パラド






近頃宝生永夢は悩んでいた、自分自身の仕事や疲れなどではない
ほかの人間と違いもっと難しい部分だ
分離したバグスターウイルスであるパラドックスとは二人で一人だった、考えだって手に取るように分かるし心だって同じように
パラドを理解しようとして心を許してしまえばお互いが共有され合う

「葵〜!!」

CRのエレベーターが降りて、ほのかな花の匂いが訪れる
その人物が挨拶をするよりも先に飛びつくように走り出した一人の男、いや男の見た目をした少年はまた今日も差し入れの花をテーブルに置いて、仕事をさせずに椅子に座らせる

「パラド私お花しなきゃ、院長さんに頼まれてるし」

「大丈夫だ、俺がしといてやる」

「ダメダメそんな乱暴に扱ったら、もー…パラドは仕方ないのね、隣に立って教えてあげる」

五月蝿いほどに高鳴る心音に浮かれる声、そうだ半身でもあるパラドは人間である西沢葵に恋している
けれど相手は年上で、誰に対してもあのような態度だ
実際パラドはこの気持ちを恋という部類とは理解していないのだろう

「エム、恋ってなんだ」

ある日の非番の夜、隣でお互いに格闘ゲームをする中でそういったパラドに驚いていればコマンドミスを起こし、そのまま形勢逆転からのパラドの勝利
第二試合が始まりまたお互いにアナログスティックをうるさい程に鳴らしてキャラクターを動かした

「恋って…っていきなりなに?」

「ポッピーが俺は葵に恋してるって言うんだ、よく分からなくてゲンムに聞けばときめきクライシスみたいなものだって」

「あの人に聞くのが間違いだよ」

ゲームと現実は違う
恋や愛はそれこそ難しくて苦しく悲しく嬉しく、喜怒哀楽が何よりも現れる人間の魂の物だろう
生存本能のために互いを求め合うのが人間の本能だとしても、気持ちというものは人間としての本当の心だ
それを持つならパラドたちバグスターだって結局人間と何一つ変わらないのかもしれない

「パラドは葵さんと一緒で楽しい?」

「当たり前だ、エムやグラファイトやほかとヤツらだって」

「あー、質問間違えたかも…なんていうかその、例えばさ誰かが葵さんとこと連れ去ったら?」

子供に対しての例え話というのはなんだろうとやはり難しいな、と思った
赤ちゃんはどこから来るの?なんて質問にせよ、どうして人間はいるの?とか天国と地獄ってどこ?とか空想と現実の狭間の中で挟まれる大人は何とか子供を理想のフィクションへと案内しようとする
突然セレクト画面に戻り、パラドが固まった、不安という感情でいっぱいなのか永夢にさえ流れていった

「…俺」

「ちょっ!パラド?」

突然バグスター特有のワープをしていったパラドに深いため息をついてゲームの電源を消す
何度呼んでも反応もなく、感情さえ感じないのだから拒絶しているのだろうと思いながらため息をついてスマホを開き[西沢葵]と表記される名前をタップして、メール画面を開いた


「いらっしゃい、パラド」

花の匂いが充満して、体の隅々まで癒していくように感じた
椅子に座りながら珍しく眼鏡を掛けて本を読んでいる彼女が驚いた様子もなく、慣れたように微笑んだ

「どこかにいくのか」

今にも泣きそうなほど震えた声を出すパラドに小さく首を傾げた
置いていかれた子供のような、永夢に遊んでもらえなかった時のような、なんとも言えない子供の顔をする彼をみて、立ち上がり手を引いてソファーに座らせる

「ご飯食べた?」

「エムと唐揚げ食べた」

「いいなぁ、今晩は鶏肉の甘酢あんにしたの、鶏だけは一緒だ」

クスクスと小さく笑う、そんなことを話したくて来たわけじゃないのに永夢の言葉の結末が怖く言葉があまり出ずに自分の足元を見つめた
小さなマグカップが置かれて甘いミルクの匂いがする

