも適当にテーブルにおいて
シャワーも食事も知らないふりをして寝室を開けベッドに入る
暖かな体温、小さな寝息、呼吸する度に小さく動く身体、全てに小さく安心して手を伸ばし眠る彼女に口付ける、苦しいことも気にせずに貪るように、少しずつ身体を寄せて上に軽く跨って
薄らと開いた目が見つめたのを見て小さく笑う
「おかえりなさい貴利矢くん」
「ん、起きちゃった?」
「そりゃあ、こんな事されたら」
「…ちょっとだけだから」
文句も言わずに毎日身勝手に来ては求める
母性が働いてるからか何も言わずに受け入れて、愛してるとの言葉も吐けずに見つめる
ベッドの中で横たわり余談に浸る彼女の身体が外の光に少しだけ晒されて淫らに自身の目に焼き付く
白に汚されて、赤らんだ頬も、血色のいい唇も、水分を溜めた瞳も、どこまでも自身を興奮させるものだと感じた
子供のような歳でもない、逆に結婚していてもおかしくないくらいの歳だ、それでも関係なく求めては
恋人でもない2人にこんな真実があるのならばきっと否定的な言葉が落とされる
監察医と花屋の亭主
バグスターとなった男と、元感染者の女
結ばれることも結ばれないこともない、ただ普通の男女だ
求めては苦しんで愛だとも考えたくないと逃げた
「あ…寝てた?」
「うん、おはよう」
花の匂いに包まれて目を覚ます、えらくハッキリとした脳でこの場所と何をしたのか、仕事の有無などをおもいだす
人の黄色のお気に入りのアロハシャツに下着だけの葵に気にすることもなく下着1枚なのはどうかと考えてベッドの下に落ちていたジーンズに手を伸ばして履く
「今日ご飯食べていく?」
「うん、自分今日暇だし、葵さんは?」
「今日はCRとゲンムさんのとこにお花届けに行くよ」
「送ってこうか?自分も行くし」
「ありがとう」
寝癖のついた髪と戦う彼女を横目にリビングに向かい冷蔵庫の中にある牛乳と食パンに余り物のおかずを出して好き勝手に電子レンジで温めた
いつも使っている黄色のお箸を取り、テレビをつけて見つめる
時刻はもう11時をすぎて6時間ほどは寝たのかと小さく思い、隣の部屋で今度はメイクをする宿主をみた
「スカート履くなら、こないだの黄色のスカートがいいと思うけど」
「なら赤色のスニーカーにしよっと」
小さく呟いた彼女は嬉しそうに笑ってリビングに座ってコーヒーを一口
「…これ貴利矢くんがいれた?」
「うん、おいしいデショ」
「糖尿病になるよこんな甘さ」
見た目に似合わずコーヒーはブラックだったっけかと思う
メイクも終えて着替えた彼女の寝室に戻りタンスの下から2番目の左側に何着かあるアロハシャツに袖を通す
大きな欠伸をして一階に降りて店に降り彼女が
ただいま出掛けてます
なんて書いた紙をドアに貼ったのを見ながら停めてあったバイクを奥から引っ張り出す
自分がバイクとは流石に言えずに持ってこれば手馴れたようにメットを被った葵の細い腕が回ってきた
腕には複数の花束、風と共に散らないようにしっかりと袋をしていた
ゲンムの元については受付が見ればすぐに理解して社長室にいますよ。と一言
「最近黎斗くんってばリクエストが多くて、今日は紫がいいって」
「ふぅん、あの社長さんも葵さんには甘いからなぁ」
「そんな事ないよ、黎斗くんは女性みんなに優しいだけだもの」
音が鳴ってエレベーターが止まり、入ってみれば黎斗は何やら熱心にパソコンに向かっている
家に来たかのように寛いでソファに座る貴利矢のことも気にせず、枯れそうになった花たちをまとめて透明の花瓶の中に花を活けていく
女性の秘書がテーブルにコーヒーを二つ置いて、手早く砂糖とミルクを全部入れた貴利矢
「黎斗くん、コーヒーもらうね」
「あぁ、すまないな葵今日はいいアイデアが浮かんで止まらない!止まらないぞぉ!!この私の才能が!」
「うんうん、過労死しないでね」
姉と弟のように話してはコーヒーを飲みおえた葵とつぎはCRかと思いながらバイクを走らせる
背中に伝わる鼓動や温もり、生きてると感じる安心感、実質生きてるのか死んでるのかわからない自分に不安を時折覚えそうになる程だ
「みんないないみたいだね」
「この時間小児科も、あのセンセも忙しいでしょ」
「…お花、貴利矢くんは気に入ってくれる?」
「……俺は好きだよ黄色と赤」
小さく笑う度に心が高鳴る、共にいたいと小さく願えてはため息をつく
誰もいない場所には用もなく店も開けねばならないからという葵に送るよとだけいい、出ようとする
「あれ!貴利矢さん、葵さんも」
「お、永夢少し送ってくるから」
一言二言だけ告げてバイクに跨るメットをかぶってまた背中から腕が回る
用事があると言われ少しだけ遠くにバイクを走らせる
車の数は少ない、人も少ない昼下がり
「…好きだよ」
「俺も」
バイクの音にかき消されながらそう互いに言った
知らないふりをして、これ以上の関係は望めないからと言い訳をして
バイクから降りた葵はいつも嬉しそうだった
「じゃあね貴利矢くん」
手を振ろうとするその手を取って別れを告げた唇を塞ぎ込む、外だとか何もかも関係ないからと思えて
すべてはいつも通りの嘘なのだと言い訳したらいいのだからと言いたくなって
「……自分、我慢出来ないみたい」
絞り出した言葉は余裕もなくなって
けれど年上であるからか葵さんは嬉しそうに余裕混じりに笑って、小さい両手で頬を包んでキスをする
「結婚しよっか」
一緒になりたいことなんて、ずっとバレてたらしい
好きだとも言わなかったのに
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