宝生永夢


余裕が無いというのは自覚している、年上で綺麗で周りを見ても男ばかりで、好んでなっている訳では無いのは理解している
男をはべらかして遊ぶようなタイプでもない、それでもモヤモヤとした気持ちは強い、それを分かってながらもう一人の自分であるパラドでさえ困らせた

「永夢先生、何か今日は考えてるの?」

病院での今日の仕事を終えたのかCRにやってきた葵がコーヒーを人数分入れる、気にした様子で心配そうに声をかけた彼女にそんなことを言えるわけもなく「いえ、大丈夫ですよ」等と意地を張るようにそういえば、そんなこと気にした様子もない自称神が葵のコーヒーを受け取って話をしていた

「葵、君も今度是非来てくれ、君のために私の才能を見せよう」

「ありがとう黎斗くん、あんまり危ないものは作らないようにしてね」

大声で笑いながらも自然と葵の手を握る幼馴染の男にさえ嫉妬して
自分は年下なのだからそれこそ焦っては余計に子供に見られるなんて思っても目は自然と彼女を追いかける、それを分かっている貴利矢には毎日のように苦笑いをされた
素直にになるのが苦手なわけではないが、男としてのプライドだろう、今までは恋人が年下でも同い年でも年上でも気にしたこともなかった、それはタイプが違うからだろう
年上の女性は尽くしたがる傾向にある
その為に異常に甘やかされた、結局はいうことの聞く犬のような存在になってしまう訳で自然と冷めては別れてしまう

「永夢くん、今日は寒いからお鍋作ってるから早く帰ってくるんだよ」

CRから出る直前に優しく笑って手を振った、痛いほどの視線が浴びせられてポッピーのからかいとパラドと黎斗の嫉妬、飛彩(上司)からの痛い視線全てが突き刺さった
少しばかり気にしながらも夕飯のことを考えては心を躍らせる、それでも今頃また色んなところに車を走らせてるのだから変なことに巻き込まれていたら、絡まれていたら
悪い考えばかり起きてしまう、恋人だからというわけでもなく彼女はそれなりに綺麗な人だ、良く笑い話し方も丁寧で優しい、柔らかな雰囲気は人を癒した

「…だからなんだよなぁ」

「それでも永夢のカノジョなんだから文句言うなよ」

「机の上に座るなよパラド…そう言ってもやっぱり葵さんに下心ありで近づくような奴らを見てると虫唾が走るに決まってるだろ」

部屋に戻った黎斗と仕事に戻ったポッピーと飛彩と貴利矢
机の上に座って声をかけてきたパラドは近頃小児科の手伝いをしてくれている、自分自身でもあるパラドには感情や考えが共有されやすい、特に向こうから見れば丸見えなのだろう、自分でありながら何故見れないのか不公平だと文句を立てたくなる

「よくわからないな」

難しそうにいったパラドはまだまだ子供だ、遊んで暴れて感情的になって疲れたら寝る
永夢との関係があるためか言うことは聞きやすくはなったとは思う、それでもやはり子育てをしてる気分にもなった

「お前だって僕以外に葵さんが…例えば黎斗さんとかが葵さんのこと奪ったら嫌だろ」

例えの話だが、時折思ってしまう昔からの友人同士とはいえ黎斗の目はそういった目をする
葵を女として見るような、だからこそ隣に並ぶだけでも胸が張り裂けそうな程に心配になる、異常だと分かりながら心の狭い自分を妬む

「嫌だな、でも俺は永夢だから許してるだけで葵を手にしたのはズルいって思ってるからな」

「…なんだよそれ」

「俺だって葵が好きだ、ずっと昔からあの日俺を見つけてくれた時からずぅっと」

椅子の上に体育座りしながら嬉しそうな顔をしたパラド、何も知らない間に出会ったパラド
葵の優しさに絆されて恋だと勘違いしてるんだよ。と冷たく言い放つ、そんな事ないと子供のように拗ねたパラドに小さく謝る
どうしてこんなに狭くなるのか、人間はほかの者を愛するとそれ以外必要としなくなる悲しい生き物だと思えた

仕事を終えて白衣を脱いでジャケットを羽織る、病院から一番近い花屋に歩いて向かって早5分
言い合ったパラドに内心また謝っても何も聞こえなかった、チャイムを鳴らすこともなく花屋の隣の入口から二階に上がって入っていき、花瓶の下に隠れている鍵を使ってドアを開ける
少しだけ暖房が効いてるのを感じるが声は聞こえないためまだ下にいることを理解する

「ただいま」

誰もいない静かな部屋にそう告げて荷物を置いて慣れたようにジャケットを掛ける
テレビをつけてニュースを眺めながらゲーム病患者や小児科の子供たちを考える
バタバタと音を立てて扉が開いた

「おかえりなさい永夢くん、ごめんね近くの橋本さんのとこまでお花届けてて」

「ただいま、葵さんもおかえりなさい…ってそんな薄着でいってたんですか」

「近いし忘れてたから走ってたの…すごい寒いねぇ」

のんびりとそういいながらも彼女の耳や手は寒さで赤くなっていた、走ったのか小さく息を切らして
いつものラフなシャツにジーパンだけの彼女の足を見れば靴下も履いてなく、この調子では靴も急ぎのためにサンダルかなにかで言ったのが予想できる


「もう11月なんですから、風邪ひいちゃいますよ」

「そうだね、でも永夢くんが帰ってきてくれるからおかえり言いたくて」

「…気をつけてくださいよ、看病くらいしか出来ないんですから」

文句もこれ以上言えなくなって子供みたいに満面の笑みを見せた彼女と横並びに夕飯の支度をした
とはいえ包丁もまな板も一つで、野菜を切ったりする程度なので特に必要なわけもなくご飯を炊いたり、指示通りに鍋に出汁を作ってアクをとったりする程度

「黎斗さんとどこか行くんですか?」

「今度ゲーム開発の件でゲンムコーポレーションまで少し御一緒にって、ほらあそこの社長さんまだ黎斗くんのこと警戒してるから」

「…ポッピー連れていけばいいだけじゃないですか…あっ」

思っていた言葉が漏れて、隣を見れば目を丸くして永夢をみる葵がいた
しくじった…なんて思えて、言い訳を考えるも浮かばずに何かを言おうとする前にまるで子供をみるように微笑んだ

「嫉妬しちゃった?」

悪戯を含んだようにそういった彼女に言い返すことも出来ずにアクの消えた鍋を見つめた、隣に来て野菜を入れていった葵が全てを入れ終えて手を水で洗う
タオルで水分を拭き取ったあとにその冷たい手が永夢の頬に触れる

「嫉妬するんだね、永夢くんって」

「いつもしてます」

「永夢くんにいいこと教えたげる」

「なんですか?」

「耳貸して」

背の小さい彼女に合わせるように屈んでみれば耳にそっと言葉が漏れて目を丸くする
また彼女は微笑んで、鍋の蓋を取るために離れた、年上だどうのではなく彼女自身に己はこれからも振り回されてしまうのだと感じながら自然と頬を緩める


『分かっててしていたら嫌いになる?…なんてね』

冗談だとしても面白いものでそっと彼女の手を握って溜まった唾を飲み込む

「あんまり困らせないでください」

ようやく出た言葉がこんな精一杯なんて自分でも思わなかった


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