グラファイト




「雨、大丈夫ですかね」

「黎斗くん傘もっていかなかったから」

「そういえばパラドくんがいないですね」

静かなこのアジトの中で女は一人で話した、会話をするわけでもないのに彼女は出入口に立つグラファイトを見ては話した
もう時期この居場所もバレる、檀黎斗はゲーム完成に必死に足掻いている、パラドは楽観視するように遊び呆けていた、今頃宝生永夢について考えているのだろう
外は大雨で、バケツを逆さにしたような天気だ、この場所に連れてこられて1週間弱ゲームの切り札となるこの女がクロニクルの起動に必要だと言われ、連れ去った
勿論ドクター達の動揺は激しいものだった、本人は何も気にした様子もなく毎日渡される食材で食事を作りバグスターであるパラドとグラファイトの身体さえ気遣った

「グラファイトさんは無口ですね」

「…話すことがないだけだ」

「あ、ようやく話してくれた」

驚いたように軽く目を丸くしてそういったあとに微笑んだ彼女はこの薄暗い何も無い部屋でただ来る日を待っていた
助けられる日を、動く時間を待っていた
クロニクルが出来上がった時彼女はゲームのメインでありクリアの為の道具となるのだ、それがゲームを作り上げた檀黎斗の設定だ
愛したお姫様は、この世で一つの幻の剣、それがなければ何も誰も倒せないこの世界の最大の敵を、ゲームのクリアを

「黎斗くんたち遅いですね」

「お前は、ここに来てから何一つ文句も不安もないのか」

普段私語のないグラファイトが表面では人質のように捕まえた女にそう気にかけるように声をかけた
毎日黎斗とパラドに挟まれては振り回され、泣くことも怒ることもせずわかったような顔をした
黎斗がゲンムであり、全ての元凶になったとはいえ幼馴染のしでかした事だと丸め込んだのか
不思議でたまらずにそう問うた

「ありません、きっと黎斗くんだって何か考えてるから…あの人の夢のためなら私なんてどうだっていいんです」

そんな偽善ぶった言い方にきっと正反対の彼女から生まれたバグスターは嫌悪するのだろう
何も話すことはなく横顔を盗み見る
儚い悲しい瞳、一つに結ばれて言葉を発しない口、何を耳に含むのかわからない耳、感じているのかわかりもしない鼻も全てがどうでもよかった
グラファイトの願いはただ一つ強者との本気の戦い
それ以上望むことのない悪役として、ゲームキャラとして産まれて死ぬだけのこと
だからこそ人間には感情移入もできなかった

「黎斗くんが本当に悪い人だなんて思ってないから、パラドくんもグラファイトさんだって」

「悪役か…たしかに俺達はゲームのキャラクターだ、だからこそお前を拉致しただけだ、お前のその中に眠る鍵が剣が、俺たちを刺し殺し全てを終わらせるんだ」

力強くそういう、まるで彼女は自分たちにとっての脅威である、彼女の決めた通りに剣が現れた時にそれでゲームを壊すだけだ
ゆっくりと近づいて葵の胸に人差し指を置いた

「お前が、俺達を殺すんだ」

まるでそれは自分自身の存在ができた時に決まっていたように、この女が自身を殺す刃になるのだと
それに対して何一つ思わなかった悲しいことも恨むことも、バグスターは死ぬ事がない、どこかでそう信じていたからだろう

「じゃあ、私がもし死ぬ時にはグラファイトが…あなたが私を殺してください」

子供の約束事のようにそういった葵に目を丸くしてグラファイトは小さく笑い始める
変わった人間だと思った、檀黎斗のような男を慕っているのだからわかってはいたが、面白いと思えた

「あぁお前を殺すのは俺でいよう」


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