浅倉威






胸の中で倒れた男を見て深々とため息をついた、これからじゃないかと思いながらテーブルに転がったテキーラをみて唇を窄める

「おい、飯だ」

この男と出会ってから散々な気がしなくもない、いつも少しなにかの匂いがする男を二つ返事で承諾して風呂場にぶち込み夕飯の支度をする
質より量をモットーにした男故に適当な料理でも許された、共に夕飯を終えて風呂を終えて帰らない男にまた朝まで居座るつもりかと思いながらふと思い出す
現在自身の会社が差し押さえを食らったOREジャーナルの編集長である彼からつい数日前に70年代のテキーラを貰ったのだ

「俺あんまり家で飲まないし、ほら真司もあれだろ?葵ちゃん飲むなんて言ってくれてたから」

どうやらある日話をしていたことを覚えていたらしい彼はそういって年代物の差し入れでもらったらしい洋酒を渡してくれた

「浅倉さんお酒飲みます?」

返事もなく食べたばかりで眠たそうな男、浅倉威はワンルームの部屋の場所ばかりを取るベッドに寝転がっていた
相変わらずよく思考が読み取れないと感じつつショットグラスを2つ、適当な入れ物に氷を入れてテーブルの上につまみと置いた

「もう…たまには晩酌くらい付き合ってくれたっていいのに」

とはいえ人がいてくれるだけでも寂しくはないものだと思いながら6Pチーズの封を切って深夜になってしまったその時間にテレビ放送ギリギリの際どい話をするバラエティを眺める

「飯の匂い…おい、なにしてる」

「あ、起きたんですか?見ての通り私一人で晩酌です」

「一人でいいもの飲み食いってか」

ニヤリと笑う彼の表情はどこか色気が含められる
風呂に入った為に服はしっかりと脱いで畳まれており、浅倉用に置いていたスウェットも下は履いているが上は何一つ身につけておらずに困るものだった
そんなに男に慣れていないわけでもない葵は仕方なしにそんな彼を気にすることもなくなった、背後から手が伸びて来たと思いきやテーブルの上のツマミは消えていく

「これじゃあ私のおつまみなくなっちゃいます、浅倉さんも飲んでくださいよ」

「いらん、まずい」

「少しだけですから、ほらもう私1人だって寂しいじゃないですか」

そういう頃には意識があってもほろ酔い状態で調子に乗って、あの浅倉威に絡みついた
面倒くさくなったのかショットグラスに入れたテキーラをぐい呑みした浅倉に「なんだいけるじゃないですか」といい「はい、どうぞ」なんてまた1杯、さすれば彼もまた飲んでしまう
気づけばよかった一杯目からこの男酔っていたのだ、酒が弱いのか洋酒がダメな口なのか分かりはしないが兎も角4.5杯目に入った時には目が据わっていた

「浅倉さん?」

「…」

ぼぅっとどこを見ているのかわからない瞳でツマミを食い漁る様子もない、流石に様子がおかしいと感じてこの男も弱いものがあったのかと思えた
痛々しい火傷の傷を手で撫でながら葵のもう一声にようやく気付いたのかチラリと蛇のような瞳でみつめた

「大丈夫でっっ、んっ」

顔を覗き込みそう尋ねると浅倉の手が伸びて葵を捕まえる、流れるように自然と唇を重ねたことに驚き目を丸くしていれば、開いていた口の中にその舌が入ってくる、ザラりとした乾いた舌で蛇のような低体温
酔いにより触れる相手の冷たさが心地よく火照った体を冷ますようだった、背中を抱きしめられその拍子に葵も足を伸ばして背もたれにしていたベッドに上がる

「はぁ…浅倉さん?」

「葵」

低いその声が耳を刺激する甘い電流のようなものが脳を刺激する、冷たい手が服の中をまさぐりブラのホックを器用に外す
その合間にも腰を撫で、首筋を舐め取り、男の吐息が直に感じた
相手のことを知らない訳では無い、それこそ何処までも危険な男であり暴力に支配されている人間だ、なのにどこまでもその行為は甘く優しい、壊れ物を扱うように確かに愛とやらが溢れている気持ちになれた

「んっ、あの」

「ん?」

「本気でやるつもりですか?」

「嫌なのか、ここまでさせておいてお前もえらく焦らすな」

耳元で囁きながら浅倉の手が葵を掴んで自身に触らせた、大きく膨らんだそこに葵は本当に捕食されるのだと感じながら抵抗をやめた
下着が降りて浅倉のスウェットが脱がされた
この男を受け入れるのかと覚悟をして組み敷かれた、恐ろしくて出来るだけ見ないように手で顔を隠したと同時に突然ネジの抜けたロボットのように力が抜けて葵の上に覆いかぶさるように動かなくなった

「…え?浅倉さん」

思わず驚いて声をかけても聞こえるのは子供のような可愛らしい寝息だ
期待して火照った自身の体を慰めることも出来ずに焦らされた葵は少し期待外れだと思いながら小さくため息をつく

「今度はちゃんとしてくださいね」

そういいながら浅倉の髪を撫でつつ酒に酔って火照った体は眠気を誘い瞳を閉じるのだった。



「…馬鹿が」

電気の消えた部屋で男は揺れる頭の中で目を覚まして下着一枚になった女に優しく罵倒した
服を着せることも出来ずに自身のジャケットを取り上に被せて、また自分もベッドに入る
それでもまだ酒は抜けずに頭の痛さと気持ち悪さだけは残り続けた



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