風切大和
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「いやぁ今日もごめんね?大和くん」
そういって両手を合わせて小さく笑ったアムの荷物はタスク・大和・レオの3人の両手を塞いでいた
珍しく五人揃って出掛けようと提案したアムに従ってたまには…とでかけた結果
結局はアムの買い物に四人が付き合わされたようなもの、お気に入りの服屋さん、お気に入りのメイクショップ、お気に入りの靴屋さん、お気に入りのお茶屋さん
セラの分の買い物もなんだかんだアムの手により増えていき、荷物を持とうとしたその手を阻止するためにかカップに入ったアイスを持たせて食べさせていた
「…人の悲鳴?」
「え?」
「んなもの聞こえねぇけど」
「尻尾も反応していないし」
「兎に角全員でいってみよう」
セラの優れた聴覚が拾ったとなれば嘘ではないだろう、前を走るセラに続き全員で走り出した先に見たものは異様な光景だった
散歩をする犬が飼い主のいうことも聞かずに引き寄せられ、猫は腹を出しゴロゴロと寝転がり、鳥達は美しい音色を奏でる
「はぁ…私ダメかもぉ」
アムの声
「なんだこれ!スゲェいい匂い」
レオの声
「…すごい心地いい音」
セラの声
「こんな心地よさ初めてだ」
タスクの声
「………葵ちゃん?」
大和の声
走り出したレオに続いて我先に!とジューマンである4人が今にも人間体からジューマンの本来の姿に戻りそうな程に行こうとした
大和は顔を青ざめさせてそんなベンチに座る一人の人間の元に向かった
「なぁなぁ名前は?」
「ねぇねぇ撫でて?」
「もっと貴方の音が聞きたい」
「僕とゆっくり時間を過ごそう」
なんてこった…その一言に尽きる
周りの動物の飼い主たちや街を歩く人間全員がそのベンチに座るひとりを見つめる
平凡そうな女一人、セミロングの黒髪に花柄の白いスカートを履いた女性
「葵ちゃん」
「大和くん、こんにちは」
「じゃなくって…これ」
「うん、どっどうしよ」
困ったように眉を下げた彼女の首にはいつも付けているはずのネックレスがなくなっていた
「アレは?」
「病院に忘れちゃったみたい」
「ダメじゃん、兎に角今すぐ走って取りに行こう」
「ごめんね、先月ぶりに会ったのに」
そう笑いながら手を取った彼女に今にも理性がちぎれそうになる、それは動物の本能を引き出されるからだろう
人間以外の動物を完全な魅了状態にする、それが彼女東坂葵だった
小学校4年生の頃に出会った彼女は昔から異常なほど動物に好かれては囲まれ身動き一つ取れなくなる、たまたま旅行から帰ってきた彼女の父が渡したネックレスはそんな不思議な体質を抑えるパワーを秘めていた
それ故1日もまして一瞬でも離すことはほとんど無いはずだが
「お仕事の時は安心させたりとかするから軽く外しちゃったりしてて」
「はぁ……ったくもうビックリした」
「そういえば、そちらの方々は?」
そう言われた途端に大和はふと固まり、後ろを見る先程まで目を蕩けさせ彼女にベッタリとしていた4匹が恥ずかしそうに立っていた
記憶があるが本能には逆らえないということなのがよく分かってしまう、レオやアムはノリというものでなんとか出来る時はあるがプライドの高いセラや普段常識人として自分をよく成り立たせるタスクからしてみれば大変恥ずかしいものなのだろう
「左からレオ、タスク、アム、セラ…今俺と一緒に動物のことで保護したり調べたりしてて、おじさんとこに泊まらせてもらってるんだ」
「へぇ、私は東坂葵です、大体この街の獣医さんたちのお手伝いしたり、保護したり…色々しています」
深々とお辞儀をした彼女に挨拶をして、兎に角荷物があるからといいその場を別れる
そういえば数週間ぶりだった、葵とはほぼ毎日あっていた
彼女の仕事は動物に関すること全般だ、勿論獣医師としての能力は存分に持っている、それこそ様々な面で望まれているほどだ
博識である種憧れも抱いていた、だがあの体質で少し抜けたところがあるせいか動物も時には人間さえも虜にしてしまう
「そうだなぁ、いつも来てくれてたが大和がいないときだったしなぁ」
「それを言ってよおじさん」
「いやぁ、連絡とってるかなって」
悪気なく笑う彼に文句を言うわけにもいかず確かに暫く忙しく(様々な意味で)会いに行ってもなかった自分が悪いのかと思った
上の方にいるレオは時折小さく葵さん…と呼んだ、あれは恋に落ちたな。と思えた
セラもアムもタスクもみんなそうだ、忘れられないようなどこか少し浮いた様子だが、その想いの先がよく分かってしまう
動物であるからだと言えばそうなのだが、厄介なものだったあの時ネックレスを付けていればここまでにはならなかった事だろう
「彼女は獣医なのか大和」
「まぁそんな所かな」
「……素敵だな」
ダメだタスクまでこうなってるなんて
今頃彼女はのんびり仕事をしているというのに…そう思いながら次の日も四人を終えて仕方なしに買い物をすれば猫が四、五匹歩いているのが見えた
先頭にはスーパーの袋を持った葵、首元には赤い石のついた頑丈そうなネックレスだった
不思議な力を帯びるあのネックレスは何処で手に入れたのかは知らないものだ、だが葵自身をよく守ってはいた
「葵」
「わぁ大和くんだ」
「猫にご飯?」
「そう、この子もうすぐ産まれるからしっかり栄養与えてあげなきゃね」
そういって抱き上げた猫は野良猫と感じさせないほどに大人しく大きなお腹に手を伸ばしそうになるが威嚇をし始めたのを見て引っ込める
「大和くんなんだか変わったね」
「変わった?俺が?」
「うん、素敵になったなぁって…好きな子でもできたのかなって」
思わず盛大に咳き込みそうなるのを堪えて見つめれば目を細めて笑う葵がいた
実のことを言えば昔から一途に好きなのは彼女だが言えるわけもない
ベンチの上に座りながら猫に囲まれる姿はなんだかとても落ち着いた
「かも」
「そっか、叶うといいねその恋…昨日の子?」
「…じゃない、けどありがとう葵のこと好きだよ」
「ありがとう、大和くんにそういわれると自信がつくね」
なんて言いながら笑う本音はいつも知らないふりなのか分かってないのか、こういう時女性はずるいと思える
ベンチに座れば猫が数匹反対側に逃げて彼女の足に擦り寄る、ゴロゴロと喉を鳴らして
「今日は一緒にご飯していい?」
「いいよ、きっとみんな喜ぶから」
きっとこの恋心だって彼女からしたら動物の本能を無理矢理引き出されるからだ。なんて一蹴されることを予想しながらスーパーの袋を持った
少しだけ赤くなった頬だってきっとただの喜びだからといって。
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