「ミルクティならパラドも飲めるでしょ?うちココアとか無くて」

「あぁ…」

一声かかって隣に座る彼女の顔も見れずにいれば、そっと手が触れる
固まって言葉を発したくても何も言えずに口を開け閉めしてしまう

「どうしたの?なにかあった?」

困ったような寂しい顔をする葵にパラドの胸は張り裂けそうな程にいろんな感情でいっぱいで潰れそうだった
涙が出そうな程にいっぱいで小さく名前を呼んだ

「なぁにパラド」

絵本を読むように、子守唄を歌うように、優しいし彼女の顔がいっぱいに広がった
腕を伸ばして背中に手を回して力いっぱいに抱きしめて今にも消えそうな泣き出しそうな声でいう

「俺は、葵が誰かと行ってしまうなら、一緒に消えたい」

「パラド?」

「エムだって他のみんなだって好きだし大切だ、けど…それでも、葵が居ないなら俺はもう二度とゲームを楽しめない」

体格差があるせいで葵の頭に顔を埋める、太陽のような温かい匂いが鼻をくすぐり
小さく回された背中の腕が心地よく

「パラド」

もう何度目かの名前を呼ばれて少しだけ距離を開ければ顔が上げられる
顔も耳も首もすべてを赤くした少女のような顔をした彼女がいて、それを隠すようにパラドの胸に顔を埋めて服を掴む

「どこでそんな口説き文句覚えたのさ」

小さく聞こえた声になんと返答すればいいかわからずにいれば、また腕が伸びてきて頬を掴まれて柔らかいものが重なる
唇だと感じて目を開いて見つめる、心地良さにもう一度と何度も重ねるだけのそれをして、離れたの名残惜しくみつめる

「その気持ちはきっとね、好きってことだと思うの、人間が持つ愛っていう」

「…愛?それは温かいんだな」

「そうだよ、パラドしかもたないあったかさなの、時に冷たくもなるし苦しくなるしもっと熱くなる、けど特別なものなんだよ、パラドしか持てない小さい炎だから」

「俺の炎?」

「そう、消すのも付けるのも自分で出来る素敵な炎でその炎の真ん中でいつもパラドの想う人がそこで生きるって愛ってのを教えてくれるの」

子供への言葉のように美しく、何よりも優しくそういう彼女の言葉が胸に降りたのか小さく呟く
バグスターとして生まれた彼からすれば人間の感情はまだ難しい部分が多いはずだ、けれどもその中で嫌だと思うものはなかった、人間のように生きる楽しみを知るから

「なら俺の炎の中にはずっと葵がいるんだ、それはどうしたらいい?」

「どうしようも出来ないの、炎が消えるまでずっとそのまま…でもねパラド、私も同じだよパラドが私の炎の中にいる」

小さく笑った彼女に目を丸くしたあとに、釣られたように笑う
同じようにクシャクシャな顔をして

「それは心が躍るな」

「二人の炎が合わさると大きくなるから、消えないようにこの炎をもっと大きくしてみよっか」

「あぁそうだな葵…あと、もう一度さっきのしていいか?」

「…うん」

小さく回された腕に安心するように微笑んで唇を重ねる
炎はまだ着いたばかりだ、消えることは当分ないことだろう








宝生永夢
宛先:西沢葵
件名:なし
本文:パラドがもしかしたらおじゃましてると思います、今晩だけでも良ければそちらでお預りしていただけるよう、お願い致します。

西沢葵
宛先:宝生永夢
件名:なし
本文:パラド来ましたよ、色々ありまして付き合うことになりました、明日CRまで送っていきますので御心配なさらず(写真付)

宝生永夢
宛先:西沢葵
件名:なし
本文:パラドから報告聞いています(笑)おめでとうございます、これからもご迷惑おかけすると思いますが宜しくお願い致します(土下座絵文字)

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