火野映司









ダメ人間になる。そう思ったのはいつか…火野映司という男と知り合ったのはつい最近
優しくて困った人は放っておけない、一期一会を大切にする今時珍しいしっかりした好青年
そんな彼は他人であり、知り合ったばかりの葵を良くしてやっていた


「おいしい?葵さん」

「うん、相変わらず美味しすぎて女であるのを後悔しちゃうよ」

「俺も簡単なのしか作れないよ」

困ったように笑う彼の腕前はよくみているが、バイト先の件もあるせいか彼の料理のレパートリーは途絶える気配がない、今日はどの国の料理風やらなんやらと出されるものはどれも口に合う
実際海外の料理はあまり日本人の口に合わないものが多いがそれを考慮して彼は少しのアレンジを加えて、食べやすいものにしている


「あれ、クスクシエは大丈夫?」

時刻は11時を回っていたのを見て思わず声をかける、生憎葵は平日が休みな場合が多くゆっくりとしていた
映司は時計を見たがゆったりとコーヒーを入れていた

「今日は定休日だから大丈夫」

「それならいいけどさ、洗濯くらい大丈夫だよ」

「いいって、俺がしたくてしてるし葵さんはゆっくりしてて」

お願いと頼まれては引き下がってしまう、テレビは主婦御用達番組ばかりが流れ
最近出来た近くの大型ショッピングモールについて触れていた、女性ものから男性もの大人から子供まで飽きさせないような凝ったデザインのショッピングモールには人が大勢賑わっていた


「映司くんは比奈ちゃんとデートとかしないの?」

「どうして比奈ちゃんと??」

「え、付き合ってないの?」

「俺が好きなのは葵さんだけだから」

「そっかぁ」


そこで思わず聞き流してしまったが葵は驚いてしまう、その好きは所謂男女のソレなのかと。
いや、今あの女の子である比奈に対して彼女でないの?的なことを聞いたのだからもちろんそういう意味だろうと言うよりそうでなければおかしい。
本人は気にした様子もなく洗濯物をカゴに入れて洗濯機を回し、手馴れたように掃除機を出してきてはかけはじめるのをソファーの上から考える
容姿も悪くない、性格は花丸レベル、話し方も荒々しくなく優しく、家事もできる、行動力もあり男性らしい
あれ?これは悪いとこなんてなくない???なんて思いながら時間が過ぎる


「今日何食べたい?」

「すき焼きとか?」

「なら鶏肉にしよう、牛は油っぽいからあんまり葵さん好きじゃないでしょ」

「とりすきか、いいなぁ…あっビール」

「はいはい、これでよかったよね」

買い物カートを押しながら夕食のことを話してものを入れる姿はさながら主夫だろう
鶏の値段を気にしているのかにらめっこをする彼に会計は自分持ちなのだから気にしなくていいのに。といえば「葵さん!節約しなきゃ」と怒られた
映司くんはこんな人だったのだろうか?と思う、比奈ちゃんやアンクくんの前では……普通の青年でこんなにお母さん基質でもなかったはずなのにとまたひとつ思う


「あ、シャンプー切れてたから買っといたよ」

「うん、ありがとう」

隠せるものは何も無いな、と再確認する
有難いが時折怖く感じる、悪いことではないが優しい彼に甘えてばかりだ
年下であり自由気ままな彼を縛ってないかと思いながら隣を歩く、エコバックには9割の荷物
持つよと言い続けて渡されたのはおつまみの入った小さな袋、子供以下の扱いだ
怒る気は全くない、テレビには大柄な男性とアイドルが様々なことについて触れる番組をしている
欠伸をしながら仕事用の折りたたみ式の携帯を開いて仕事での必要なメールを返信して
すき焼きのいい匂いがするのを感じながらも眠気に襲われる


「葵さん」

「……映司くん」

「おはよう」

「ん、おはよ」

「晩御飯しよう」

同じテーブルに座って行儀よく手を合わせていただきます。
映司は葵が手をつけない限り絶対に手をつけない、しっかりとした味わいに野菜の新鮮さに感動を覚えながら寝起きの胃袋に詰めていく


「そういや、映司くん私のこと好きってのはラブ的な?」

「うん、ラブ的な」

「…そっか」

「うん」

「宜しくお願いします」

顔を合わせるのが無駄に恥ずかしくなり、食事を取る
彼と共になれば毎日美味しい食事と優しい挨拶で起こされるのかと思えば何となく幸せな気がした
小さく見た彼の顔は緩みきって幸せそうだった。
その表情につられて心が暖かくなるのはすき焼きだからじゃないのはよくわかった。



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