フィリップ









フィリップくんは大胆だ、普段は静かで冷静で綺麗な顔をしていて優しい彼は時折悪魔になる
悪い人になるわけじゃない、やさしい悪魔だ、意地悪で人の心を揺さぶってはその柔らかな瞳で、唇で、人を惑わせて混乱させる


「ねぇ葵、キスが欲しい」

彼のいつもいるガレージには人はあまり来ない、けれど今は違うお客さんが来る可能性も調査に出たばかりの翔太郎くんが帰ってくることも、又はあきちゃんが帰ってくるかも
なのに彼はわかっているはずなのにそう言う、柔らかく薄い桃色の唇を差し向けて
いたずら気に笑う、内心考えてることを見透かして楽しそうに嬉しそうに


「ダメだよ、人が来たら恥ずかしい」

「大丈夫さ、翔太郎はさっき出たばかり、あきちゃんも今日は遅いみたいだし、依頼人も来る気配はない」

「そ、それでも」

「僕に我慢を強いるのかい」

そう言われると困った、仕事と言いながら自分の職業はモデルであった、男達の視線を奪い
様々な洋服に身を包み、カメラの奥で笑う、そんな人間を愛してくれる、会える時間も多くはないが休みや仕事終わりには絶対に顔を出しに来る


「…ちょっとだけだよ」

まるでダメなことをしてる気分だ、悪い気持ちになる、決して人に隠している関係ではないのに
フィリップくんの瞳はまるで魔法だ、ずっと見つめているとそれが確かに正しく感じてしまうのだ
ゆっくりと唇を重ねれば彼の細い手がしっかりと掴まれる、彼は無垢だった

検索をしてからだ、恋というもの愛というものを理解した時に求めて深い愛を注ぐ
その度にカップ(心)の中はいっぱいで溢れそうになり、手で受け止める、それでも溢れていくけれど落とさないように必死になった


「だめ、フィリップくっ」

「葵、舌出して」

「…ほんと、誰か帰ってきたら恥ずかしいよ」

「大丈夫さ、僕の葵のこんな姿誰にも見せたりなんてしないから」

だから、お願い
まるで子猫みたいな甘え方、どこで覚えたのかと問いたい、全てを許してしまうのではないかと思えるほど危険で頷いてしまう

二の腕を掴む彼の手は優しく、キスをする度少しだけ力が込められる、いまだ慣れないからなのかと思えば愛おしい

フィリップくんは子供のようだが男だった、全てをさらけ出された時思った、あぁこの人も男であるんだと
その時嫌悪ではなく、なんとなく安心したのは人間らしいと思えたからだろう


「んッ…ぁフィリップ…くん」

「…はぁ、ねぇ葵」

「なぁに?」

「気持ちよかった?」

実験みたいなものなのだと感じる、けれど純粋な彼の質問だ
もしここで否定的な言葉を取れば唇はあと何分も、何時間も離れないことになると思う
男としての意地だ!とある日翔太郎くんがいっていた。ということを聞いた時にはあきちゃんからスリッパを借りて叩いた程だ

その時フィリップくんは「僕も葵に叩いてもらいたい」といった、それ程彼の好きは変わっている
いや、元々かもしれない、けれどそんな彼が愛おしくてたまらない


「…うん」

「もう1回だけ、したい」

「……あと、1回だけね」

甘いキャンディみたい、舐めても舐めても溶けない飴ちゃん
味が変わることもなく、飽きることもない、口がふれあい唾液が交じる歯が時折当たりながらも、餌に飢える動物みたいに望んで
それが何よりも心地よくて下腹部が鳴いた、女として彼を深く愛してる


「…葵、有難う」

いつも終わったあとにそういうフィリップくんの顔は少し寂しそうだ
もっといたい、もっと求めたいと願う彼をよく分かっている、恥ずかしくて断るが彼とのキスが好きだ
けれどいつ人が来るかわからない、隣に座るフィリップくんの二の腕を今度は掴んでソファーからフィリップくんの膝にいく


「もう少しだけ、フィリップくんとキスしてたい」

「……葵、愛してるよ」


嬉しそう
翔太郎くんは付き合いたての頃からいう、私達は子犬みたいって、じゃれ合うようにけれど深く愛し合ってる。
羨ましくも可愛いと言える関係、けれどきっとこれを見られたらまた言われる、それでもいい
でも今は誰も帰ってこないでほしい、もっとこのキャンディのような唇よりも…もっとずっと、子供みたいに必死なフィリップくんの顔を、私だけが見ていたいから


「私も、大好き」






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